夢からさめれそうなのです
もうすぐ夕食の時間なのです。
アインスさんにどうやって探りを入れましょうか。
直球で結婚のご予定はありますか? と訊ねて、なぜそんな事を訊ねるのですかと聞き返された場合、あなたの事が好きだから気になるのです! と答えるわけにもいかないですし。
そんなの恥ずかしすぎるのです。
何かの話題を振ってから、あたかもついでのようにアインスさんの恋愛の話題へと話を振れないでしょうか?
話題……話題……そうだ、昨日いらしたフィーアさんたちの事を話題にしましょう。
まずはフィーアさんが恋人がいたりするのかを聞いてみるのです。
ものすごい美少女だったので、恋人がいるならどんな人か気になったという事にすればいいのです。
もしアインスさんがフィーアさんを恋愛対象に考えていたら、この話題で何かわかるかもしれないのです。
私はしっかりと作戦を立てて夕食へと向かいました。
夕食の時間はあっという間に過ぎ、今私たちは食後のデザートを食べているのです。
本当は食事中にフィーアさんの話題を振るはずだったのですが、タイミングがうまくつかめず、言い出せなかったのです。
うう、どうしましょう、このデザートを食べ終わったら、私たちはそれぞれの部屋へ帰って明日まで会うことはないのです。
「アインスさん、あの……」
「イチカさん、私に何か言いたいことがあるのでは?」
とにかく話しかけて話題を振らなくては、と思い話しかけたものの、言葉の続かない私を気遣ってか言われた言葉に、私は目を輝かせました。
なんという渡りに船。このまま聞き出しましょう。
「そうなのです、聞きたいことがあるのです。たいした事ではないのですが、昨日来たフィーアさんの事なのです。ものすごい美少女だったのですが、彼女には恋人がいるのですか?」
「フィーアにはまだ決まった相手はいなかったと思います。まあ、正式に知らせを聞いていないだけなので、内々に誰か決まった相手がいるとか、フィーア自身に思い人がいる可能性はありますが」
「そうなのですか。あれだけの美少女ですから、結婚式には涙を呑む男性が多そうなのです。そうそう結婚と言えば、ア」
インスさんと言葉を続けようとして、言葉を飲み込みました。
こちらをじっと見つめるアインスさんから目が離せなくなったのです。
顔に熱が集まるのがわかります。
これは昨日と同じ状態なのです。
「イチカさん?」
「ア、あ、えーっと、フィーアさんのお兄さんは結婚してたりするのでしょうか?」
意気地なしの私はアインスさんの事ではなくフィーアさんのお兄さんの事を聞いてしまいました。
あれ?そういえば、お兄さんの名前って何でしたっけ?
私の言葉を聞いて、アインスさんはきゅっと眉間にしわを寄せました。
「ゼクスも結婚はまだです」
そうなのですか、彼くらいの年齢になればそろそろ結婚の話が出てもおかしくはないのです。
けれど、アインスさんみたいに独身を貫いている人もいますからね。
「で す が、あれには確か婚約者がいたかと」
なぜか、やけに言葉に力が入っているのです。
「そ、そうなのですか、結婚はしていないのですね」
まあ、聞いてはみたものの、彼の結婚についてはどうでもいいのです。
「あの、その……け、け、結婚についてアインスさんはどう考えていますか?」
本当は結婚の予定とか、結婚相手について聞きたかったのに妙な質問をしてしまいました。
「ゼクスは私と違い長男で跡取りですからね、いずれは領地経営を支えられるしかるべき相手と結ばれるべきだと思いますよ」
「え?いや、あの」
違うのです。ゼクスさんの結婚についてではなく、アインスさんの結婚について聞きたいのです。
「そういえば、前にイチカさんは一生独身で仕事に生きるつもりだとかおっしゃってましたが、今もそのつもりですか」
「え?」
確かに前、独身宣言をしたのです。
今更私を嫁にしたい人なんて現れ無いだろうと考えていたし、自分がアインスさんに恋するとも夢にも思っていなかったのです。
「たぶん結婚は無理なのです」
口に出すつもりはなかったのに、ぽつりとこぼれてしまった言葉にアインスさんは目をきらりと光らせました。
「それはイチカさん自身は結婚したいと思っているが、結婚できそうにないという事ですか?」
「!?」
「もしかして、好きな人ができたのではないですか?」
アインスさんの言葉で私は顔が熱くなり、頭がくらくらしました。
ばれてる!
どうしましょう! どうしましょう!
「イチカさんは分かりやすいですね」
あわわわわわわわわ。
私ってそんなに分かりやすかったのですか!
もしかして、アインスさんであんなことやこんなことを妄想したこともばれているのですか!
「しかし、その気持ちを応援することはできません」
少し冷たい口調で言われたアインスさんの言葉に私は血の気がすっと引くのを感じました。
今更ながら気が付きました。
アインスさんの私を見る目がいつもと違うのです。
とても冷たい瞳をしているのです。
「そう、ですよね……大丈夫なのです。私は確かに恋をしました。けれど、この恋が実るとは思っていないのです」
「イチカさん……」
アインスさんが苦しそうな顔をしています。
きっと優しいアインスさんは私を振って私が傷つくことを心苦しく思っているのでしょう。
「恋が実ることはないと思いながらも、少し夢を見てしまいました。でも、もう、夢からさめれそうなのです。だから大丈夫なのです」
アインスさんの表情が、苦しそうな顔が悲しそうな顔に変わってしまいました。
彼を困らせたかったわけではないのです。
「アインスさん、ごめんなさい」
好きになってごめんなさい。




