第104話 おっ
新入部員歓迎会から数日。
友人部はいつも通りの平穏な時間が流れていた。
各々が好きすぎに時間を過ごし、時間になったら帰るという変わらない光景だ。
これを傍からみたらダラダラしているだけだの、部費の無駄使いなどと言われるだろうが俺はそんなこと気にしない。
それに、うちの高校の生徒会長は人が出来ているのか、俺らの活動については何も言ってこないし、部費のアップを頼みに行ったらすんなりと了承してくるとてもいいやつだ。
桃と部費アップの交渉のために生徒会室行ったのだが、「少し遠くのものを見るように目を細くしておいてください」と言われ、俺はそれを言われるがままに実行するだけで部費がアップになった。
教職員からも何も言われないというか、先生が話をつけてくれたらしい。
だが智和に聞いた話によると、先生と副校長が1週間近くにわたる激戦を起こしたとか。
その影響で校長室の地形が変わったとかなんとか言ってたな。
なんかどこぞの大将同士の争いみたいですごいな。
つか、女の人なのに副校長にあそこまで出来るってすごいよな。てか副校長と何があんだよほんとに先生は。
なんてことはさておき俺は最近とある歌い手さんにはまっている。
天使のなんちゃらとか、書き込みがあったのだが、アニソンをほぼ完璧に歌いこなしているその歌唱力に魅入られて、書き込みなんか読んでる暇はない。
そういや歌い手で思い出したが、新入部員歓迎会の時のカラオケで天舞の歌めちゃくちゃ上手かったんだよな。
恥ずかしながら歌っていたけど、歌唱力はうちの部でも上位だろう。
うちの歌柱になれるかもしれないな!うん。
ちなみに俺は全力でラブラ〇ブ!メドレーを歌ったのだが、あまりいい手応えはなかったぜ!
「そう言えば、歓迎会をやってもらってありがたいんですけど、結局この部のことをあまり把握出来てないです」
唐突に天舞がそんなことを言い出した。
把握出来てない?全くこれだから最近の若いものは。
「陽向くんと1つしか変わらないですよ。でも、そうですよね分からないですよね。基本的に何もしてないですからね活動は。歓迎会の時に一応は説明したつもりでしたけど」
「確かに分からないですわよね。自称(笑)部長のようたの趣味の部活ですから。シルフィも何をやるか分からないですわよね?」
「んーまぁわからないかなー。でもお姉ちゃんが居るから別にどんな活動しようが気にしないけど」
誰だー今(笑)つけながら言ったやつは。
つか、なんか俺が悪者みたいな雰囲気になっているんだが。
この部活は趣味友を増やして語りあおう!っていうコンセプトだから、どうであれ人は集まってきてるしそれぞれ好きな物を読んだり見たりしてるからいいんじゃないんですか?
「皆さん!何を言ってるんですか!」
「そうですよ皆さん。何をおっしゃっているのですか」
この雰囲気の中で空気を読まない2人が立ち上がった。
霧咲と希桜だ。
なんとなくこいつらの言うことは想像できるせいか既に頭が痛い。
「この部活はですね!陽向さんを観察できる貴重な部活なんですよ!それに欲を持て余した陽向さんにご奉仕をするという活動目的が」
「霧咲ぃいい!少し黙ろうかぁああ」
「確かにこの部活ひなゃたしゃまのひにゃたしゃまによるひにゃたしゃまためだけの酒池肉林の空間です。そのため我々女子生徒はひなゃたしゃまのために全てを捧げるのが最も正しい活動と」
「よーし希桜お菓子あげるから少し静かにしような」
「わーい!」
低気圧が近づいているせいか、かなり頭が痛いのだが。
まぁ、この2人が原因っていう現実はどうもごまかせんな。
ハッハッハ!はぁ。
☆
「大変でしたね。陽向くん」
「あいつらはなんでいつもあぁなるんだろうな」
部活が終わり、家へと帰る道のりを俺は桃と歩いていた。
夏ももうすぐそこまで来ているといつのもあるせいか、だんだんと昼夜の気温差もあまり無くなり、日照時間も長くなった。
6時近いこの時間も薄暗いと言えばいいのかまだ明るいと言えばいいのか微妙な感じだ。
そして、俺らの会話はもっぱら部室での出来事。
特に霧咲and希桜の変態コンビについてだ。
「あいつらの脳内は一体どうなってるんだ?俺には全く理解出来ねぇ」
「安心してください。霧咲さんたちの行動に関しては私も全く理解出来てないので陽向くんと一緒です」
なんだ桃も理解はしてなかったのか。
それを表に出さないだけ桃は大人だな。
「てか、おれらの部活何をやるか全然浸透してなかったな」
「そうですねぇ。と言っても説明もしようもないんですけどね。その点に関しては一概に霧咲さんたちを否定出来ない部分があるんですよ」
「俺の俺による的なあれか?」
「そうです。傍から見たら、というか傍から見なくても陽向くんの部活ですからね」
「まぁ.......否定はできないな」
突き詰めていけばそういうことになるわけだし。
「最初は陽向くんと私だけの部活だったんですけどね」
懐かしむように、桃は友人部を作った時の事を思い出しながら語る。
「そうだったな。あれよあれよ怒涛の勢いで最初は増えたしな。霧咲と柏木が」
「ですね。まさか後輩ちゃんができるだなんてあの時は思いもしませんでしたよ」
「俺もだ。でもそう考えると俺の当初の目的は達成してるって言っても過言じゃないんだよな。アニメ好きじゃないにしろ友達.......にしちゃあ女の子が多いがそれに近いのはできたしな」
「そうですね二次元じゃなくて、3次元ですもんね。ほんとに良かったです」
「そんな本気で安心すんじゃねーよ。俺が病気みたいだろうが」
「?何を言ってるんですか?もう随分と病気じゃないですか。二次元好きすぎ病と言うなの」
「不思議そうな顔してからのドヤ顔でこの世にない病名言うんじゃねぇよ」
☆
「ねぇルル?結局オフ会はどうするの?」
部活の帰り道、私とシルフィは例の件オフ会について話し合っていた。
シルフィに相談してからもう何日も経っていて、さすがにそろそろやるにしろ、やらないにしろ、何かしらの結論を出さなきゃいけないと思っている。
「んーまだ迷っているんだよね。一応知り合いの歌い手さんにも相談したんだけど」
「え、そうなの?で、なんだって?」
「んーとね?その人は一応オフ会をやったことのある経験者で、経験者から言わせてもらえればやった方がいいんじゃない?かって。生で感想聞けるし、楽しいよって」
「そうなんだ!じゃあやろうよ!そうしよう!」
「んーでも会場ので手配とかは自分でやるから面倒臭いって言ってた。ファンの方と言ってもやっぱり用意されたところに行くのは怖いから、自分で最初のうちは用意するらしいんだけど、交渉とかその他もろもろが大変だったって」
「なんだそんなこと?それは私がやるよ!そういうの得意だし!パパとかに頼めば会場なんてドームくらいなら用意できると思うし!」
「いやいや会場は小さな所でいいから!でもやってくれると助かるかな。私交渉とか苦手だから」
「任せといて!とりあえず5大ドーム押さえとくね!」
「いやだからドームとかはいいから!聞いたことないよ!?名も知らない人がドームでオフ会だなんて」
「え?そうなの?つまんなーい」
「でもよろしくねシルフィ」
「任せといてよルル!」
「なんだがお金の匂いがしますね。よく分かりませんけど私も何かお手伝いしますよ薬さん」
「さ、咲洲さん!?いつからそこに?」
「おっぱいがどうのこうのとか言うあたりからですかね。隠密行動は希桜の得意分野です」
「おっぱいって単語は出してないんだけどなぁ」
「む。違うんですか?薬さんが生おっぱいでお金を巻き上げると聞いてたんですが」
「違う違う!オフ会!オフ会だからね?」
「む。そうなんですか残念です」
「露骨に残念がらないでよ咲洲さん」
「元気だしてよ希桜!一緒にルルのオフ会盛り上げよ!」
「むぅ。まぁよく分かりませんがお金を巻き上げれるならなんでもいいです。そろそろ新しい部品が欲しかったので」
「オフ会ってお金を巻き上げるものだったけ?ねぇシルフィ?」
「さぁ?でもできるんじゃない?」
なんだろう。私と2人との間でオフ会に対する価値観が違う気がする。




