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◇086 解呪薬完成





 目覚めると頭の中にリーンベルテ様がくれた加護の内容が流れてきて、私はベッドの上でううむ、と唸ってしまった。

 リーンベルテ様から与えられた加護は【営業延長】。その名の通り、店舗の召喚時間が延びる。

 今のところ、私の召喚する店舗は二十四時間経つと自動的に消える。しかしこの【営業延長】を使えば、その時間が延ばせるのだ。ちなみにこれは魔力を消費し、最初に設定しないといけないらしい。

 二日と決めたら二日、三日と決めたら三日、一度召喚するとその時間が経つまで消えることはない。

 もちろん自分の意思で消すことはできる。

 延長にかかる魔力は長ければ長いほど多くなり、今の私の魔力だと一つの店舗だけで三日が限度かな。

 一つの店舗を三日営業させる、と呼び出したら、その日はもうなにも召喚できないと思う。

 比較的魔力を使わないキッチンカーでも、延長にかかる魔力は同じなので、三日キッチンカーは一台しか召喚できない。

 この加護が使えるかというと、使えそうな、そうでもないような……。

 でも今までは私以外の人がキッチンカーで移動する場合、半日で行ける場所じゃないと乗って帰って来れなかったが、これなら一日半まで移動できる。馬車か何かで帰ってくることにすれば三日間走ることができるのだ。

 単純に時速六十キロで丸三日走り続けるとして……って、あの車、ガソリンとかどうなってるんだろ……? えーっと、四千三百二十キロ? どれくらい走れるのかよくわからん……。

 確か地球一周が約四万キロとか聞いた覚えが……その十分の一? さらによくわからん……。

 が、少なくとも隣の国に行って帰ってくることはできそうだ。

 ルカとティファの国に行って帰ってくることも可能だな。試験的に誰かに行ってもらおうかしら。駄菓子を山ほど乗せて行ったらルカは喜ぶだろう。

 そんなことをぼんやりと考えているうちにメイドのアリサさんが来て、テキパキと着替えさせられていく。一人でも着替えられるんだけど、公爵令嬢が自分で着替えるのは体裁が悪いんだってさ。


「琥珀さん、朝ごはんに行くよー」

『うむ……』


 私が声をかけるとベッドの上で丸くなっていた琥珀さんがむくりと起き上がった。

 まだ眠そうな琥珀さんをアリサさんが抱えて一緒に食堂へと向かう。

 食堂にはすでにお父様とお母様、お祖母様に皇妃様、エリオットに総長さん、そしてエステルと勢揃いだった。ビアンカと律とジーンは側仕えなので席には着いていない。あやや、私が最後?

 いや、トロイメライ親子がいないな。まああの親子は調薬中だろうからいないのは当たり前か。


「おはよう、サクラリエル。よく眠れたかな?」

「おはようございます、お父様。ええ、それはもうぐっすりと」


 正直に言うと、天界むこうに呼ばれたせいかあまり眠った気がしない。それなりに疲れは取れているから、身体的には休めたんだろうけども。

 私がお父様とお母様の間の席に座ろうとしたとき、廊下からドタバタと誰かが走ってくるような音がして、乱暴に食堂のドアが開かれた。


「でき、できましたぞ! 解呪薬が!」


 飛び込んできたのはトロイメライ子爵。その手には薄青い液体の入った小瓶が握られていた。目にははっきりとクマができている。やはり徹夜したようだ。


「できたか! で、数はどれくらいだね!?」

「とりあえず十ほど。今は息子が『ギフト』で量産しております」


 リオンの持つ『ギフト』、【薬剤生成】は材料と知識さえあれば、あっという間に薬を作れる『ギフト』だ。一度完成したならば短時間で数を揃えることができる。


「問題はないと思いますが、すぐに臨床試験を。銀魔病が発生した村へは私が行きます」

「律、行ける?」

「はい、大丈夫です! すぐにでも出発できます!」


 私が尋ねると、メイド服を着て給仕をしていた律が元気に答えた。オボロの速さなら数時間で村まで辿り着くだろう。結果次第では夕方前に帰って来れるかもしれない。


「では準備をしてきます!」


 慌ただしくトロイメライ子爵は食堂を出て行った。食卓の上に薄青い解呪薬を置いて。

 律も出かけるために一礼してその後を追いかけていく。

 お父様が私へ向けてにっこりと微笑む。


「よかったね。これで多くの人が助かるよ。サクラリエルのお陰だ」

「いえ……。私の力では……」


 私のお陰というか、私のせいで呪病が放たれてしまったようなもので……。

 今回呪病が広まらなくても、十年後には広まってしまったのだろうけど……。原因が自分かそうじゃないかというだけで大きな罪悪感がつきまとう。

 これで本当に呪病が止まるといいのだけれど……。



          ◇ ◇ ◇



 その日の夕方になって、律とトロイメライ子爵、護衛について行った団長さんたちが帰ってきた。


「大成功です! 銀魔病にかかっていた村人を完全に治すことができました! 体力が戻るまで時間はかかるでしょうが、全員無事に元の生活に戻ることができるでしょう!」

「そうか! よかった! よし、ではすぐに量産した解呪薬を皇都へ向かわせよう!」


 トロイメライ子爵の報告を聞いて、お父様はリオンが量産した解呪薬を次々とキッチンカーに積むように命じた。

 ちなみにこのキッチンカー、リーンベルテ様からいただいた加護、【営業延長】を施してある。今日はなにも召喚していないので、フルで三日使えるはずだ。

 明日になれば魔力が回復するので、三日延長キッチンカーをまた召喚することができる。

 その間クーラーの効いた店舗が使えないが、我慢してもらおう。

 お母様やお祖母様、皇妃様が残念そうな顔をしていたが、人命には代えられない。数日我慢すれば、国内分の解呪薬は主要都市に送り届ける事ができるから、それまでの辛抱である。

 最悪、【営業延長】を二日にすれば、他の店を呼び出せないこともないしね。

 実際、正確に言うなら、三日延長キッチンカーと、おにぎり屋なら召喚できるのだ。

 おにぎり屋はキッチンカーより魔力消費が少ない。二畳分くらいしかスペースがないし、クーラーとか照明とかそういった予備機能もないからかな?

 おにぎり屋の梅おにぎりだけは全部リオン行きにしないといけないけどさ。

 どれだけ必要なのかわからないけど、予備薬があるに越したことはないだろう。皇城の保管庫なら保存魔法がかけられているし、劣化することなく保存することができるはずだ。


『クァァ』

「よしよし。お腹すいたよね」


 中庭で律が今日一日飛びっぱなしだったオボロにおにぎりを与えている。オボロは昆布おにぎりが好きなようだ。渋いね。

 ちなみに解呪薬は百倍に薄めたものを私たちもすでに飲んでいる。

 味はなんというか、うん、薄めた梅サイダー……? 苦いものじゃなくてよかったよ。

 この薬は一度飲めば銀魔病の呪いには二度と罹ることはなくなるので、私たちに生命の危険はもうない。

 だけど正直なところ、犠牲者がゼロとなるかはわからないのだ。人知れず感染し、誰にも知られず旅の空で亡くなってしまう者もいるかもしれない。

 この広い国の隅々までチェックするのは無理だ。ある程度大きな町ならいざ知らず、小さな村や隠れ里なんかまでは把握できない。

 パニックを避けるため、今までは銀魔病のことをおおっぴらに広められなかったが、解呪薬ができた以上、人々に知ってもらう必要がある。

 銀魔病という病がある、特効薬がある、という事実を広めないと、気付くこともできないからな……。

 幸い呪いが発生した村は、人の往来が多い村ではなかったので、そこまで広まってはいないと思うのだけれども。

 ゲームの中で皇都に病を持ち込み、感染爆発パンデミックを起こしたのはサクラリエル(わたし)だしね……。

 今回なんとか食い止められたのはいろんな偶然が重なったからに過ぎない。

 律を助けなかったら……いや、それ以前に【聖剣】を手に入れてなかったら助けることもできなかったわけで。

 やっぱり主人公エステルが起点になっている気がするなあ……。

 エステルが主人公なのは『2』までだけど、『3』以降も登場したりはするのよね。『3』の主人公って、エステルの後輩だし。

 『3』ではエステルが上級生の憧れのお姉様として登場する。攻略対象ではないけど、エリオットやジーン、リオンもね。頼れる先輩キャラとして登場するんだよ。

 まあ、このあたりはファンサービスだろうけども。だからって悪役令嬢サクラリエルまで登場させる必要はなかったと思うんだ。

 しかもどうでもいいかませ役としてね……。ゲームしている時は『またかよ』と思いつつ、笑ってしまったけどさ。

 はぁ……。次は誰ルートが襲いかかってくるのやら……。できればやったことのあるルートでお願いしたい。コンプリートしてない作品もあるからさ……。

 これからやってくる様々な災難ルートを考えると、どうしてもため息をつかずにはいられなかった。



          ◇ ◇ ◇



 次の日、目覚めると右手のサモニア様の紋章がレベルアップしていた。

 これは解呪薬が完成したからかな? 確かにあれはスチル有りのイベントだったけれど。

 ゲームではリオンが解呪薬を完成させたのだが、現実リアルでは父親のトロイメライ子爵が完成させている。作り手は関係ない? ここらへんどうなってるんだろうな……?

 あ! 女神様たちにそこんとこ聞けばよかった! 次に会った時に聞こう……って、次も会う機会があるんだろうか……?

 えーっと、これで十二個目? ぐるりと目盛りが一周しちゃったな。

 サモニア様の紋章の周囲を、小さな十二の模様が時計の文字盤のようにぐるりと一周している。

 これって次から二周目に入るのかしら? このままどんどん増えて、右手が紋章で埋め尽くされたらどうしよう……?

 教会に頼めば隠蔽してもらえるんだっけ? でも紋章を隠蔽するということは、後ろ暗いことがあると言っているようなものだから、あまりオススメはできないって聞いたな。

 周りの模様だけ隠蔽するってできないのかしら。あるいは隠蔽してもらった上でサモニア様の紋章だけシールか何かを貼るか?

 絵を転写できる『ギフト』持ちもいるし、そこらへんはなんとかなるかな。

 さて、今度のお店はなにかな?

 前回(といっても一昨日おとといだけど)のはおにぎり屋という小さな店だったからね。

 今度はドーンと大きなのがいいな。スーパーとか!









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