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◇011 皇太子の誕生日パーティー

夕方にもう一話更新します。





 雲ひとつない青空。まるで天が祝ってくれているかのような今日はシンフォニア皇国皇太子の誕生日パーティー。

 ちょうど一週間後に建国祭もあって、王都はお祭りムード一色だ。こういう雰囲気は大好きだけど、正直今日の誕生日パーティーはあまり乗り気ではない。

 確実に攻略対象や主要キャラが来るもんねえ……。エリオット自身が攻略対象だし。

 変に反感を買っても困るし、逆に興味を持たれても困るんだよ。難しい……。その隙間をスルッと抜けられればいいのだが。だから最善の手は出会わないこと。これに尽きる。

 皇太子の誕生日パーティーは、皇太子が七つとなり、次期国王として世間的にも認められたという意味合いを含めたパーティーである。

 故に、国中のほとんどの貴族たちが集まり、また、その子息令嬢も集まってくる。

 とはいえ強制ではないので、無理に来る必要はない。地方や辺境だと旅費や滞在費などだけでもかなりかかってしまうからね。

 丁寧なお祝いの手紙と祝いの品を送っておけば、面目は立つのだ。辺境の男爵令嬢である主人公エステルのところなんかだと多分そうなる。男爵になったばかりでお金も色々と必要だろうし。

 だが、王都近辺に領地を持つ貴族や、お金のある上級貴族となると話は違ってくる。

 次期国王である皇太子に気に入ってもらえれば、男子なら側近に、女子なら玉の輿にのれるかもしれないからだ。

 本来ならこの時点で私が婚約者になってたんだろうな。このパーティーで発表とかだったかもしれない。あの時断っといてよかったー。

 それはそれとして、朝からお母様やメイドさんたちに着飾られまくりの私です。まだあるの? もういいんじゃない……? 宝石の装飾品とか子供にいらないと思う……。


「ダメよ! 今日はサクラちゃんのお披露目でもあるんだから手を抜けないわ! とびきり可愛くしないと!」


 可愛くしても特に見せたい相手もいないし、別にいいのに……。

 今日のパーティーは表向き病弱で今まで療養していた私が、貴族たちの前に初めて顔見せする場だ。

 一人前の大人として扱われる社交界デビューはまだ先だけど、貴族令嬢としてのデビューが今日なのだ。お母様たちが気合を入れるのもわかるんだけど……。

 貴族の子息令嬢を含めたパーティーは、昼前から夕方にかけて行われる。子供たちが主役だからね。

 パーティー開始ギリギリまで、ドレスだメイクだアクセサリーだと散々盛られた私は、やっとのことでお城行きの馬車へ乗り込むことができた。

 ちなみに頑として縦ロールは拒否した。あんな悪役令嬢のシンボルみたいな髪型できるかっての。縁起が悪い!

 まったく……パーティー前から精神的に疲れたよ……。


「お嬢様。会場に着きましたら笑顔を忘れずに。今のような表情はどうかなさいませんように」

「はーい……」


 お父様お母様と共に一緒に乗り込んだメイドのアリサさんに釘を刺され、無理矢理に笑顔を浮かべる。


「けっこうです。いつもながら笑顔は及第点ですね」


 そりゃあ、そればっかりさせられたからねぇ~。公爵令嬢たる者、心の内を晒してはならぬ。笑顔の仮面で本音を隠せ……ってね。

 ゲーム内でのサクラリエルは怒ったり蔑んだり、感情丸出しだったが。あの子、本当に淑女教育受けたんだろうか。

 攻略対象とは仲良くなりたくはないが、他の貴族の子供らとは良い関係を築きたい。

 それには仏頂面ではダメだ。笑顔で接しなければ。だけど悪役令嬢の嘲笑ほほえみは封印だ。

 

「新しいお友達ができればいいわね。いろんな人たちに話しかけてごらんなさい。きっと話が合う子がいるはずよ」

「だけども、男の子には気をつけるんだよ? 下心を持って近寄ってくる輩もいるんだからね」


 お父様の言う下心とは公爵家の地位を見てのことだろうか。それとも男は狼的なことだろうか。

 まあ、私は年下に興味はないので心配ないよ。皇太子様でさえお断りしたほどだからね!

 それでも心配なのか、お父様はいろんな注意事項を並べてきた。しつこいと最終的にはお母様に怒られていたが。

 私はねー、なにも言えないんだよね。

 私が誘拐されたことで、お父様は心配症になってしまったんだろう。無理もない。そんなお父様を無下になどできようか。

 ともかく、馬車は皇城へと辿り着いた。

 噴水を中心とした環状交差点ラウンドアバウトのように、馬車が城内へと続く階段前で停まり、貴族とその子女を下ろして、反対方向へと去っていく。

 馬車が停車し、アリサさんを除く私たちが階段下へ下りると、控えていた警備兵らしき人がおもむろに声を張り上げた。


「クラウド・リ・フィルハーモニー公爵殿下、アシュレイ・ラ・フィルハーモニー公爵夫人、サクラリエル・ラ・フィルハーモニー公爵御令嬢、三名様ご入城!」


 ええー……。そんなことされんの!? 前来た時はなかったやんか……。

 あの時は身内だけの集まりだったからか? うわ、目立ってるよ……。

 そりゃそうか。なにしろお父様は皇弟だ。注目されるなって方が無理だろう。

 お父様はフィルハーモニー公爵家を継いではいるが、臣籍降下したわけじゃない。皇族としての籍はあるから皇位継承権もある。

 万が一、皇王陛下と皇太子殿下になにかあれば、次の皇王はお父様なのだ。そういった理由もあって未だ皇族なのである。まあ、つまりは私も皇族の一人であり、エリオット、お父様の二人に何かあったらその次は私が女皇王となってしまうのだ。勘弁してほしい。

 ちなみに、名前と家名の間に入る『リ』とか『ラ』とかってのは貴族の身分を表す。

 わかりやすく言うと、文字数が少ないほど貴族のランクが上なのだ。

 フィルハーモニー家は皇族の血を引いているので一番上の一文字。

 『リ』と『ラ』、お母様と私、お父様で違うのは男女の違いである。これは皇族だけなので、その他の貴族は男女おんなじ。

 皇族と公爵は一文字、侯爵と辺境伯が二文字、伯爵と子爵が三文字、男爵が四文字だ。騎士爵や準男爵のような一代限りの貴族はつかない。

 名前で相手がどのランクの貴族なのか名乗りでおおよそわかるようになっているってわけ。

 ちなみに成人して家から離れると、このミドルネームみたいなものはなくなる。貴族の子供ではあるが、長男長女以外の子供とかだね。

 成人するまでは貴族の一員とされるが、彼らは家を継ぐわけではないので、大人になれば貴族ではなくなるのだ。準貴族と呼ばれる平民よりはいい身分であるが、地位的にはそう変わらない身分となる。さらにその身分は一代きりだ。

 ただ、嫁入りや婿入りでまた貴族になることもあるし、何か功績を上げて爵位をいただき、独立した貴族になることもできる。

 貴族の次男以下なら一番手っ取り早いのは騎士になることだろう。騎士も一代きりの準貴族ではあるが、身分は平民やただの貴族の子供よりも高い。


「皇弟殿下だ……」

「フィルハーモニーの公爵様よ」

「御令嬢がいたのか……」


 マズい。注目を浴びている。もうここからは素の顔を見せてはならない。笑顔笑顔、と。

 背筋を伸ばし、しゃなりしゃなりと階段を上る。……長いな。エスカレーターにして欲しい……。いや、ドレスの裾が巻き込まれるかもしれないから無理か。

 階段を上り切り城内へと入ると、すでに何人かの貴族たちがロビーで歓談していた。私と同じくらいの子供たちもけっこう見かける。

 今日はあくまで皇太子殿下の誕生日パーティー。やはり年の近い子供を連れてきているようだ。

 少なくとも前世でいうところの高校生くらいの少年少女はほぼ見ない。何人かはいるが、おそらくあの人らは本人が当主か、当主代理なのだろう。

 歓談していたその中の一人、四十過ぎたくらいの長く白い顎髭の貴族にお父様が声をかける。あれ? どっかで見たような気が……。


「やあ、テノール侯爵。久しぶりだ」

「これはこれはフィルハーモニー公爵殿下。お久しゅうございます」


 こういった場では話しかける時、目上の者から声をかけるのがマナーだとお母様がこっそり教えてくれた。どうりでさっきからチラチラとこちらを見るくせに話しかけてこないなと思った。

 まだ社交デビューを果たしていない私たちにはあまり関係ないらしいのだけれども。

 例えば私は『公爵令嬢』ではあるけれど、『公爵』ではないので目上も目下もないのだ。つまり、このテノール侯爵が私に話しかけても無礼には当たらない。逆に私から話しかけてもこの場合は問題ない。なぜなら『侯爵』よりも上の『公爵』家の令嬢だから。

 これが『男爵』家の令嬢だったりすると問題になる。家の立場というものがあるから、『侯爵』に目下の家の子供が声をかけてしまうと、その親が煽りを食らうことになるのだ。

 めんどくさいねえ、ホント……。好きに話しかければいいじゃんと思わなくもない。

 まあ、マナー違反という程度なので、そこまで責められることではないのだが、厳しい人は厳しいからね。

 

「そちらのお嬢様がお噂の?」

「ああ、サクラリエルだよ。サクラリエル、こちらはジェイス・バン・テノール侯爵。この国の宰相をしている人だよ」


 なんと宰相様でしたか。そうか、なんとなく見たような気がしたのは、『スターライト・シンフォニー』の中で、皇王陛下の横に控えていた人物だからか。セリフもないスチル一枚だけの登場だからすぐにはわからなかった。

 眼鏡をかけた紳士といった感じの宰相様に私は習った通りのカーテシーでご挨拶。


「初めましてテノール宰相様。サクラリエル・ラ・フィルハーモニーでございます。このたび、皇都へ戻って参りました。どうぞよろしくお願い致します」

「これはこれはご丁寧に。ジェイス・バン・テノールと申します」


 宰相様は皇太子殿下と年の合う子供がいないそうで、一人での参加だった。宰相様と皇弟であるお父様との話に割り込んでくるような貴族はおらず、私たちはそのままパーティー会場へと足を運ぶ。


「ひっろ……!」


 思わず声が出てしまうほど広いパーティー会場には、すでにたくさんの貴族たちが集まっていた。

 それぞれ挨拶を交わしながら、いくつかのグループに分かれて話し合っている。

 当然ながら貴族にも派閥というものがあって、武官文官、親の代から親しい、またはその逆、いろんな繋がりで形成されているようだ。

 お父様の場合は皇位継承権第二位ではあるが、兄である皇王陛下と仲が良いので、言ってみれば『皇王派』である。

 そんなお父様だから、挨拶をしたほうがいい貴族も多く、そのたびに私も初お目見えとして挨拶を交わすことになった。これが数が多くてね……。

 正直、最初の二、三人から先は誰が誰だか覚えていない……。ゲーム内で聞いた名も見た顔もなかったので、特に気をつける必要はないだろう。


「疲れたかい? サクラリエル」

「いえ、その、ちょっとだけ……」


 貴族に挨拶した後は、お父様とその貴族の会話をニコニコした笑顔で見ているだけなのだが、それが地味に辛い。だって話の七割が私の自慢話なんだもの……。お父様ったらちょっと親馬鹿過ぎませんか?

 

「親しい貴族の挨拶まわりはもう終わったから、サクラちゃんはあっちで他の子たちと話してきたらいいわ。後は招待している国外のお客様だから」


 お母様が向けた視線の先には貴族の子供たちだけで集まっている一角があった。

 親貴族の挨拶回りに子供がついて回ることはあまりない。私の場合、今までこういった場に出たことがないから仕方がないけれど、も少し早く解放して欲しかったのが本音だ。

 なんにしろやっと解放された私はお父様とお母様から離れて、子供たちが集まっている場所へと足を運んだ。


「あー……まだパーティーも始まってないのに疲れた……。ちょっと座りたい……」


 ちょうど壁際に長椅子があったので腰掛ける。ふう……。

 心の中ではぐったりとしていたが、まだ顔には笑顔を貼り付けている。気を抜けないなぁ……。早く終わってくれんかな……。

 パーティー会場を眺めていると、ちょっと毛色の違う衣装に身を包んでいる人たちもちらほら見かける。あれは国外からの招待客だな。

 私も数年この国の外で暮らしていたからなんとなくわかる。よほど王様は国内外にエリオットのことを知らしめたいらしい。


「貴女、よくそんなドレスで皇太子殿下のお誕生日パーティーに来られたわね。感心しますわ」

「ほんと。そのデザインってずいぶん昔のものじゃありませんこと? 辺境だと流行が遅いとは聞いていましたけれど、ここまでとは……」

「田舎者の成り上がり令嬢では仕方ありませんわね。ま、今日は王都の流行を学んでいくといいですわ。もっとも次に来た時にはまた流行遅れになっているかもしれませんけれど」


 ん?

 考え込んでいた私の耳にそんな声が聞こえてきた。視線を向けると、なにがおかしいのか私より二つか三つほど上だと思われる三人の令嬢が口元を隠しながらその前に立つ誰かを笑っている。

 おお、リアル悪役令嬢? あの手の輩はどこにでもいるんだなあ……。

 まあ、貴族の子女なんて周りにチヤホヤされて成長してきたわけだから、仕方ないところもあるのかもしれない。ゲーム内の私もそうだしな……。

 とは言え、気分は良くない。やめさせようと立ち上がったとき、三人の令嬢が笑っている相手の顔が見えた。


「エステル?」

「え?」


 そこに立っていたのは『スターライト・シンフォニー』の主人公ヒロイン、エステル・クライン・ユーフォニアムだったのだ。









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