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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アリエノールのミニ留学編

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95 ミニ留学の本当の目的

 アリエノールの実習はそのあとも続いた。

 端的に言って、アリエノールはかなり成長した。

 といっても、劇的に何かのレベルが上がったというより、これまで中途半端に覚えていた魔法などの質を大幅に向上させることができたのだ。


「おお! しっかり泥炭地を歩ける! 落ちることもない!」

 その日も沼状になってる泥炭地をしっかり踏みしめるように歩くことができるようになっていた。「泥炭地歩行」の魔法だ。


 仕事で直接使うこともない魔法はどうしてもうやむやになってしまうことが多い。でも、それだと、いざという時に困ったりする。いざという時って、まさにそれまでの総合力が試される場であることが多いからな。三分に一回、救命の応急処置の知識がいることなんてないようなものだ。


 アリエノールは自営だからこそ、甘かったところをしっかり詰めることができていた。

 こういうの、実家でどうにかしろよ、親も黒魔法やってるんだろと言われそうだけど、距離が近すぎると逆に教えてと言いづらかったりするのだ。


 トトト先輩によるドラゴンスケルトン運転も苦戦していたようだけど、どうにか小型ドラゴンスケルトンを運転するぐらいにはできるようになった。

「うん、それでいいんじゃない? けいだけでも運転できるとちょっとした荷物を運ぶ時、ほんとに便利よ」

「ありがとうございます! 地元に戻ったら早速小型のドラゴンスケルトンを探してみます!」

 そんなやりとりが会社の中で聞こえてきた。先輩の前ではすごい腰が低いんだよな。


 社員寮(つまり、俺たちの家)でも、掃除の当番とかそういうことはしっかりやってくれたし、思った以上に真面目だった。


 言動で勘違いしそうになるけど、アリエノールは堅実な性格なのだ。ただ、スイッチが入らないとその堅実さが発揮できないんだな。宿題はしっかりやるんだけど、自習はできないというか。



 あっという間に二週間とちょっとが過ぎた。

 その日はアリエノールが先に帰った。

 俺が社長に呼び出されていたのだ。


「フランツさんから見て、彼女はどうですか?」

「研修で見た時は基礎ができてない印象があったんですけど、こっちに来て、足りない部分を急速に補っていると思います。このペースで成長できれば地元に戻ってもやっていけるんじゃないかなと」

 楽しそうにケルケル社長は俺の話を聞いている。社長、だいたいいつも楽しそうだけど。


「ですね、ですね。私もそれなりに鍛える必要もあるかなと思ってたんですけど、どうにかなりました。大人になると、成長の仕方を覚えてない人間って成長するのがすごく大変なんですが、まだアリエノールさんは若いので間に合いましたね」

 社長らしい視点だなと思った。若造だと言いようのない意見だ。


「それで、成長の証しとしてイニシエーションをしようかなと思うんです。つまり、通過儀礼ですね」

 社長の目から笑みが消える。

「少しハードルが高いですが、そういうことをしてもらわないと達成感を得られませんからね。フランツさんにも立ち会ってもらおうと思うので、先にお話ししておくことにします」


「いったい、なんでしょうか……?」

「『悪霊との会話』という魔法をフランツさんには覚えてもらっているかと思います」

「あっ、はい、社長に教えてもらったやつですね」

 使い道がほぼない黒魔法を俺はかなり覚えてるけど、そのうちの一つだ。


 というか、それでほぼ何をするかわかったぞ。

「アリエノールを悪霊と会話させるってことですね?」


「ですです」

 ケルケル社長の尻尾が左右に動く。

「王都から二時間ほど行った、森の深いところに最近悪さをしている悪霊がいましてね。やってることは入った人を道に迷わせたりとか、土が食べ物に見える幻影を見せたりとか、しょうもないと言えばしょうもないんですが、迷惑ではあるんです」


「それを対話して止めさせるわけですか」

「はい。失敗しても命の危険はない次元のものですし。ただ、黒魔法使いの力が弱ければ一時的に憑かれたりしちゃいます。ようは遊ばれちゃうわけです。そしたら、もちろん失敗です。彼女の地元でも悪霊の対処だってあるはずですし、無意味な仕事じゃないです」

 アリエノール、モルコの森ってところに住んでるはずだもんな。


「わかりました」

 しかし、この程度のことなら事前に呼ばれるほどじゃないな。

「あと、全然上手くいかなかった場合なんですが――」

 まだ、ケルケル社長の目は笑っていない。


「ほかの道で食べていける可能性もあるんじゃないかと、それとなくでいいので諭してあげてくださいませんか?」

 思った以上にハードなお願いだった。


「お前はクビだってことですか? いや、クビも何も自営だからそれはおかしいか……」

「実は、これはアリエノールさんの親御さん――あちらの会社からの要望なんです」

 社会の厳しさというものに俺は直接触れている気がした。


 あちらの会社ということは、つまり、アリエノールの親ってことか。あそこ、家族経営だからな。


「前回の研修の結果はもちろん会社に伝わっています。それで、アリエノールさんには才能がないんじゃないかとあちらも思われたそうです。実家がそうだからというだけで、向いてもいない黒魔法をやって娘さんが不幸になるのはつらいと」

 俺はすごく嫌な予感がした。


「もしかして、このミニ留学ってアリエノールに引導を渡すための……」

「少なくとも私はそんな気持ちで彼女を受け入れてはいません」

 きっぱりと社長は否定した。人間想いのかたまりみたいな社長だもんな。


「ですが……自営で食べていくというのは会社勤め以上に困難が多いのは事実です。たとえば、魔法の技術がすぐれていても、依頼主と交渉する能力がなければ務まりません。経理だって自分でやるしかありません。そもそも仕事が減ってきたら、倒産です」

 社長もこんなことは言いたくないのだろう。顔が沈みがちだ。

「それを、あいつができそうにないなら、違う道もあるって示してやれと……」


「親御さんのお話ですと、彼女は幼い頃はレストランを開きたいとおっしゃっていたそうです。なのに、途中から実家を継ぐと言い出して、今に至ると」

 だから、やたらと料理が上手だったのか!

 もしや、料理人のほうがあってると言うべきなのか? けど、それが本人の望みかはわからないしな……。上手いこととやりたいことはまた別だし……。


「難しいことを言ってすいませんが、おそらくフランツさんのような同年代の方が言うほうが効果があるかなと……」

「わかりました」

 俺は社長の目を見て言った。


「ですが、これはあいつが失敗したらですよね? 成功すれば俺はお前にも素質があるぞと背中を押しますよ?」

「はい。もちろんです。押してあげてやってください」


 社長との話は終わった。

 あとは、アリエノールが実力を見せるかどうかだけだ。


活動報告にケルケル社長とメアリの口絵を先行でアップいたしました! ご覧ください!

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