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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
社会人最初の夏休み

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79 心の眼で見ろ

 その無人島はたしかに素晴らしかった。


 背後には雰囲気のある大きな岩山がごつごつしている。後ろにはちょっとした森みたいなのもあり、ヤシの木も生えている。そして、真ん前にはしっかりときれいな白い砂浜が広がっているのだ。


 さらに奥を見ると、波間に岩がいくつも見え隠れして、これまで絶景だ。その岩礁のおかげでみんな近づけないわけでもあるが、来てしまえばそれすら絵になる。


「ここ、悪くないでしょ。たまに休憩する時は、ここに来てごろんと横になるんだよ」

 サンソンスー先輩が言った。なんて贅沢な休憩なんだ。長期休暇の時に来れるか来れないかといった空間なのに。


「ねえ、サンソンスー先輩、ここは完全に無人?」

 ファーフィスターニャ先輩が念を押している。

「そうだよ。気になるなら、ぐるっと一周してみたら? たいした時間もかからずに探検できるし、それはそれで面白いから」

「いや、いい。じゃあ、これも外せる」


 そう言いながら、ファーフィスターニャ先輩は踊り子の服の胸の部分を取りにかかった。ああ、たしかに日が当たると金属部分が熱い――――って、マジか!?


「先輩、何してるんですか!?」

「誰もいないなら問題ない。これ、鬱陶しくなってくる」

「俺がいるでしょ! 俺が!」

「あっ、そうか。じゃあ、申し訳ないけど後輩君だけ、あの砂浜をふさいでる岩よりあっち側の浜に行っててほしい。それなら陰になって見えないはず」


 なにげにひどいことを言われているが、他人の視線がないんだから開放的になりたいという気持ちもわかる。


「ファーフィスターニャさん、ダメですよ。そういう時は私たちがあの岩よりあっちの砂浜に行けばいいんです」

「あ、そっか、社長。さすが」

 先輩もそれで納得したらしい。


「すいませんね、フランツさん、少しあちらに行って、泳いでこようと思うのですが、よろしいですかね? 私もこれ、意外と窮屈で……」

 俺としてはダメとは言えないので、もちろんOKする。


「じゃあ、ファーフィスターニャさん、あっちで泳ぎの練習をしましょう。犬かきなら私に任せてください」

「バタフライがいい」

「いえ、犬かきのほうがかっこいいですよ」

 ケルケル社長が多少無理のある犬かきアピールをしつつ、ファーフィスターニャ先輩を連れていってしまった。


「じゃあ、ボクもあっちで泳ごうかな。たまには裸も悪くないし」

「わらわも、この服、だんだん疲れてきたんだよね。わらわなら、フランツに見られても、わ、悪くはないけど……」

「あっ、皆さん、あっちで泳ぐんですのね。たしかに泳ぐには裸のほうがいいですわ。でも、ご主人様だけ一人というのも……」

 ちらっとセルリアがこちらを見たので、ここは主人らしい態度をとろうと思った。


「女子だけのほうが楽しめることもあると思うし、行ってきたらいいって。俺は俺で長年気になってた無人島を満喫したいし」

「わかりましたわ。ありがとうございます。でも、また戻ってきますから、その時は一緒に泳ぎましょうね!」

 これ、俺が気をつかったって多分バレてるけど、まあ、それはそれでいいや。


 俺以外、みんな岩の奥に行ってしまった。


「さて、一人で無人島を満喫するか。無人島らしいと言えばらしいしな」

 女子たちもあの服、脱ぎたいだろうし。たしかに踊り子の服は百パーセント泳ぐことを想定してないから、泳ぐことをメインに据えた場合、脱ぐしかないよな……。で、そこに俺がいるわけにはいかない。


 風に乗って声だけが聞こえてくる。

「セルリアさん、大きいですね」「社長こそいい形ですわ」「セルリア、うらやましい」「ふん、別に男は小さくてもちゃんとこっちを見てくるから問題ないんだよ」「みんな、準備運動をしてくださいね。ボクの動きにあわせてね。はい、まずはジャンプ」「ぷるぷるしてる。うらやましい」「ファーフィスターニャさんも、もっとジャンプして!」「セルリアがちぎれそうでちょっと怖いな……」「メアリさん、そんなことありませんわ」「オスだけど、ここにいていいワン? 使い魔だからいいワン?」


 ゲルゲル、あとで爆発させる。


 想像をかきたてるな、これ……。

 なんか、ある意味、とんでもなく冒涜的なことがあの岩の向こうで行われているわけで、極めて黒魔法的な夏休みと言えなくもない。

 実際、黒魔法使いって、昔の伝説だと夜な夜な裸で踊ってるとか言われてたしな。


「さて、せっかくのプライベートビーチだし、泳ぐか――――って気になれない」

 向こうの会話がとんでもなく気になる。その声を聞くほうが楽しい。


 くそっ! 俺にあっち側を見るような魔法があれば!

 いや、仮にあっても使わないけどな。それ、社内の信用ガタ落ちだ。


 うん、世の中、そこまで甘くはない。欲望をそのまま形にしてたら、世界はカオスな状態になってしまう。ここは白魔法的な秩序が必要なんだ。我慢、我慢……。


「サンソンスーさんの太もも、とてもいい肉の付き方ですわ」「運動はしてたからね。でも、太ももは、ぽちゃぽちゃしてるほうが好きって男もいるらしいよ」「そんなに肉がついたことないなあ」「どっちかというと、おなかにつく」「毎朝ゲルゲルと走ってますから、かなり引き締まってますよー! 学生さんと間違えられるとうれしいですね」「鼻血が出たワン」


 ゲルゲルはそのまま全身の血が抜けて死ね。


 ダメだ、我慢するというのはきつい。それはそれで一種の苦痛だからな……。ここは声も聞こえてこないほうにいくか……。


 その時、どくんと体に振動が来たような気がした。


 ――欲望に身を任せ、そのうえで、欲望を乗りこなすのだ。


 なんだ、頭の奥というか、体の奥からそんな声を聞いたような……。


 ――さあ、その力の扉を開け。お前なら力に食われることもないはず。


 別にどこかにほかの男がいてしゃべってるわけじゃないようだ。音というよりは文字として体の中に流れてくるような感覚に近い。


 そして、自分が使える魔法一覧の最後に、習得した記憶がないものが増えていた。



・心の眼



 なんだ、これ……。よく「考えるな、感じろ、心の眼で見ろ」とか言われるけど、ああいうものか?


 ほとんど無意識的に俺はその魔法を使っていた。


 足で砂浜に魔法陣を描きつつ、ぼそぼそと詠唱も行っていく。

 こんなのまったく知らない詠唱だぞ。いや、それにしては、なぜかなつかしさみたいなものがある。まったくの初耳というのとは違うような……。


 そして、俺の視界にありえないはずのものが映った。


 砂浜をへだてる岩の奥で裸で泳いだり、日なたぼっこしたりしているみんなの姿が!


「セルリア、そのサイズ、少し黒魔法で吸収したい」「ファーフィスターニャさん、それは無理ですわ。代わりに、大きくなるマッサージを教えましょうか」「ふ~、犬かきをしたら、ごろんと横になる、すっごく幸せですね」「わらわもいい気持ち~」


 これは妄想なのか……? 違う……。本当に現実を見てるんだ……。


「心の眼」って、つまり、俺の「欲望の眼」ってことなのか! たしかに欲望も心の一部分だから、間違ってはない。


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