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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
男爵になってたので領地行ってみた編

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62 沼トロールの恩返し

 俺は次の休日、またトトト先輩に頼んで、天翔号に乗せてもらった。

 目的地は言うまでもなくファントランドだ。


「別に書類上は男爵の権利を手放さないってことに決めたんだから、わざわざ行かなくてもいいんじゃないの?」

 運転をしているトトト先輩が不思議そうに言う。


「書類上はそうなんですけど、やっぱり直接現地の人に説明するのが筋なのかなって」


「ご主人様はそういうところ、本当にまめですわね」

「まめにもほどがある気がするけどね」

 家族にそう言われてもあまり言い返す気にはなれなかった。そういう要素があるの、自分でもわかってる。


 魔法学校でもほかの奴らが教科書の実験結果のページを丸写ししてた横で、律儀に実験を繰り返すみたいなことをしてた。

「違う結果が出ることなんてありえないんだから、成功の時のデータを書いておけばいいんだよ。要領悪いと社会人なんてやっていけないぞ」


 そうクラスメイトに言われたことがあるし、それはそれで正しいと思う。

 やらないといけないことをすべて完璧にこなそうとして過労死したら何をしてるかわからないし。


 でも、こういう性格だからしょうがないんだ。


「それと、ドブロンっていうお酒のことも確認しておきたいし。本当に商品になるか未知数だしね……」

「あのお酒が飲めるのね。テンション上がるわ! あれが商品になるなら毎日買うわよ!」

 ノリノリでトトト先輩は車を運転していった。


「先輩はいつも飲みすぎ。気をつけるべき……。毎日買うはやりすぎ……」

 実は今回はファーフィスターニャ先輩も乗っている。ファーフィスターニャ先輩いわく、「出不精の性格だから旅行行きたい」とのことらしい。ファントランドに観光する場所ないけどな。


「これでも、最近は気をつけてるのよ。過去には給料日に給料分飲んだりとか、けっこうヤンチャしてたから」

 ファーフィスターニャ先輩がぶるぶるふるえていた。

「怖い……。『黒魔法の本当にあった怖い話』よりある意味怖い……」

「ですね……。初日で給料がなくなるだなんて、どうしたらいいんだ……」


「今回は裏道覚えたから前回より早いわよ。最短ルートもしっかり研究したからね」

 先輩のその言葉に偽りはなく、一時間近く早く着いた。日帰りすら可能なペースだけど、一泊はする。そのために建物もきれいにしたんだし。


 天翔号を停めると、俺はすぐに集落のほうに向かった。

 どういう形であれ、けじめをしっかりつけておこうと思った。もともとショッピングモール賛成派のほうが多かったわけだから、嫌がられるかもしれない。


 村長の家に行って、ドアの前で声をかけた。

「すいません、ここの男爵やってるフランツです!」


 しばらくすると、村長の奥さんらしきおばさんがドアを開けた。


「あらら、男爵様じゃないですか。わざわざお疲れ様です!」

 と、中から香ってきたのはアルコールのにおい。


「今、家の裏手にある工場でドブロンの仕込みをやってるんです。試飲していきますか?」

 後ろでトトト先輩が「いくらでも飲むわ!」と言っている。そこは常識の範囲内でお願いします。


 でも、こっちとしてはそれも気になるけど、ファントランドの反応のほうが気がかりだ。

「あの……商業施設誘致の話はご理解いただけてますかね?」


「ああ、あれなら旦那が説明していきましたから。それに、商業施設誘致を言ってた会社、郡の役人と不正な取引をしたとかで逮捕されたんですよ」

「えっ!?」


 あの会社、ダメになったんだ……。


「完成予想図みたいなのも偽装したデータだったらしいし、もし建ててたら大変なことになっていましたよ。今は小規模ながらドブロンを増産する作業をしているんです」


 すると、奥で見覚えのある顔が何か運んでいるのがわかった。

 あれは前に会ったホワホワだ!


 ほかにも若そうな沼トロールが水の入った桶を運んだりしている。沼トロールは力持ちなのか、軽々と大きな桶を持っている。


「ああ、今は沼トロールの子たちにお手伝いを頼んでいるんです。新しい服を買うのにお金がいるからちょうどいいって」


 どうやら、沼トロールとほかの住人との融和も図れているようだ。もしかすると、人口が少なすぎるのが幸いしたのかもしれない。住人の人口は二十一人だから、コンセンサスをとるの、二千人が暮らす土地と比べると、労力百分の一ぐらいですむし。


 ホワホワがちらっとこっちを見て、微笑んだような気がしたけど、言葉はかわしてないから本当に気のせいかもしれない。


 そのあと、ドブロンつくりを見学したけれど、やはり生産量がネックらしい。

 でも、あまり規模を大きくしちゃうこともできないし……。


 つとつととファーフィスターニャ先輩が貯蔵されている樽の上に何か布を載せた。


「ふぅ、これでよし」

「待ってください。今、何をしました?

「発酵を促進して早く作れる魔法陣の描いた布をかぶせた」


 たしかにそんなことができたらすごいけど……。


「はっはっは。これはじっくり寝かせないとダメなんです。そんなにすぐには――」

 奥さんが笑いながら、試しにコップで飲んでみた。

「――完璧にできてますね……」


 さすがファーフィスターニャ先輩!

「これで、大量生産も本格的に考えられるかもしれません……」

 今度から何かあったらファーフィスターニャ先輩を連れてこよう。なんらかの化学反応があるかもしれない。魔法使いが化学反応がどうとか言うのもおかしい気もするけど。


 その夜はまた宴会になった。ちなみに前より大規模な宴会になった。

「ファーフィスターニャ先輩がレジェンドとして祀り上げられていた」

 とくに村長は頭を下げて、布をもっと作ってくれと言っていた。

 トトト先輩は酔った勢いで脱ぎそうだったので、俺が止めた。やめてくれ。


 宴会の途中、真面目な顔をした村長と住人数名が俺の前にやってきた。酔って顔が赤い人もいるけど。

「このたびはありがとうございます。勢いで商業施設の計画に乗っていたら、取り返しがつかないことになっていました。ドブロンならたとえ行き詰っても、もう一度道を探すことができます」

 そう村長が言った。


「俺は俺が正しいと思うことをやっただけなんですけどね」

「我々も立ち止まることでこの土地のよさを見つめ直すことができましたから」


 最後に一斉に「ありがとうございました、領主様!」と言われた。

 なかなかくすぐったい経験だけど、悪い気持ちじゃない。


「フランツの決断がいいように運んだね」

 メアリは冷静にお酒をちびちび飲んでいる。


「そうだな。でも、ラッキーパンチだったかもしれないけどな。絶対成功するかはわからなかったし」

「成功がわかってることばっかりだったら苦労しないでしょ」


 たしかにそうかもなと俺もほろ酔いになった。

 でも、完全には酔いつぶれられない。もう一箇所行きたいところがある。



 俺の別荘? でみんなが寝静まったあと、俺はあの沼のほうに出ていった。

 ホワホワにちゃんと会っておきたかった。


「がうがう!」

 今度は後ろからつかまれた。


「ホワホワか?」

「フランツ、助かった。ありがと、がうがう」

 沼トロールにもプラスになってたら本当によかったと思う。


「これからも俺は沼トロールを保護するからな。たとえ税金払ってないとしても、それが俺のやり方だ」

 すると、ホワホワが正面にまわりこんできた。


 そして――


「お返し、する。がうがう」


 くちびるにキスを一度もらった。


「あ、ありがと……」


 沼トロールの感謝のしるしはあったかかった。


「次に来た時は、もっといいこと、する。がうがう。その次は、もっと。がうがう」

「いや、段階あげなくていいからな!?」


 ファントランドという土地のトラブルはひとまず落ち着いたということでいいだろう。

 またドブロンの販路について、考えておこう。

 ケルケル社長なら何か紹介してくれるかな?


 ちなみにそういうことを考えてる間、ホワホワがぎゅっとひっついてます……。

 もし田舎に残してきてる妹がいたら、こんな感じなのかな……。


 ぺろぺろっ。

「うわ、ホワホワ、顔は舐めなくていいって!」

「これもお返し。がうがう。若い娘、これすると男喜ぶ」

 間違ってはないが、いろいろダメな気がする……。


「ま、まあ……これぐらいならいいか。好きなだけやってくれ……」

 そしたら、けっこう長い間、ぺろぺろされることになった。親の動物に舐められてる子供みたいだな……。

男爵の土地に行ってみた編はおしまいです。次回から新展開に入ります! 次はもうちょっと職業ものっぽくなります。泊りがけでちょっと仕事にいきます。

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