52 楽しい露天風呂
チョイ悪親父は膝を打って喜んでいた。
応接室には彼のほかに、俺とメアリ、リディアさんの首謀者三人とセルリアがいる。
「あっ、俺たち、お咎めなしなんですね。それはよかったです」
そこが一番大事だったりする。
「あのハルバルドってインキュバス、よくよく調べてみたら、事業に失敗しかけてて、けっこう借金もふくらんでたんだよね~。いや~、引っかからなくてラッキラッキーって感じ? フランツ君だっけ? これも君の愛の賜物ってな~。はっはっはっは!」
軽い人だな。しかし、こんなのとセルリアのお母さん、結婚したのか。金はあるみたいだけど、いろいろと問題ある気がする。
いや、そんなことはどうでもいいな。肝心のことを聞かないと。
「それで、セルリアは俺の使い魔を続けてもいいんでしょうか?」
相手の瞳を見て、身を乗り出して聞いた。
「うん、いいんじゃない? つーか、最初から使い魔であることを辞めさせるとは言ってないし。使い魔は使い魔、結婚は結婚、是々非々でってことで考えてたから」
横から衝撃が来た。
セルリアがタックルでもするみたいに俺に抱きついてきていた。
「ご主人様、やりましたわ!」
「本当によかった! また、一緒に頑張っていこうな!」
なぜか頬がぬれた。セルリアが泣いていたのだ。
でも、これはうれし涙だから、全然困らない。むしろ、もっともっと泣いてくれ。
「いやあ、よかった、よかった」
隣ではメアリがほっと一息ついている。ほっこりしたいい笑顔だ。
「もし、フランツがこれで殺されることでもあれば、君たちの一族根絶やしにしても足りないぐらいだったよ」
これにはチョイ悪親父も蒼白になっていた。
「ははは……『名状しがたき悪夢の祖』は冗談きついな……。そういうの笑えないよ……」
「なんで? 冗談言わないといけない理由、どこにもないよね。ね?」
あらためてメアリが恐ろしい存在だということを再認識した。
「それじゃ、今日はゆっくり泊まっていく感じでどう? ほら、過ぎたことは水に流す的なアレで……ははは……」
たしかに精神的に疲労困憊したのは事実だし、そこはお言葉に甘えさせてもらおうかな。
セルリアの家はお屋敷だけあって、風呂も無茶苦茶広かった。なんと、男女別々のお風呂があるほどなのだ。
しかも、なんと大浴場だけでなく、露天風呂までついているという仕様だ。
「露天風呂ってはじめて入るけど、開放的で気持ちいいな。のぼせづらい気もするし」
俺は岩にもたれかかりながら、ゆったりとお風呂を堪能していた。空には青い月が出て、空を照らしている。真昼間というような明るい時間はなくて、いつもぼんやりと薄暗いけど、これはこれで慣れてくると情緒があっていいかもしれない。
「そうだ、せっかくだし」
俺は岩にぬれた手で魔法陣を描きながら詠唱をする。
インプたちがぽんと飛び出てくる。
「おっ、フランツさん、今日は何の仕事ですかい?」
ちなみに下級悪魔の場合は召喚した時に使用した魔力が給料のように相手に支払われる。インプは魔族の土地では森や沼地で自給自足に近い生活を送ってるらしいが、魔力がもらえると気力や体力がアップする。なので、呼び出せば来てくれるというわけだ。
「今日は仕事じゃなくて、せっかくだから温泉につかってくれ。福利厚生的なやつだ。興味がないなら戻ってくれていいし」
「よっしゃ!」「儲けた!」
そういった反応がある。よかった、よかった。
「あ~、ちゃんとかけ湯してから入れよ」
ケルケル社長に言われたことがあるけど、インプ召喚も奥が深いのだ。
インプの召喚に関する魔力は黒魔法使いによって基本的に変わらない。
となると、誰でも同じようにインプを使えるかというと、そういうわけではないらしい。
以下、ケルケル社長の言葉。
「インプ召喚っていうのは、つまりインプをアルバイトとして雇っているようなものなんですよ。実はどのインプが呼ばれてやってくるかはインプ側が決めているんです」
「あっ、そうなんですか?」
インプの顔はほぼ同じに見えるから、あまりわかってなかった。
「そして、インプに入る魔力は同じなので、労働条件のほうでインプは行くかどうかを選びます。この術者はいつもきつい労働をさせると思えば全然インプが来なくなります」
インプにきつい労働をさせていたらまったく来なくなって倒産した会社などもあるらしい。
「ですから、まともな条件で使ってあげてくださいね。インプ界の人気者になってください」
そういや、学生時代も人気のあるアルバイトとみんな行かないアルバイトとかあったな。学生食堂の横に求人票張ってあるけど、ずっと募集かかってるのとかあった。
インプたちは烏の行水というか、ぱっと風呂に入って、さっと帰っていった。
「さてと、もうちょっとつかったら俺も出るかな」
しかし、その露天風呂に誰かが入ってきた。あのチョイ悪親父かな。ほかにも男の使用人だって働いてるかもしれないし、誰か来てもなんらおかしくないけど。
けど、そのシルエットを見ていて、その予想がはずれたのに気付いた。
「もう、インプいすぎて騒がしくて入りづらかったし~」
それはリディアさんだった!
バスタオルを体にぴったりと密着させている。体のラインがはっきりわかって、なまめかしい……。
「ど、どうしてリディアさんが……。ここ、男風呂ですよね?」
「うん、そうそう。ああしておけば、こっちにはまず、ほかに女はいないっしょ? その逆もしかりで、女風呂にも男はいないよね~」
「ど、どういうことです……?」
バスタオルをくるくるとはがすと、リディアさんは俺の真横に入ってきた。
そして、ほっぺたをつっついてくる。
「フランツ君、セルリアのためにほんと体張ってたよね。ヤバいぐらいかっこよかったよ。こんなご主人様なら使い魔やるのも悪くないかもって思ったし」
「ありがとうございます。それは素直に光栄です」
褒められるシチュエーションとしてはおかしい気もするけどな……。
「だから、ご褒美あげちゃおうと思ってね~。たくさん、接待するよ♪」
「せ、接待って……」
「そういう意味♪ ちなみにセルリアからも許可済なんで。妹の恩人は姉もご奉仕しないとね~」
リディアさんにしっかりサキュバス的なことをされました。
更新をはじめてから2か月がたちました。ここまで続けてこれたのは読んでくださってる方々のおかげです。これからもよろしくお願いします!




