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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
そのマナーは本当か編

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328 退場させられた

「お茶とお茶菓子を出されても、口にしてはいけません。それはマナー違反です。厚かましい奴と思われます」

 どうも、うさんくさいな……。そんなこと、今までに言われたことないけど。


「セルリア、お茶のマナーなんて知ってるか?」

 セルリアは首を横に振った。

「ただし、人間の社会でのマナーまでは把握しきれていませんから絶対ないのかは不明ですわ。人間の社会でも地域差もあるかもしれませんし。『諸説あります』というものですわね」


「それもそうか。なんか、それだと、珍説を自分で作って、諸説あるうちの一つですと言い張れそうだな……」

 俺も長くメアリと暮らしてきたせいか、性格が昔より悪くなってる気がする。

 まず相手をある程度は疑ってかかるというか。でも、とくに問題は感じない。そのまま鵜呑みにするほうがまずい。


 ただ、ムーヤンちゃんは熱心にノートをとっていた。

 ううむ……。絶対に間違いだという根拠をすぐに提示できない以上、勉強するなとも言えないし、これは止めようがないな。


 あと、もしもそのマナーが一般化してるのであれば、商談などでは知っていたほうがいいというのも事実だ。結局は相手がどう思うかという面もある。


「はーい、はいはい」

 またトトト先輩が手を挙げた。このあたり、押しが強い。

「私がお茶とお菓子を用意する側だったら、少しぐらい飲みなさいよ、失礼な奴ねって思うわよ。お茶が残っててラッキーって感じる奴なんていなくない?」

 俺もそう感じる。俺だけじゃなかったらしく、どこかから「だよな」「もったいないよな」といったなんて声がする。


「黙らっしゃい! そもそも、意見していいとも言ってないのにしゃべるだなんてマナー違反です!」

 マナー講師が怒った。それに関してはそれなりに正しい気もする。


「じゃあ、次からちゃんと当てられてから言うからさ、今回の私の質問は特例ってことでお願い。何か根拠とかあるの? ワタシ、ダークエルフだから王都の風習に詳しくないしさ。そういうものだっていうなら勉強するから」

 トトト先輩は素直に王都の風習や文化を学びたいらしい。

 たしかにエルフの里と違うところも多そうだし、まっとうな理由だと思う。


「そんな都合は知りません! トトトさんですか、もう退場です!」

 げっ、ついに退場宣告されてしまった!

「あと、その横のほうでたまに小声でしゃべっている男の魔法使いとサキュバスの二人もついでに退場! 聞こえてますよ!」

 あっ! バレていたのか……。魔法学校の大講義室のノリでたまにセルリアに話しかけてたのが徒になった。


 けど、一発アウトっていくらなんでも厳しくないか……? 講義の邪魔になる声量じゃないし、こっちも参加費払ってるんだけど……。


「何か言いたいことがあるようですが、知りません! こっちがマナーですよ! 退場!」

 また、ヒゲをしごきながらマナー講師は言った。


 しょうがない。出るか……。

 ムーヤンちゃんを置いていくのが気がひけたけど、何かムーヤンちゃんに言うと、一緒に退場になりそうだし何も言えない。


「退場は受け入れるからさ、お茶のマナーって何か根拠あるの? 書いてる本があったら教えてよ。自主的に調べるから」

 トトト先輩の諦めない心があまりにも強靭に思えてきた……。

 おそらくだけど、元不良の強みだ。こういうの優等生だと、注意されただけでヘコんじゃうんだよな。


「だから、そこのダークエルフは帰れ! 答える権利はない!」

「答える権利はあるんじゃない? だって、お金払ってるわけだし。退場する前に発生した疑問に関しては答えるべきよ」

「そんな自分ルールは知らん! 帰れ、今すぐ帰れ!」


 もう、水掛け論だ。向こうも意固地になってる。

 しかし、ここまで何も出典を言えないっておかしくないか?


 俺たちは大会議室を退出した。

「いや~追い出されちゃったね。巻き込んじゃってごめんね」

 トトト先輩は舌を出した。


「いえ、あの講師の方も大人気ないと思いますわ」

 大会議室を出たところで、マナー講師ヘルモンダーのマナーについての本が平積みで売ってあった。ここでそのまま売っておこうってことか。


「ちょうどいいわ」

 きらんとトトト先輩の目が光った。

「あの、本を売ってるところを荒らすなんてことはしないでくださいね……?」


「そんなこと、暴走族時代にしかしないわよ。ほら、ここに出典が書いてあるんじゃない?」

 そう言うと、トトト先輩は本をめくっていく。


「お茶を出された時のマナーでしょ。このページに書いてあるわね。ええと、出典、出典…………書いてないじゃん」

 トトト先輩は本を閉じた。

「使えないわ。ワタシみたいに質問された時に、根拠を答えられなかったら相手を納得させられないじゃない。謎のマナーだったら信じて使えないわよ」


 その言葉はとてもまっとうだと思った。

 わからないものをありがたかって信奉してもしょうがない。本当にそういうものかと調べる気になるのは自然なことだ。

 ただ、その根拠はここのマナー講師の本には書いてなかった。


「もう、いいわ。帰りましょ。追い出された以上、社長のところに復命するのが筋だしね。サボってムーヤンちゃんを待つのも本来おかしいし」

「まあ、このままぼうっとしてたらサボりということになりますからね……」

 トトト先輩の意見に反論する言葉もなかったので、俺とセルリアもそれに従った。

 あのマナー講師の様子だと、休憩時間にムーヤンちゃんに会って話してるのを見かけただけでも、あとでねちねち言ってきそうだし、会場にいる時点でリスクな気もする。


 あと、トトト先輩としては社長に会いたかったのだろう。



「ねえ、社長、出されたお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしたらマナー違反なの?」

 トトト先輩は追い出されたことを伝えたうえで、ケルケル社長に早速質問した。

 本当にそのことを聞きたかったんだな。


 ただ、社長はそれを聞かれると、天を仰いだ。

「あ~、それですか……。そういうことを言われましたか……」


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