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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
そのマナーは本当か編

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327 変なマナー講師

「わかればいいの。いや~、ワタシ、ペーペーの新人だからこういう講座も受けたほうがいいかな~。社長、そうですよね?」

「興味があるならいいですよ。それにフランツさんがそういう研修をずっと受けてなかったというのは事実ですし、ものは試しで行ってみてもいいのかなとは思います」


 たしかに黒魔法の研修ぐらいしか受けた覚えがない。それで問題が生じたことはないから、いいと言えばいいんだけど、どういうことを話してるのか気になりもする。


「わかりました。じゃあ、行ってみます」

「わたくしも行ってみたいと思いますわ~」


 こうして、俺とセルリア、トトト先輩、それにこっちにもムーヤンちゃんが若手会社員の研修に参加することになった。

一応、帰宅してメアリと博士に伝えたけど、「行くわけないじゃん」「会社員ではなくて研究者だから不要だ」と言われた。それはそうだろうな……。



 研修当日、俺たちは都心部特別区の大手企業高層建築通り沿いを歩いていた。

 もっとも、地名に似合わず、建物はけっこうくたびれた、昔からある貸し会議室用のものだった。


「げ~、これって地名詐欺みたいなものじゃん。まあ、ここは二十年前に牛飼い通りから大手企業高層建築通りに改名したわけだから、その前からある建物なんだろうけどさ」

 長生きしてると、王都が移り変わっていく様子も目にするんだなと思ったけど、またトトト先輩が怒りそうだから黙っていた。


 会場の椅子に座る。

 前のほうにちょっと高い演台がある。あそこに講師が座るんだろう。


 やがて、Uの形のヒゲを鼻の下に二か所付けた講師が出てきた。

「おはようございます、マナー講師のヘルモンダーです。今日は若手社員のための講座ということですが、魔法使いの方が多いようですね」

 そういえば、俺も含めて杖を持ってきてる奴が多い。


 おそらく、業種ごとに別々の研修を開いてるんだろう。若手社員向けといっても、業種が違いすぎると、まとめての話はしづらくなる。


「では、まずは改めて、あいさつからはじめましょう。皆さん立ってください」

 座っていた俺たちも立つ。


 すると、そのマナー講師はぴしっと直立不動になって、肩を上から引っ張られたみたいに吊り上げた。

 あっ、ムーヤンちゃんが見せたのに近い。というか、それよりもさらに極端だ。


「おっはよーございまーすっ!」

 マナー講師の声が会議室に反響した。うるさい!


「はい、今のようにうるさいぐらいに元気よくあいさつをしましょう。こうすることで頭が目覚めて、朝からしっかりと気合いを入れて働くことができます。声のほうで自分の頭までその気にさせるというわけです。小銅貨一枚もかけずに仕事の能率を上げることができますよ」


 そんなふうに言われると、一理ある気もしてきた。これだけ声を出せば、眠気も落ちるだろうから、寝ぼけたミスも減るのかもしれない。


 ヘルモンダーというマナー講師はパネルのようなものを出した。

「なお、こちらが元気なあいさつをした時としなかった時の能率の差のグラフです。見てください。四十パーセントも差がありますね」

 何をもって四十パーセントなのかよくわからないが、一定の根拠はあるんだろう。


「じゃあ、いきましょう。おっはよーございまーすっ!」

 俺たちも言わないといけない流れらしい。

「「おっはよーございまーすっ!」」


「よくできました。じゃあ、着席ください」

 俺たちは席につく。

「実は今のはひっかけ問題です。早速、間違った人がたくさんいますね」

 マナー講師が笑って言った。えっ? どういうことだ?


 横のセルリアを見たけど、セルリアも何を言われているかよくわかってないらしく、不思議そうな顔をしていた。礼儀作法に詳しそうなセルリアでも読めないことらしい。


「マナー講師の私が座る前に座ってしまった人が一定数いますね。座ってくださいと言われても、言った相手が座るより先に座ってはいけません。相手より遅れて座ることによって、相手を尊重してますよということを示すことができるのです」


「……そういうものなのか」

 言われてみると、そんなことのような気がしてきた。


 また、マナー講師がパネルを出した。

「これは相手より先に座った場合と、遅れて座った場合の商談成約率の差を示したものです。はい、これも四十パーセントの差がありますね。四十パーセントも違うんですよ」


「ご主人様、どのような調査をした結果なのでしょうか?」

 セルリアに小声で尋ねられた。

「わからない……。講師をしてるぐらいだから、根拠があるんじゃないかな……」


 と、セルリアの逆側からちょっとした風圧を感じた。

「すいませーん、質問です」

 トトト先輩が手を挙げていた。


「素朴な疑問なんですけど、それを座れって言った相手も意識してて、なおかつ立ってる状態だとしたら、どっちも座らなくて、お互いに立ったまま止まっちゃうっていう妙な事態が生じそうなんだけど、どうするんですか?」

 言われてみればそうだ。


 先に座ったほうが失礼と思ってる奴同士が対峙したら座れない気がする。


「そこの人、ダメですね。まったくダメです」

 ヒゲをしごきながらマナー講師が言った。

「質疑応答の時間などと言ってないのに質問をしました。その時点で大変失礼です。ダメです! 四十パーセント減点です!」


 よくわからないけど、トトト先輩のパーセントがたくさん減った!


「えっ? そんな悪いことなの?」

 トトト先輩も困惑していた。

「当然のことです。はい、次の話に入りますね」

「それで、座れって言った側も席から立ってて、両方座ろうとしなかった場合はどうなるの? 答えてよ」

 トトト先輩が喰いつく。


「質問をすることは失礼なのでマナー違反です。はい、次! それ以上聞いたら退場にしますからね!」

 強引に黙殺してきたな……。


 それから先も初めて耳にするマナーをいろいろと聞かされた。

「はい、皆さん、杖を椅子や机に立てかけているケースが多いですが、それは間違いです。正しくは椅子の下に置きましょう。これによって四十パーセント有利になります」

 本当なのか……?

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