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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
シカ増加問題と伝統工芸編

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324 彼の中では正義

 レダ先輩は魔法使い用の杖を虚から見つけだした。

「たいして特徴のない杖ですね。どの系統の魔法使いが持っていてもおかしくないような」

「目立ちたくないのだろう。こんなところで隠れる時点で権威も何もないだろうし。だが、よかった」

 あまり安堵するような要素は感じられないけど、先輩はそう言った。


「敵はたいしたものではない。隠れ方もそう本格的ではない。主義や主張はわからぬが、フランツ殿が参加してもいい程度の敵だ」

「そこまでわかるんですか?」

「わからなければ、拙者は十回以上殺されている」

 義賊の世界というのは恐ろしいものだと思った。


「敵が白魔法を使うと仮定すれば、いくらでもやりようはあるな」

 レダ先輩は計画を語ってくれた。

「それ、俺におとり役をやらせてください」


 わかっていたことだけど、先輩は渋い顔をした。後輩を危険にさらすわけだものな。

「やりがいのために危ない橋は渡るべきではない」

「それはわかります。ですが、おとりなら俺のほうが適任です。先輩はただ者でないオーラが漂ってるのでおとりとして不自然なんですよ……」

 敵がうかつに手を出せないと思ってためらってしまったら意味がない。


「犯人が攻撃したのは見習いの人でした。俺のほうがその役にずっと近いです」

「了承した。フランツ殿の意欲を買おう」


 先輩に許可を得られた。

 俺たちは元公民館でぐっすり眠った。明日に向けて体力を回復するのも仕事のうちだ。



 翌日の昼すぎ、俺は弓矢と槍を背負って、森に入った。

 大角黒ジカを狩る――ように見せるためだ。


 本格的な武器を持ったのは初めてかもしれない。そのせいか、素人臭さがすごい。

 でも、今はそのほうがいいのだ。レダ先輩にこんなのを持たせたら仕事人の風情が確実に出る。


 あと、おとりなのでびくびくしてしまう。

 それも素人が大角黒ジカを探していると考えればつじつまが合う。前に犯人が狙ったターゲットとほぼ同じ存在に俺はなっている。


「シカ、どこだ? デカいのに意外と見つからないな」

 のそのそ、森の中を動く。


 いつ攻撃されるのかと思って作業するのは心理的に嫌だから、早目に出てきてほしいところだけど、文句を言ってもしょうがないか。


 ガサガサと草むらをかき分ける音がした。

 大角黒ジカのオスが前のほうにいる。


「よし! 動くなよ!」

 その巨体を前にすると、独特の高揚感があった。これが狩りか。

 獣との間の真剣勝負を俺はやろうとしている。


 そして俺が矢を放とうとした時――

 何かが俺に向かって飛んでくる気配、否、殺気がした!


 さっと後ろを振り返る。

 ほの白い何かが足に来る。被害者が狙われたのと同じだ。


 しかし――その半透明の剣は俺にぶつかる直前で黒い膜にはじかれて、くるりと一回転し――


 まったく逆の方向に戻っていく。


 黒魔法「法返し」。

 白魔法による攻撃をそっくりそのまま相手に向ける。かつての白魔法使いと黒魔法使いの戦いの歴史を物語るような魔法だ。


 もちろん、白魔法じゃなかった場合のことも考えて防御は固めてたけど……。服には鉄板が入っている。ぎこちない動きになってる二割ぐらいの理由はそれのせいだ。


 かなり離れたところから、「くあっ!」と小さな悲鳴が聞こえた。

 犯人はそこか。


 もっとも、ここから先は俺の役目じゃない。

 土ががばっとめくれたかと思うと、レダ先輩が姿を現した。


「逃がすかっ! 賊め!」

 レダ先輩は森の高低差も関係なしに駆け抜けていく。


 もう、俺は見守るだけでいい。

 遠くから敵の「くっ! やめろ!」といった声がした。

 一件落着と言ってよさそうだ。相手も十字傷のレダが来るとは思ってなかっただろう。

 悪事を働くから、運も悪くなっていくんだぞ。


 俺がレダ先輩のほうに近づいていくと、ちょうど縄で完全に犯人を拘束しているところだった。

「やっぱり本職ですね」

「本職はライターだ。なので、ここからが本領発揮だ」

 レダ先輩はどうやらふざけてそう言ったわけではないらしい。

「こいつが何者か徹底的に聞き出して記事にしてやるぞ」



 犯人は当然、警察に突き出されるわけだが、それまでの間に犯人の目的はしっかりと聞きだすことができた。


 その白魔法使いは自分のことを「正義の味方」だとまず主張した。

 レダ先輩がふざけるなとにらみつけると、その先を語った。

「動物保護団体に所属している」と白魔法使いの男は言った。


 まだ俺の中で動物保護団体に攻撃された理由がよくわからなかったが、話が進むうちにはっきりした。

 そいつらは大角黒ジカを角細工を作るために殺すことは許されないと言った。だから、角細工の見習いを攻撃して、職人が増えないようにしようとしたと。


「いや……絶滅しそうな動物を狩るなら文句言われるのもわかるけど、増えすぎて問題になってる動物だぞ? あと、行政の許可もとったうえでやってるし。増えすぎた動物の対策は地方でも待ったなしの課題だし」


 俺が言ったことは、俺の中では筋が通っているつもりだ。

 ただ、相手は何があろうとシカを殺すことは許されないと繰り返すだけだった。


「けど、生物を一切食わずに生きていくのって無理じゃないか? 仮に植物だけ摂取して生きますっていっても、植物も生物なわけだし。キャベツは殺してもいいけど、シカはダメってどういう論理なんだ?」


「フランツ殿、話し合うのは無理だ。自分が正しいと信じきって聞く耳を持たぬ者とは交渉も討論もできん」

 レダ先輩は目を閉じて首を左右に振った。


「その団体の名前は拙者も存じ上げている。各地でトラブルを起こしていて、過去には本部が軍隊によって制圧されたほどだ」

 それってギャングより危ない組織なんじゃないか……?


『白魔法『正義の短剣』が使えたからといって、その者が正義として妥当かは別である。また正義は一つではない。でなければ、戦争で両陣営が『正義の短剣』が使われた歴史を説明できぬ」


 犯人はやってきた警察に連行されていった。


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