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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
シカ増加問題と伝統工芸編

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320 ファーフィスターニャ先輩と宿泊

「しかし、ベンドローほどではなくても偏屈な職人が多くて、若い者は逃げていってしまったというのは事実です。もう少し、角細工を後世に残そうという意識がある職人がいればよかったのですが……もう手遅れかもしれませんなあ……」

 村長はまた諦めたような顔をした。ファントランドに大型商業施設が建つかもという時も、そんな顔をしていた。


「村長、まだやれることは残っていると思います。それに……角細工が盛んになれば、大角黒ジカの害も減らせるかもしれませんし」

「ですな。そうなってくれれば本当によいですなあ」


 もう、黒魔法使いの仕事を飛び越えてる気もするけど、やれることはやっておきたい。

 今の歳から諦め癖がついたら、そのままずるずるいってしまいそうな気がする。それはいくらなんでも早すぎる。

 せっかく、ケルケル社長という、いろんなことに挑戦させてくれる人の下で働いているんだから。


「あ、領主様のゲストハウスは掃除して使えるようにしておりますので、よかったらそちらで寝泊まりしてくだされ。夕飯は私の家に来ていただければご用意いたします」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 その日、ドブロンで歓待されて、元公民館だった領主用の館に帰った。たしかにきれいに掃除されていた。領民に慕われているようなので、領主としては本当にありがたい。


 で、俺がお風呂に入っていると――

「後輩君、一緒に入る」

 なぜか、ファーフィスターニャ先輩が入ってきた!


「あの……先輩、先にお風呂、入りませんでした?」

「今日はセルリアさんもいないし、代わりに癒やしてあげる」


 もう、とことん流されるか……。

「じゃあ、お願いします」

 結局、お風呂でセルリアとしているようなことをしました。


 そのあとも、なりゆき上、先輩と抱き合う形になっていた。


「後輩君って、不気味なぐらい真面目だね」

 ぼそっと囁くように言われた。

 すぐ前にある先輩の顔は自分で真面目だねと言ったように、いつもより真面目に見えた。


「なんで、そんなに真面目にやれるの? わたしが若かった頃はもっといいかげんだった。困ってる人も大半は見て見ぬふりをしてた。後輩君は常に動いてる気がする」


「こんな時に褒めるのは反則ですよ……」

「わたしとしては、燃え尽きないか心配。そんな人はたくさん見てきた」


 それが先輩の言いたかったことなんだろう。

 なんにでも手を出していけば、いつかは大きな壁にぶち当たって挫折してもおかしくない。それで、俺が仕事自体に向き合えなくなることを先輩は危惧しているのだ。


「熱血なまま、何十年も働ける社会人はほぼいない。後輩君はまだ二十歳だから、ちょっと怖い」

 まさかそんなふうに表現されるだなんて思わなかった。


「俺、熱血だと自分で考えたことなんて一度もないですよ。スポーツも全然得意じゃないし」

「わたしからはそう見えるけど」


 その理由を自分なりに考えてみた。答えはあっさりと出た。

「人にものすごく恵まれてたからじゃないですかね」

 先輩の肩に少し力を込めた。


「使い魔のセルリア、メアリ、それと俺にやりたいことを好きなだけやらせてくれて見守ってくれるケルケル社長、あと、こうやって俺のことを気づかってくれる先輩――そりゃ、のびのび生きられますよ」

 こういう時、ありがとうぐらいしか言葉が出てこない。


「人の縁って、とんでもなく大事なんだなって思い知らされてます。たとえば、角細工だって、もしもっと人格者の人がいて、角細工を広めるぞって思って、さらにそれを支援しようって人がいてくれて、いろいろつながってたらこんなひどいことにはなってなかった」

 でも、それだけすべてつながるとしては、それは運の領域だ。一種の奇跡だ。


「俺は黒魔法の素質はほかの平均的な魔法使いよりは少しあったのかもしれません。でも、人に恵まれてなかったら、ずっと手前で止まっていました。ありがとうございます」


「後輩君……もう一回サービス……」

 追加でサキュバス的なことをやりました。

 いいこと言ったつもりなのに、先輩をその気にさせるみたいになってしまって、心苦しいな……。



 翌日、工房に向かうのは緊張した。

 バンドローさんに初めて出会う時より緊張していると言ってもいい。


「一日で何が起きたんだろう……。予想がつかない……」

 レダ先輩が性根を叩きなおすと言ったからにはいろんな修練が課されたとは思う。だが、相手も性格が破綻したまま七十八歳まで生きてきたのだ。そんなにあっさり変わらない気がする。


 一番ありそうなのは、ベンドローさんが逃げ出したというオチだろうか。

 レダ先輩に屈するのは嫌だ、でもどう考えても勝てない、そしたら逃げるしかないのでは?


 俺はファーフィスターニャ先輩とともにゆっくりと工房に入った。


「お、おはよう! ほ、本日もよろしく!」

 威勢のいい声だと思ったら、ベンドローさんだった!

 表情は無理矢理笑ってるような感じだが、とにかく朝のあいさつをされたのは事実だ。


「おはようございます。よろしくお願いいたします……」

「今日は角細工の手順を教えていきたいと思います。可能であればメモをとったりしていってください。あとで本にしてまとめてもらってもけっこうです。後世のためにそういう記録もあったほうがいいですし、学びやすくもなりますから」


 俺はレダ先輩のほうを向いた。ベンドローさんの後ろで腕組みして見守っていたのだ。


「先輩、失礼は承知でお聞きしますが、洗脳系の魔法を使ったりしてませんよね?」

「フランツ殿、本当に失礼だ。ただ、拙者はベンドロー殿におぬしにはまだやるべき使命が残っていると言って聞かせたまで」


 言葉で説得しきったのか!

「フランツ君、昨日は悪いことをした。ワシも少しでもお役に立てればと思う。後進の指導にもあたりたい」

「あの、一日のうちに何があったんですか? 魔法使いが変身してたりしませんよね?」


「いや、間違いなく、ベンドロー本人だ。やっと吹っ切れた」

 吹っ切れすぎだろう。


ギリギリで入稿が間に合ったので、8月23日頃、ダッシュエックス文庫最新6巻が出ます! なにとぞよろしくお願いいたします!

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