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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
シカ増加問題と伝統工芸編

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319 逆にしつけた

 なんか、以前と空気が違っている。

 しんと静まり返っている。


 まさか俺を置いて、どこかに行っちゃったとか?

 その可能性が一番高い気がする。

 少なくとも賊がやってきて、全員を連れ去ったという可能性よりはずっと高い。有名な職人だから金になる作品もあるだろうけど、レダ先輩に勝てる賊がいるとも思えない。そんなに強かったら、別の手段で稼げる。


 いや、実は私語一切禁止というほうがありうるぞ。で、「ただいま帰りました~」と言って入ったら、「私語禁止って言ったじゃろう! 破門じゃ!」などと言われるのだ。


 リアルに想像できた……。なお、私語禁止なんて一言も俺は言われてない。

 そういうことじゃないんだよな。ああいうタイプは自分がルールだから筋が通ってるかどうかなんてどうでもいいのだ。


 息を殺して、建物の中に入った。

 本当に物音一つしない。いったい、どこにいるんだ?


 ――パシーン!


 なんだ? 何かを叩くような音がしたぞ。

 おいおい、頑固職人でも女子を叩くのはダメだぞ。俺がファーフィスターニャ先輩もレダ先輩も呼んだ手前、二人の身の安全が保証できないなら帰るしかなくなる。


 音のしたほうへ俺は急いだ。


 そこでは肩を叩かれたとおぼしきベンドローさんがうずくまっていた。

「く、くぅ……痛い……」

 その背後に棒を持ったレダ先輩が立っている。


「叩いたの、レダ先輩のほうか!」

 ベンドローさんの横ではファーフィスターニャ先輩も同じように地べたに足を組んで座っている。なんだ、これ……?


「フランツ殿、戻られたか。見てのとおり、修行をしている最中なり」

「見てのとおりと言われましても……」

 どうして、レダ先輩のほうが修行をベンドローさんにさせているのか。


 もしや実はこのご老人、すごいマゾなのか? 女子に叩かれるのが好きってことか?


「とても道理の通らないことをわめいてきたので、拙者が毅然とそれはおかしい、天に誓っておかしいと申した。すると、納得せずに婦女子に手を挙げるような真似をしてきたので縛り上げた。そのあと、性根を入れ替えるように精神統一の修行をさせている次第なり」


 理不尽なやり方もレダ先輩には通じなかったのか。

 そうだよな、ここは妥協して我慢しておくかなんてレダ先輩が思うわけないよな……。


 レダ先輩がベンドローさんをぐいっと起こした。

「さあ、またしっかりと精神を落ち着けるように。だが、フランツ殿が弁当を買ってきてくれたことに感謝の意を示すのは許可する。さあ、ありがとうと言え」


「小僧、ずいぶん時間がかかったが冷めておらんだろうな?」

 またレダ先輩の棒がベンドローさんの肩をバシーンと打った。

「ぐはぁっ!」


「人に物を頼んでその物言い、下種の極み。自分の愚かさをこの痛みをもって知れ!」

 熱烈指導!

「さあ、感謝の言葉を示せ。おぬしはこの世界の王ではない。すべての者に生かされておるのだ」


「あ、ありがとうございます……フランツさん……」

 ベンドローさんに頭を下げられた。

「いえ、どういたしまして……」

 かなりシュールな光景になっているな。


 その間、ずっとファーフィスターニャ先輩は表情一つ変えずに座っていた。

 ためしに先輩の前で手を振ってみた。


 反応がないし、これはおそらく――寝ている!


「ファーフィスターニャ殿はさすがなり。心がすっかり空っぽになっている。やはり達観していらっしゃる」

 寝ていると教えるべきなのか? いや、それでファーフィスターニャ先輩が叩かれてもよくないしな……。


「あの、ベンドローさん、俺は次は何をしたらいいですか?」

「フランツ殿、申し訳ないがベンドロー殿は拙者が鍛えなおす必要がありそうだ。しばらく待っておいてくれぬか。丸一日はかかるからフランツ殿が領地にしているファントランドにファーフィスターニャ殿と出かけてもけっこうだが」


 趣旨が変わっている!

 ファーフィスターニャ先輩がさっと立ち上がった。あれ、起きていたのか?

「よく寝られた」

 やはり寝ていたらしい。


「後輩君の土地に行こうか。モートリ・オルクエンテ五世に運んでもらえば、すぐに着くし」

 モートリ・オルクエンテ五世は先輩の使役する巨大フクロウの使い魔だ。

「じゃあ、それでお願いします……」


 ここで状況を整理しようとしても無意味な気がするし、もう流れに身を任せることにしよう。宿も寝泊まりしながら勉強することになるかもと思ってとってなかったんだよな。最悪、ファントランドまで行けば男爵用の建物が空いてるし。

 俺の企画書がまったく想定しないところに話は動いていた。



 モートリ・オルクエンテ五世に乗って、ファントランドのほうに飛んだ。

 よく晴れた日だったのでなかなか気持ちいい。

 下に目をやると森に何か黒いのが動いてるのがけっこう見えた。


「あれが大角黒ジカですね。あれだけ大きいとわかるものだな」

 やけに黒いものがぽつぽつある。

「今はあの大ジカを狩猟する方も少ないと聞きおよびそうろう。ということは、大手を振って歩いても何も迷惑せぬという証拠にそうろう」

 この古風なしゃべり方はフクロウのモートリ・オルクエンテ五世だ。


「たしかに、あんなのが増えすぎたら木々も食い尽くされそうだし、どうにかしなきゃな。でも……どうなるんだろ?」


「後輩君、強い個性と個性がぶつかり合うのはよくあること。普通の個性の我々が考えてもしょうがないよ」

 先輩も絶対に強い個性のほうだと思うけど、レダ先輩よりは普通寄りなのかもしれない。


 ファントランドに着くと、村長宅で歓待された。

 もう、ベンドローさんのほうに見習いで行くという話は通っていたらしい。田舎って口コミでやたらと広がるからな。


「いやあ、あの『オーガも逃げ出すベンドロー』をしつけなおすとは愉快ですなあ」「ざまあみろってことですよ。天罰だ、天罰」「たまには人の苦しみもわかればいいのよ」


 ファントランドの人もボロカスに言ってるな……。

 やはり頑固職人じゃなくて、ただの性格悪い職人だったのではなかろうか。


 ただ、村長宅をよく見ると角細工の置物があったりした。

「やはり、このへんの特産なんですね」

「隣の里のものではありますが、なかなかよいものです。今でも王都にもコレクターも何人もいるはずですしな」

 村長も角細工のよさは知っているらしかった。

8月に小説最新巻が出る・・・はずなんですが、今、どうも落ちるかどうかの瀬戸際らしいです(ずっと宣伝してこなかったのは、そのせいです・・・)。当然ながら、なろうに連載してる分があるので原稿のほうは揃ってますので、その・・・理由はお察しください。

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