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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
シカ増加問題と伝統工芸編

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313 里帰りは一人で

今回から新展開です! よろしくお願いいたします!

 今年の里帰りは無事に終わった。

 というのも、俺が一人で戻ったからだ。


「おかえりなさいませ」

 王都郊外の家に戻ってきて、セルリアのその言葉を聞くと、もはやこちらが自分の故郷であるような気がする。


 そこにメアリも猫のナイトメアを抱いてやってきた。

「はい、ナイトメア、フランツだよ。顔を忘れちゃダメだよ」

「ウニャー」

 メアリはナイトメアを俺に手渡す。ナイトメアもとくに抵抗したりはしない。


「うむうむ。親がいるうちに孝行しておくほうがいい」

 テーブルではグダマル博士が年寄りくさくうなずいていた。


「フランツ、ちなみに博士の実家、無茶苦茶博士に甘かったよ。完全に子供扱いだった。いまだにグダちゃんって呼ばれてたし」

「おい、君、余計なことを言うな!」

 メアリがさっとバラした。


 ちなみにメアリとグダマル博士は時期をずらして、少し前に一緒に魔界のほうに帰った。

 メアリ一人だと寂しいかもしれないけど、一緒に博士がついていってくれるなら、そこもカバーできる。

 ただメアリが里帰りする時には、厳しくこう言いつけられたけど。

 ――フランツ、くれぐれもナイトメアのお世話はしっかりしてね。

 うん、しっかりやったつもりだ。


 家族が増えたからといって大人数で戻ると、また親父が色目を使って、余計なことを言うし(もはや懸念ですらなくて確定事項)、それが原因で離婚の危機なんてことにもなる。


 それを防ぐためには俺一人で戻るのが最も無難だった。

 まあ、毎年この方法を使えるかはわからないが、今回は成人式の時に親がこっちに来てたのもあって、そんなにインターバルが空いてない。だから、許容範囲だったというのもある。


 セルリアも違うタイミングでリディアさんと一緒に帰省することになっているし、里帰りの問題はクリアできる。人数が増えると里帰りの日程を確定させるだけでも大変だ。


「そういや、社長たちやほかの社員のみんなも里帰りしたのかな」

 あんまり社長の故郷がどこだとか聞かないけど、魔界のどこかにケルベロスの里みたいなのがあるのだとは思う。


「里帰りって価値観があまりない魔族もいるからね。社長はあまり気にしないんじゃない? どっちかというと、人間の世界に強い慣習だと思うよ」

 メアリが手を伸ばしてきたので、ナイトメアを返却した。完全にナイトメアの母親のポジションになっている。


「だって、人間のほうが寿命が魔族よりずっと短いでしょ。だから顔を見せておこうって発想にもなるんだよ。わらわの寿命のスパンだと、そのうち戻ればいっかってなるし」

「生々しいけど、それはそうかもな……」

 俺も四千歳とか五千歳なら五年に一回で十分だななんて思う気がする。


「そのへんは、社員はみんな融通が利くだろうさ。わたしが保証する」

 博士がドヤ顔になった。

「それはまた、どうしてですか」

「だって、みんな独身だから、義理の親に顔を出さなきゃとかないだろう」


「また、生々しい答えだ……。あの、サンソンスー先輩やファーフィスターニャ先輩の前ではあまり言わないでくださいね……」

 全員が結婚する気がないというわけではないはずだからな……。


「そうだ、里帰りでいいことを思いつきましたわ!」

 ぱんとセルリアが手を打ち鳴らした。


「せっかくですし、今日の晩御飯は『田舎屋』に食べに行きませんか? 最近、顔を出せていませんでしたし、領主としてホワホワちゃんやマコリベさんにもあいさつに行くという仕事もこなせて一挙両得ですわ!」


 たしかに俺はファントランドの男爵だものな。そっちのほうにも顔を出したほうがいいんだろうけど、それは正直言って……面倒だ。交通機関がショボいので、トトト先輩のドラゴンスケルトンがほしくなる。


 でも、王都でお店をやってる『田舎屋』ならすぐに行ける。そこからファントランドにもよろしく言ってもらったり、ファントランドのことを聞いたりすればいい。


「セルリア、グッドアイディアだよ!」

「それほどでも……ありますわ。ちょっと、これはいい思い付きだと自分でも思いましたの♪」


 メアリも博士もとくに異論はないらしい。

 というか、博士は「ナイトメア、今日は少しごはんが早くなるぞ」と食事の用意をしに行った。お店に行くのは確定のようだ。


「ちょっと、博士! わらわの仕事をとって、ナイトメアの人気を集めようという作戦はダメだよ!」

「こういうのは気が利く者のほうがモテるのだ。猫でもそれは同じだ」


 その様子を後ろで見ていて、これは俺の故郷のライトストーンに全員で帰るのはいよいよ難しそうだなと思った。

 あるいは、いっそ、ナイトメアも連れて帰るかな。親父もまさか猫に興奮はしないだろう。



 こうして俺たち家族は泥棒橋通りに店を構える『田舎屋』へと向かったのだが――


===

店長・従業員共に地元のファントランドに帰省しております。

申し訳ありませんが、○○日まで休業いたします。

復活した際には、ファントランド産の食材も多くお店に並ぶようにしますので、ご来店をお待ちしております! 店主敬白

===


「マコリベさんも帰省か~!」

 タイミングが悪かった。

 まあ、それもそうか。

 ファントランドなんて典型的な田舎なわけで、そりゃマコリベさんと地元の結びつきも強い。

 強いどころか、ファントランドの情報発信と地元商品の販売を目的にして、『田舎屋』もオープンしたわけだから、ちゃんとファントランドに帰って、そのあたりの報告と今後の展開の話し合いは必須だ。


「わわわ……申し訳ありませんわ……。わたくしとしたことが事前のチェックもせずに、お店を提案してしまいました……」

 セルリアががっくりきている。「それほどでもありますわ」なんて言った手前、余計に恥ずかしいというのもあるかもしれない。


「セルリア、ほかにもお店はいくらでもあるから! 落ち込む必要も謝る必要もないから!」


「グダマル博士、あっちに子供向けメニューが充実している居酒屋があるよ」

「わたしを子供扱いするな!」

 俺がセルリアを慰めている横で、子供っぽい二人がケンカをしそうになっていた……。

コミカライズが3巻までの全巻重版が決定いたしました! 本当にありがとうございます!

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