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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
災害のあった場所での仕事編

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311 闇の空間へようこそ

「ここ、温暖な土地なんで、こういう分厚い冬着はいらないんですよね。雑巾ぐらいにしか使えないでしょう」

 その社長の言葉で俺は、はっとした。


「この古着を送った人たちは相手のためを想ってはいますが、相手が何をもらえば喜ぶかまでは考えてはいないんです。だから、押しつけなんです。相手を苦しめることになってしまっては、せっかくの善意がもったいないですし、イヤガラセと同じ効果を持ってしまいます」


「あっ、こっちは手編みの毛織物ですわね……。ものすごく時間をかけているのがわかるだけに、不要というのはわたくしが見ても痛々しいですわ」

 セルリアも違う箱から一着の厚手の服を出していた。

 古着もきついけど、手作りの服はもっときついな!


「物を送る・贈るというのもコミュニケーションなんです。自分だけじゃなくて、相手が存在することなんです。だから、相手のことを考えてやらなければいけないんですよ」

「だから、先入観で正解と思うことをやるんじゃなくて、相手と向き合って、知ろうとしなきゃいけないってことですね」

 新しい建物がどんどんできてるといっても、被災地には被災地なりの問題が残ってる。


「フランツさんは吸収が早いですね。やっぱりお連れしてよかったです♪」

 社長は尻尾を振って、微笑んでくれた。

 出張先でも褒められるとうれしいものだ。照れくさいけど。


 それからノリノリなまま、こう付け足した。

「さてと、私たちはちゃんとメントマラ郡の方々と連絡を繰り返して、メントマラ郡の方々が必要だと思っているものを作りますからね♪ そこで無様な失敗はしませんよ!


 そうそう、俺たちは何かやるためにこの土地に来ているはずだ。

「社長、黒魔法でいったい何を作るんですか? いいかげん教えてくださいよ」

 あんまり黒魔法って物作りに向いてない気がするぞ。


 社長は左目を閉じて、イタズラっぽくウィンクする。

「コミュニケーションに大切なものですよ」


 このヒントだと難しすぎる……。

「いや、社長、わからないままだと業務に差し支えがあるんですけど……」

 俺の仕事は社長のクイズに答えることじゃないと思う。


「作るのは私がやりますので、お二人には品質チェックをお願いします」

「あれ、検査係ですの?」

 セルリアがそう尋ねたのも当然だ。まさか本当に出張して見聞を広めるのが目的なだけか? それはそれでいいんだけど。


「作れるなら手伝ってもらってもいいのですが、とても特殊な黒魔法ですからフランツさんでもセルリアさんでもまだ無理です。使えないのが当たり前ですから、品質チェックまでゆっくりしておいてください」

 こう言われると、俺としても文句は言えない。


「むしろ、体力を温存するのが仕事だと思っていてください♪」



 俺とセルリアは庁舎の空き部屋でしばらく休憩をもらっていた。


「ケルケル社長は何をなさっているんでしょうね?」

 セルリアも見当もつかないらしい。


「まったく、お手上げだ……。今回、いつも以上に秘密主義が徹底してる気がする。黒魔法らしいといえば、そうだけど」

 体力温存を仰せつかっているので歩き回るのもまずい。


 やがて、社長が休憩していた部屋に戻ってきた。もう、コータリさんもいない。


「できましたから、二人とも、来てくださいね」

「わかりました。どこへ行けばいいんですか?」

「この少し先の建物ですよ」


 俺とセルリアが連れてこられたのは――

 なんと病院だった……。


 病院自体はこぎれいな白い壁の建物だけど、やはり抵抗がある。


「もしや、死者を動かすだとか、そういったことですか……?」

 黒魔法に関係しそうな場所だと言われれば、たしかにそうだと思うけど、けっこう恐ろしい仕事になりそうだな……。

 アンデッドの検査だとか? あまり考えたくない仕事だ。


「いえいえ。死者は一切関係ありません。こっちです」

 社長はどんどん病院の中を進んでいく。病室とは違うし、治療関係の部屋が並んでいるエリアのようだ。


 そして、社長が開けた部屋の中には――深淵としか言えない闇みたいなものがいくつも浮かんでいた。


「なんだ、これ……」

 それが俺の率直な感想だった。

 この闇に触れたらどうなるのか、見当もつかない。


「ご主人様……極めて高度な黒魔法が使用されていますわ……。わたくしでは手が出ませんわ……」

「俺もそうだ……。上級にもほどがある……」


「ふふふ、たまには社長らしいところを見せないといけませんからね。だてに五世紀以上生きていませんよ」

 社長もかわいらしく胸を張っている。


「これをどう検査するんですか? そもそも、触ってもいいんですか?」

「当然です。それどころか入れます」

 社長は断言する。いつのまにか、俺とセルリアの後ろに回り込んだ。

 なんか、嫌な予感がした。


「さあ、ためしに一つ、お二人で入ってみてください!」

 社長が俺とセルリアを押した!


「わっ!」「きゃっ!」

 思った以上に力が強くて、俺たちはぽっかり口を開けた深淵の一つに放り込まれた!



 俺たちはよろけて、手をついた。

 そのせいで、そこがふわふわしたやわらかい床であることを知った。

 その深淵の内部は薄暗くはあったが、完全な闇というわけではなく、ある程度の光はあった。

 天井もかなり高くて、立ち上がっても、頭を打つなんてこともない。

 あと、もこもこしたベッドになりそうな空間と、別室にはこぽこぽ小さな深淵からお湯が出ているかけ流しの温泉(?)もあった。


「一種の亜空間のようですわね」

「生活が問題なくできる、部屋みたいな空間ってことか」


『そうです! 闇を使って小さな個別空間を作りました!』

 社長の声が反響して聞こえる。改めて、社長が黒魔法使いとしてもとんでもない技量を持ってることを理解した。


 部屋をぐるっと眺めて、俺は結論を出した。

「そうか! ここを避難所として使ってもらうってことですね!」

『それでもいいんですけど、ちょっとだけ違います』

 じゃあ、何だろう?


『そこはサキュバス的なことをしてもらうための空間です』

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