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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
災害のあった場所での仕事編

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309/337

309 フッスに到着

 ドラゴンスケルトンで四時間ほど。

 俺たちは昼すぎにメントマラ郡のフッスという町に着いた。


「あれ……」

「あらまあ……」

 俺もセルリアも似た反応を示していた。


 たしか不自然なほどだだっ広い場所も残っているが――

 その中で何箇所も背の高い建物が工事中だった。


「ご主人様……これ、王都の郊外なんかより、よっぽど都会的な街になりそうな気がするんですが……」

「うん……。少なくとも俺の地元のライトストーンより発展してる印象だ。まだ建設中だけど」


 社長を見ると、「これを見てほしかった!」という顔をしている。

 あんまり、被災地がボロボロというイメージだけ先行させるなってことかな……?


 そこにクマぐらいなら投げ飛ばしそうなほどの腕の太い男の人がやってきた。

「お待たせしました! ネクログラント黒魔法社の方ですね! 私は新設されたメントマラ郡の復興課のコータリです!」


 声も大きい。軽く風圧を感じたぐらいだ。

 俺たちもあいさつをする。コータリさんは俺たち全員とぎゅっと握手をした。その時感じた握力もすごかった。もし、殴り合いのケンカをしたら一発でノックアウトだな……。


「フランツさん、セルリアさん、今日の前半はせっかくなのでフッスの復興状況を見させていただきます。それで黒魔法で何ができるか考えるのが、仕事といえば仕事ですかね♪」

「我々、メントマラ郡の者としてもフッスの現状を見ていただきたいんです! 大歓迎です!」


 このコータリって人、やっぱり、声の圧がすごいな……。オペラ歌手にでもなれそうだ……。

 しかし、そこでコータリさんはちょっと切なそうに苦笑した。


「なにせ、報道関係の方も、めっきり来なくなってしまいましたからね……。ちょっとでも、フッスのことを、メントマラ郡のことを知ってくれる人が増えてほしいんです」


「どうしても報道の人はセンセーショナルなことを優先しちゃいますからね~。復興よりも災害による被害のほうがインパクトがあるので、復興の情報は流れないんですよね」

「そうなんです! なので、元気にやってるフッスのところも知ってください!」


 俺たちはコータリさんに連れられて、頑丈な建設中の建物をいくつも見てまわった。

「今できる限りの技術で、安全な建物を作っています。地震は赤魔法の大地に関するもので揺れを軽減し、火事になっても青魔法で水を出して早目に消化できるようになっています」

「へえ……。魔法がいろいろ役立ってるんですね……」


 俺は完全にただの見学者だ。それが仕事だと言えばそれまでなんだけど。

 黒魔法がどこに使えるか、考えようとはしてるけど、ほぼそんなものはないように思う。


「竜巻が来た直後は住民の方々も呆然としていました。今も家を失ったままで公民館で暮らしてる人も多いです。しかし、ずっとくよくよしててもしょうがないだろうということで、フッス再生の大きな計画を建てたんです!」


 コータリさんは大きな声とともに、俺たちに資料を配った。

 それは中心部に都市があって、外側にはお祭りやイベントで使える広い公園がある都市設計図だった。


「フッスの中心部は見事なほどの更地になってしまいました。だったら、いっそのこと、更地を活かして街を作ってしまおうということになったんです。どんな街にも負けない素晴らしいフッスを作るんです!」

「これはまたすごい計画ですね……」


 俺はそのスケールに圧倒されていた。

 正直、災害現場というから、もっと痛ましい話を聞いたり見たりすることになると覚悟していたが、ずっと未来の話ばかりされている。


「メントマラ郡に勤める私もここまでやるかと思っているぐらいです。でも、これぐらいしないとダメなんだという気持ちでもいます」

 コータリさんは真面目な顔になる。


「なにせ、家がなくなって、ほかの都市に引っ越していった人もたくさんいるんです。なかにはそのままフッスに戻ってこないケースも多いでしょう。家すらなくなってそこに残れというのも酷な話ですから」

「ですね……」


 俺だって王都がいきなり住めない状況になったら、地元のライトストーンに疎開しようと考えるはずだ。


「なので、フッスを素晴らしい街にすることで、できるだけ戻ってきてもらおう。あるいは新しい住民に引っ越してきてもらおうと考えているわけです!」

 コータリさんは役人なのに、威勢のいい商店主みたいに話を続けた。


「今、作っている高層建築には娯楽施設もいくつか入ります。観光地としても楽しんでもらえるような場所にするつもりです。やれることは本当に全部やりますよ」

 コータリさんの性格によるものもあるだろうけど、建設中の建物を眺めていると、自分の気持ちも前向きになってきた。


 ただ、俺の小市民的な価値観は、とある疑問点にぶつかった。

「すいません、コータリさん、しょうもない質問かもしれないんですが」

「はい、なんでしょう。どしどし質問してください!」


「あの、これだけじゃぶじゃぶお金を使って財政的には大丈夫なんですか? そうじゃなくても、復興だけでもすごくお金がかかりそうなんですが」

 この大々的な再開発、どれだけの金貨が必要か俺には想像もつかない。しかし、莫大な額だということはわかる。


「王国からも特別予算が出るのかもしれませんが、それでも足らないんじゃ……」

 コータリさんより先に社長が「フランツさん、いい視点ですね」と言った。


「その質問、これまでにも何度もされました。地元の方からもされました。皆さん、気になりますよね」

 コータリさんも苦笑いをしている。この様子だとよくある疑問だったのか。


 けど、コータリさんの回答はけろりとしている割にはとんでもないものだった。

「とにかく借金をやって作ってます」


 借金……。一サラリーマンとしては聞きたくない言葉の上位に来る。

「おっしゃるように復興にもお金がいりますし、こんな再開発のお金は足りません。借金で補ってます」

「それって財政的には大丈夫なんですか?」


 大丈夫だからやっているんだろうけど、他人事ながら心配になってしまう。

「だとしても、やるしかなかったんですよ」

 コータリさんの表情にはすがすがしい諦観みたいなものがあった。


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