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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
災害のあった場所での仕事編

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308 竜巻被害のところへ

今回から新展開です! よろしくお願いいたします!

 就職してから二度目の本格的な冬がやってきた。

「うぅ……通勤もつらい季節になりましたわね……」

 通勤中、セルリアは腕で自分の体を包むようにしている。


「いや、毎度のことだけど、セルリアは格好のせいもかなりあると思うぞ……」

 そりゃ、それだけ布地の薄い服装だったら寒いだろう。上級魔族だろうと寒いだろう。


「これでも去年よりは慣れてきた気がするのですが……く、くしゅっ!」

「ほんとに風邪ひきそうだから、あったかい格好をしてくれ!」

 これも去年もそうだったけど、見てるこっちがつらい!


「フランツ、諦めなよ。魔族にも譲れないところがあるのさ。セルリアの場合、それが露出度ってことなの」

「いや、メアリ、理屈ではわかっても、それでスルーできるかというと、そういうものでもないだろ……」

「別に風邪をひいたってたいしたことないよ。魔族はそれぐらい強いの」


 このあたり、メアリはクールだ。もっとも、だからといってナイトメアには甘いから、なかばポーズなのだと思う。


 目下のメアリの悩みは在宅で仕事しているグダマル博士にナイトメアがとられそうになっていることだ。

 よく顔を見せて、食事も用意しているグダマル博士のほうをナイトメアが信用できる奴と認識しだしている。まあ、そこは愛の深さでカバーしてくれ……。


「大丈夫ですわ……。今日から王都より南の暖かい地方に出張ですから……」

 セルリアの言葉で思い出した。


「そうだった、そうだった。社長、俺、セルリアでどこかに行く予定が入ってたんだった」

「フランツ、出張を忘れてるっていいかげんすぎるんじゃないの~?」


「だってさ、社長・俺・セルリアの三人での出張だろ。つまり、社長についていって何か学べってことで、緊張感もたいしてない……いや、完全に言い訳だな。わかった。認める」


 社長の横で立ってて、指示されたことだけやればいいんだろうっていうのは油断そのものだ。でも、自分が仕事先と何か商談をするのと比べると気楽なのも事実だろう。


「メアリさん、わたくしも社長から何も業務内容を聞いてないのですわ。ご主人様が忘れていたのはそれだけ説明が少なかったせいでもありますの。許してあげてくださいまし」


 セルリアの説明にメアリもひとまずは納得したらしかった。どうせ、本気で俺を非難するつもりはないだろうし。

「ふうん。出張でサプライズってよくわかんないけどね。まっ、お土産はいらないから楽しんできたら? お土産はいらないから」


 これ、お土産を本当に買ってこなかったら、絶対に機嫌を悪くするパターンだ。



 出社すると、俺とセルリアはムーヤンちゃんの事務作業を手伝いつつ、社長の準備を待った。

「はい、お待たせいたしました。それじゃ、参りましょうか」

 社長室から出てきた社長はいつもより、こころなしかおめかししている気がする。かわいい麦わら帽子も頭に載せていた。出張のせいだろう。


「はい。行き先はメントマラ郡でしたね。マイナーな郡ですけど、今年はけっこう耳にしたことがあるような」

「十中八九、巨大竜巻の被害があったせいでしょうね」

「あっ、それです、それです!」


 夏に入った直後あたりだっただろうか。

 百年に一度あるかないかの竜巻が発生して、メントマラ郡に甚大な被害をもたらしたという。家が飛ぶところを目撃した人がいくらでもいたとかいう話だった。


「そんな話を聞くと、自然災害は恐ろしいと思いますわね……。魔法の威力なんてしれていますわ」

「社長やメアリが本気を出すと、自然災害を超えそうではあるけどな……」

 メアリがキレると国が滅ぶらしいので、それよりはマシだと思う。

 が、自然災害が怖いことには変わりはない。


「とくに竜巻は突如、発生しますからねえ。今回も住民の方がまったく予想していなかったので、どうしようもなかったそうです。さて、運転手さんをあまり待たすとまずいですから、続きはドラゴンスケルトンで話しましょう」


 会社を出ると、トトト先輩が待っていた。

 ドラゴンスケルトンで行きと帰りを送ってもらうことになっている。

 というより、トトト先輩の輸送業務と出張がちょうど無理なく重なるように、社長が日程を調整したのだ。


「いやあ、メントマラ郡の竜巻が出たところって、本当に何もない平和なところだったらしいわね。自然っていうのは読めないからタチが悪いわ~」

「トトト先輩も竜巻のことは知ってるんですね」


「風の系統ってエルフが使う緑魔法の中にもあるからね。ワタシはあまり得意でもないけど」

 そういや、トトト先輩が植物に関する魔法を使ってるイメージはそんなにない。

「もっとも、どんなすごいエルフを呼んできても今回みたいな被害にはならないわよ。数千人規模で家が消滅したんだから」


 淡々と先輩が言ってるけど、数字で聞くとえげつなさがよく伝わってくる……。

「何度か竜巻のあったところを仕事で通ったことがあるのよ。家が並んでいたあたりが何もないわけ。気味悪かったわよ。だだっ広い原野みたいになってるんだもん。残ってるのは役所や公民館みたいな比較的立派な公共の建物ぐらいね」


「うわあ……それはあまり見たくありませんね。心が重くなりそうだ……」

「見たくないといっても、今から仕事で向かいますからね」

 社長が資料に視線を落としながら言った。

 それは竜巻被害の図のようだ。


「今回のお仕事の場所はまさに竜巻があったところですよ」


 俺は一瞬きょとんとしてから、とんでもないところに行くことを把握した。


「えっ? そんなの、聞いてませんよ!」

「言ってませんからねえ。あんまり先入観を持ってほしくなかったというのもありますし、まあ、理由はいろいろです♪」


 そういうものなんだろうか……。けど、細かい業務の確認を社長にしてなかった俺にも責任はあるか。


 しかし、被災地で黒魔法使いができる仕事って何なんだろう?

 回復魔法に長けた白魔法使いが医療支援で行くだなんてのはわかるが。


 軽く社長に聞いてみたが、

「現地に行けばわかることですから」

 理由は教えてもらえなかった。

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