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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アリエノール、王都に出店編

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305 再提出が多すぎる

 ほかにも、この箇所をより具体的に書いてほしいといったことを言われてしまった。

 端的に言うと、書類不備がいくつかあったようだ。チェックしてから来たつもりではあったんだけどな……。


 ただ、アリエノールも理解はしているらしい。

 俺たちは担当者のミスギーナさんにあいさつして、小会議室を出た。


「なあ、アリエノール、どこが不備だったんだ?」

 どこに問題があったのか、少なくとも俺はよくわかってなかった。


「ううむ……実績に関するところが抽象的なので、これだと上で跳ね返されてしまうからということらしい」

 アリエノールはそう言っているが、顔のほうはいまいち納得していない。


 もっとも、不満に思っているというのとも違う。

 いわば、寝起きの顔なのだ。頭があまり動いてないというか。


 俺の心に、ふっと疑念が浮かんだ。

 何か妙なことがある。

 自然な流れに余計なものがはさまったような、ぎくしゃくしたものを覚えた。


 ただ、どうアリエノールに伝えていいかわからなかった。

 あと、たんなる思い過ごしということもありうるし。


「まっ、ここまで来ればどうとでもなる。フランツよ、あとはこのアリエノールにすべて任せるがいい。見事、再提出してやろう!」

 ドヤ顔でアリエノールが言った。

「うん、お前の店の書類だからな……。じゃあ、しっかりとやってくれ」


 これでトラブルなく事が運べば俺も何も言うことはない。万事解決だ。

 問題は――そうならなかったケースだ。


 俺はアリエノールと別れる間際に、その肩に手を置いた。

「ん? どうした、フランツ?」

「もしも、変なことになったと思ったら、俺を頼れ。お前の実力だけじゃ無理な相手かもしれない」

 アリエノールは俺の真剣な顔を見て、くすくす笑った。


「おいおい、まさか役所が本当に白魔法使いの集団に襲撃されるとでも信じているのか? 実力も何もない。書類をちょちょいと修正すればいいだけの話だ。いくら私でも楽勝だ」

「うん、俺としても笑い飛ばしてもらえたほうがありがたい。役所に付き合うのって、なんか嫌だしな……」



 だが、しばらくの日にちが経って――

「フランツ! どれだけ繰り返しても不備が出てくる! もう、底なし沼のようだ!」

 アリエノールは再び泣きついてきた。


「わかった。また一緒に提出に行こう」

「うむ! それでこそ好敵手だ!」

 もう、好敵手の範囲がガバガバだぞ。


「ところで、今回、再提出を言ってきた担当者って誰だ? 最初の人か?」

「ああ、ミスギーナという者だったはずだ。やけに申し訳なさそうに書類を突っ返してきた」

 巣食っていた疑念が強まった。


 あれだけ愛想のよさそうな人が、何度もこっちを門前払いにしてくるか? その場でこういうふうに書けばいいぐらいのアドバイスはしてきそうなものだが。


 いや、まずはもう一度行ってから考えよう。



「すいません! こことここ、あと、ここに問題があるんですよ! 再提出をお願いできますか?」

 ミスギーナさんに頭を下げられて、俺とアリエノールは部屋から出た。


 その時も頭に靄がかかったような感覚があった。

 ほんの些細なことだけど、もとから疑っていたせいか、そこがやけに気にかかった。

 しかし、ミスギーナさんに悪意はないというか、魔法使いでもない。そういうものは雰囲気からわかる。


 役所から少し離れたところで、俺はアリエノールにこう言った。


「なあ、アリエノール、こんなに書類が多いのは、前に白魔法使いが背後にいるせいだなんて言ってたよな」

「ああ、言ったかもしれないが、あれは冗談だぞ。そんな暇な白魔法使いはおらんだろう」

 こんなところで常識的な判断に戻るなよ。かえって、やりづらいわ。


「あながち冗談とも言えなくなってきた」

「なんだ、それ? どうしてこんなところに魔法使いが絡んでくることになるんだ? 役所の中でも魔法使い同士の覇権争いがあるのか?」

 アリエノールはまだ得心がいってない。でも、その気持ちはわかる。むしろ、俺のほうがいろんな仕事をして、疑り深くなってるというところもあるのだろう。


「また今度、一緒に書類提出に行くぞ。ただし、俺は裏方で監視に回る」

「おい、監視ってどういうことだ?」

「ちょっとした魔法使いのツテもある。おそらく犯人はすぐに捕まえられると思う」


 有休でその日は一日空いていたので、俺は「ツテ」のほうに行くことにした。

 OKはあっさりと得られた。

 その代わり、あまり人前で言えないことに付き合わされたが……。



 三日後。

 俺はアリエノールの後ろをツテと一緒に歩いている。


 そのツテというのは、ヴァニタザールだ。


「ふふふ、わざわざこんな些細なことで私に頼むだなんて、もはや私依存症と言ってもいいわね」

「あなたみたいな経営者にとったら些細なことかもしれないけど、理由もわからず、アリエノールが同じ被害を繰り返すのは癪ですから」


「愛する者のために、愛してない者のために体を差し出したというわけね。黒魔法使いらしくていいわ。率直に言って最高よ」

「あんまり人前ではそういう発言はしないでください……」


 ヴァニタザールは当然ながら、サキュバス的なことというか、変態的なことを要求してきた。密室でならよほどのことでないかぎりやってやろう、良くも悪くももはや慣れてきたと思ったけど……違った。


「あの、今後は、屋外でああいうのはナシでお願いします。だって、最悪、逮捕されますから……。あんなことで逮捕歴がつくのはつらすぎます!」

 これ以上は詳しいことは言いたくない。

「そのスリルがいいのよ。様々なドキドキが興奮を高めるわけよ」


 この人、そのうち社会的地位を完全に失いそうだけど、大丈夫なんだろうか。

 けど、社長だからクビになるということはないのか……。その点、トップに立ってるって強いな。


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