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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アリエノール、王都に出店編

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304 役所に書類提出

「ふう……。やっと終わったな、アリエノール」

 もう、当分書類を見るのはいいや。

「うむ。第一関門・・・・が終わったぞ」


 なんか、不吉な響きの言葉だと思った。

 せっかくのケーキの味が一瞬しなくなった。


「あとは提出して受理されるだ!」

「ああ、提出な……」


 ケーキの皿に伸びていた俺の腕にアリエノールの手がぽんと置かれた。


「フランツ、もちろん一緒に来てくれるよな? 好敵手だからな?」

 好敵手の役割って、役所に書類を出しに行くことではないと思う。

 それのどこに敵の要素があるんだ。


「行ってやりなよ、フランツ。ちょっと有休をとったら問題ないしさ」

 もはや、諦め顔のメアリがそう言った。おかげで断りづらくなった。

「わかった……。ついていくよ……」



 提出予定の日。

 俺は朝からアリエノールの店舗兼自宅に行った。

「よく来たな。では、早速、役所に向かうか」

「戸締りはちゃんとしてるか?」

 女性の一人暮らしだから、そういうのは気になる。売上金目当ての泥棒も来るかもしれないし。


「ああ、この家に住み着いている霊が異常があれば教えてくれるからな。なんら、問題はないぞ」

 事故物件であることで防犯体制がかえって強化されてるのか……。


「それと、リムリクも家の周囲を見回って飛んでいるからな」

 見上げたら、屋根の上にカラスのリムリクの姿があった。

 リムリクの周囲にはほかのカラスもいる。


「どうも、リムリクがこのへんのカラスのボスになったらしい。知識でもケンカでも並みのカラスには負けんぞ。多数のカラスが町を監視している」

 それはそれで別のビジネスができそうな気がしたが、本題からずれるな。とにかく、防犯はしっかりやれているようだ。

「じゃ、提出に行くか」



 ベッドタウン特別区の役所は、ほとんど飾り気のない大きな箱みたいな建物だった。

 ただ、中に入ると、清潔感があって、よく使用する人や働く人には悪い環境ではなさそうだ。


「この書類は地域推進課に持っていくことになっている。この書類もそこでもらったからな」

「ここの三階か。すぐ終わるといいけどな」


 銀貨二百枚をくれる制度なわけだから、それなりに細かいチェックをされそうだ。

 別にウソは書いてないし、お金を騙し取るわけでもないから堂々としていればいいのだけど、落ち着いた気分でいられるかというと、そんなことはない。品定めをされる側というのは居心地が悪いものだ。


 地域推進課の窓口で整理番号の札をもらう。

 窓口の人には「ご夫婦でご来庁ですか」と言われた。アリエノールが少し顔を赤くしていた。俺もアリエノールもはっきりと否定しなかったので、夫婦だと思われたままかもしれない。あまり強く否定すると悪い気もしたんだよな……。


 そして、待つこと十五分ほど。

 アリエノールの名前が呼ばれ、俺たちはその階の奥にある小会議室に行くように言われた。


 小会議室のドアを開けると、温和そうな中年男性が座っていた。

 少なくとも第一印象だけだと、ネチネチ文句をつけてくるタイプではない。

 これは当たりかもしれない。人となりはしゃべってみないとわからないが、応対で不愉快な思いをすることはなさそうだ。


「わざわざご足労いただいて、すいませんねえ。広げる書類が多いので、この部屋で確認させてください。地域推進課の商店応援係のミスギーナです。よろしくお願いします」

 俺たちも、あいさつをして、書類を渡した。


「ああ、『レストラン アリエノール』さんですね。僕も使わせてもらったことがあります。おいしいですよね。早くもファンが増えてるようですね」

「あっ、客として来ていたのか! それは、それは……光栄なことだぞ」


 アリエノール、距離感に悩んでるな。

「はい、ベッドタウンのことを知らないと、仕事になりませんから。理由をつけて食べ歩きしているところもあるんですけどね。なので、出たおなかをひっこめるために、今度はウォーキングを中心にやらなきゃいけません。この特別区も過去に高名な文学者がけっこう住んでたりしていて、史跡も多いんですよ」

 やっぱり、この人、気さくだ。これは無難に申請も通りそうな気がしてきた。


 ただ、その時――

 何かに見られているような感覚があった。

 いや、ほかに誰もいないよな。それに、こんな部屋を監視しても仕方ないだろう。


「書類が多くて大変だったでしょう。財務課の連中を納得させるために、あれだけの書類が必要になってきちゃったんです。財務課としてはお金を出したくないみたいで」

「むっ、同じ組織なのに仲が悪いのか」

「いやあ、お恥ずかしいです。地域推進課としてはできるだけ地元のお店を応援したいんですけどね」


 よしよし、あっさり通してください。


 担当のミスギーナさんは書類チェックの段に入ると、真剣な目で一枚、一枚、項目を確認していく。

 お役所仕事という言葉があるけど、機械的に何かをやってるという印象はない。熱意があればそれでいいというものでもないが、向き合ってくれているという安心感はあった。


「うん、この書類も問題ないですね。その次も、記入漏れはなし。よく書けてらっしゃいますね。たいてい、途中でギブアップするというか、どうしていいかわからずに聞きに来る人も多いんですよ」


「モルコの森の名門、アリエノール様に手抜かりはないということだな」

「すでに複数人でやってて、チェック体制も整ってたおかげだろ」

 結果的にミスが減っているのだとしたら、いいことだけど。


 よし、このまま最後まで進みそうだ――――


 ……………………。


 …………あれ?

 なんか、頭がぼうっとしていた。

 寝落ちしていたような気分だ。

 でも、いくらなんでも寝落ちするほど、ぼうっとしてなかったぞ。むしろ、個室だし空気は張り詰めていた。


「ええと……すいませんが、ここと、ここが不十分なので、今回の申請だと受理できません。よろしいですか?」

 アリエノールと俺が見た書類には、たしかに空白の箇所があった。

「え、あ……ううむ、やむをえないな……。白魔法のように真っ白なところがあったか……」


 えっ? いい感じで進んでた話が流れている!?


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