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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アリエノール、王都に出店編

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300/337

300 アリエノールの新店で会食

今回から新展開です!

「うん、とってもおいしいですね!」

 社長が今日のスペシャリテに舌鼓を打った。いくつかの種類の鳥の肉をローストにしたものだ。

「気に入ってもらえているようで、よかったです。おいしいですよね」

 クオリティに不安があったわけではないけど、やっぱりほっとする部分はある。


 その日、俺は社長やファーフィスターニャ先輩、ムーヤンちゃん、クルーニャさんたちも連れて――つまり、ネクログラント黒魔法社にいたメンバーを全部連れて、『レストラン アリエノール』に招待していた。


 いや、招待というのはおかしいか……。俺が全額払うわけじゃないしな……。

 なお、一緒に住んでるなかでは、グダマル博士は猫のナイトメアと一緒にごはんを食べるほうがいいらしいので、今日は欠席。博士、食にまったくこだわりなさそうだからな。


「なんで、フランツが味で評価されてうれしい顔をしているのか、私は納得がいかんがな」

 そこにシェフのアリエノールがやってきた。


「ここはあくまでも私の城と言っていい場所だ。お前はただの客ではないか。あまり調子に乗るでないぞ」

「はいはい、以後気をつけるよ……」

 このあたりの俺に対する扱いは客としてのものじゃないな……。


「アリエノールさん、本当に素晴らしい料理の数々ですよ! これなら地域の名店になれます」

「申し分ない。お祝いの日にも使えるレベル」

 社長とファーフィスターニャ先輩も太鼓判を押していた。ムーヤンちゃんも笑顔でこくこくとうなずいている。


「あ~、私を騙してた男も、付き合った頃はこんないいお店にデートで連れてきてくれたのよね……」

 クルーニャさんだけ古傷をえぐってしまっているようだが、そこまでは先読みできないし、不可抗力ということにしてくれ。


「黒魔法の同志たちよ、褒めても何も出んぞ。だが、特別に野菜のハム巻きをサービスしてやろう」

 アリエノールが追加の料理をテーブルに置いた。褒めたら出たじゃん。


「フランツ、この店の主人はおだてに弱いよ。褒めちぎって、タダにしちゃおう」

 メアリが悪どいことを囁いてきた。そんなことさせたら、店がつぶれる。


「ほんと、おいしいだけでなく、料理を作った方のやさしさが感じられる最高の料理ですわ」

 お嬢様のセルリアがこう言ってるのだから、この店はきっと安泰だ。


「技術だけで作った料理というのは、どこか味気なさを感じるものなのですわ。おいしくても、何かが満たされない気持ちになってしまうんです。またこのお店に来ようとまでは思えないというか」

 これは上流階級で高いお店をたくさん使ってきた者の意見だ……。


「ですが、ここは何度でも訪れたくなるそんな温かさがあるのですわ。前の地元のお店で多くの常連さんがいたというのもうなずけますわ」


 もう、これは百点満点に強引に百五十点をつけたような大絶賛じゃないだろうか。

 しかもアリエノールの店の本質をよく押さえてもいる。


「ふ、ふん……。常連が多かったのは、モルコの森に店が少なかっただけというのもあるがな……」

 アリエノールもセルリアの正面からの善人褒めちぎりスピーチに顔を赤くしている。


「しょうがないな、ハム巻きをもう一皿サービスしてやろう」

「おいおい、そこまでしなくてもいいぞ! あんまり気前のいいところを見せようとしなくていいから!」

 放っておくと、メアリが言ってたように全品タダなんてことになりかねない。


「まあ、払いたいなら好きなだけ払うがいい。経営も…………少しだけモルコの森でやってた時より大変だしな……」

「アリエノール、経営のほう、大変なのか?」

 てっきり、すっかり軌道に乗っていると思っていたんだが。


「だ、だが、これぐらいのハンデがあったほうがアリエノール様にはちょうどよいのだ。ふっふっふっふ」

 すぐに高笑いで隠そうとしたが、アリエノールの本音がのぞいていた。


「勘違いするなよ!? 客のほうは毎夜、私の料理によって行われる闇の饗宴にやってきている。その数は減るどころか増え続けている」

 表現がわかりづらいが、お客さんは安定して、やってきているらしい。


「しかし、新店の改装費用などでかなりかかったのは事実だ。それは分割払いになっているし、あと、モルコの森と比べて、食材調達にやけに金がかかるようになっている。イノシシやシカの肉など、以前はタダ同然というかタダでもらってた時も多かったのだが、新鮮なシカ肉などやけに高くつくからな……」


「やっぱり、輸送コストが大きいか……」

 なるほど、流通の問題か。

 王都はそのへんをシカがうろついていているわけじゃない。市場には出回るだろうけど、地産地消状態だった以前の店の時と比べたらコストがずっとかさむだろう。


「メニューの値段もモルコの森でやっていた時よりは高くしているが、結局はここの地元民が気軽に来れる値段に設定せねばならんから、そこまで高くもできん。本音を言うと、もうちょっとずつ値段を上げたいのだが……私としてもこの価格帯でやりたい」


 アリエノール、料理に関しては冷静な分析をしてるな。

 それが正しいんだろう。あくまでもベッドタウンのなじみの店になろうとアリエノールはしているわけだし、気軽に入れる値段の家庭的な空気の残っている店となると、今ぐらいの落としどころになる。


「あらら、大変ですのね……。そんなに課題が多いだなんて……」

「セルリア、独立してお店を持つってことはそういうことだよ。フランツよりもずっと難しいことをアリエノールはやってるの」

 メアリ、俺を引き合いに出すなよ。自分で経営することの大変さは想像がつくけど。


「そういえば、ここってベッドタウン特別区に該当してますよね」

 社長の言葉でほかのみんなの会話が一回止まった。

 しばしば、名案を出すのがケルケル社長なのだ。

 今回も裏技を知っているんじゃないかとみんな期待しているわけだ。


「ベッドタウン特別区……ああ、そうなりますね。このエリアは特別区です」

 アリエノールよりは王都に詳しいので、俺が代わりに答えた。

 別にそんなに難しい概念ではない。俺が通っていた魔法学校では魔法以外にも王都での一般常識を教えられるが、一年の時に習った。


「だったら、新規商店応援補助金制度、通称――ガンバレ補助金がもらえるかもしれませんが、申請されてます?」

 なんだ、その制度?


5月11日にコミック3巻が出ます! 詳しくは活動報告をごらんください! 表紙はアリエノールです!

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