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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法の会社に就職しました編

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24 寮母に足向けて寝れません

「なので、きっとフランツさんはすごい大物になると私は信じてますよ。あくまで、私が勝手に信じてるだけですけどね」

 くすくすと今度はいたずらっぽくケルケル社長が笑う。


「もちろん、実はフランツさんが全然使えない社員になるかもしれませんし、ほかの会社に引き抜かれちゃうかもしれません。だとしても、それはそれでいいんです。私がしてることは人への投資です。投資とは本来そういうものです」


 お酒が入ってるからか、社長はいつもより饒舌なようだった。


「たとえば私も最初に入社した直後ははっきり言って使えない社員でした」


 社長がダメダメな新人だった時代が想像しづらいけど、五世紀生きてれば、そんな時期もあったんだろう。


「会社に対して利益を出せたかと言えば、NOでしょう。ですが、会社は当然ながら給料を払ってくれました」


「利益の分しかお金をくれなかったら、新入社員は生活できないですもんね」

「ですです。じゃあ、会社は慈善事業でお金を払ってるかというと、そうではなくて、将来その人が偉くなったら会社の利益になると考えているわけです」


「ですわね」

 と今度はセルリアが真面目な顔でうなずいた。お酒を飲んだせいか、顔がほんのりと赤い。

「会社は新入社員を利益を出してくれるように教育しなければなりませんからね。会社のことを知らない新入社員が入って、会社にとんでもない利益を出すという考えがまずおかしいのですから」


 最近、そういう都合いいこと考えてる会社が多い気がする。

 けど、冷静に考えればそれって、ナイフで野菜を切る方法を覚えたばかりの子供にお金とれるフルコースの料理を作れと言うような無茶ぶりだ。


「ええ、この会社は、いわば魔法学校の次に当たる教育機関でもあるわけですよ」


 ケルケル社長が違う表現で会社を説明した。

 会社も教育機関か。その表現でいろいろと腑に落ちた。

 損得だけで考えると、教育というのは成立しないからな。


「だから、ある意味ではこういうお店に連れてくるのも、社員教育と言えなくもないんですよ。だって、安いお店しかフランツさんが知らなかったら、接待でそんなお店を選んで相手を怒らせてしまうかもしれないでしょう?」


「たしかに安月給であえいでる人が突然、高級店に接待しようとしても知識がないですよね……」


「新人教育というと、基本は会社にある知識や技術の伝承になるんですけど、私はもうちょっと視野を大きくとって、フランツさん自身を立派な社会人に育てたいんです」


 社長の目がつやっぽく見えた。


「そしたら、将来、フランツさんが違う会社や分野で働いて成功しても、いい人を育てたって私も胸が張れますしね」


「社長の人徳って、ほんとに教会で祀られてる聖人ぐらいありそうですね……」

 こんな価値観の人、世の中にいたんだな。

 全国の社長をこの人の価値観で塗り替えていきたいぜ。


「ご主人様、本当に素晴らしい会社に巡り合えましたわね」

 セルリアの目から見ても、ここが最高の環境ということはすぐにわかるらしい。


「寸分の違いもなく同感だ」

「そして、本当に素晴らしいご主人様にも巡り合えましたわ」


 どきっとするようなことをセルリアが言った。

「あ、ありがと……」


「はい、フランツさんの人格的な素晴らしさについては事前に太鼓判を押してもらっていましたから」

「今度はいったいどこから……?」


 俺の個人情報、けっこう漏れてるみたいだ。


「カフェの常連客のリーザちゃんですよ」

 そこか! たしかに社長とリーザちゃんは知り合いだった!


「リーザちゃんはフランツさんのことをとても真面目でいい人で、黒魔法が難しくても挫折せずにきっと成長するとおっしゃっていました。それはそれは、いろんな表現で褒めてくださってましたよ」


 そんなところに俺を応援してくれてる人がいたのか。

 リーザちゃんに足向けて寝れないな。


「成績についてもいろいろと伺いました。というより、リーザちゃんのほうから話してくれました。入学当初は優等生でもなんでもない平凡な成績だったこと。でも、じわじわと成績を上げていったこと。お風呂上がりに食堂で詠唱の復習をするのも日課でしたよね」


 俺の顔は確実に赤くなっていたと思う。

 こんな努力、何も報われないのかと就活で失敗してた頃は考えてたけど、実はその努力がつながってたんだ。


 しかも、リーザちゃんが俺の就職の手伝いをしても、彼女には銅貨一枚の利益もない。

 善意だけで、リーザちゃんは動いてくれていた。


 ちょっと、涙ぐんできた。

 就活で悩んでる時は孤独だと思ってた。ひとりぼっちじゃなかった。


 ぽんぽんとセルリアが俺の頭を撫でた。

「もっと泣いていいですわよ。ここにはご主人様の涙を嘲る人なんて誰一人としていないですもの」

「それもそうだな」


 ファーフィスターニャ先輩もこくこくうなずいていた。


「努力とか生き方とか見てる人は見ているんですよ。もちろん、いい意味だけではなく、よくないことを繰り返していれば、それもどこかでボロが出るものですけど」

 ケルケル社長が最後に締めの言葉を言った。


「俺、絶対にみんなに恩返しをします。リーザちゃんにも、ケルケル社長にも」

「私としては長く働いていただければ、うれしいですね」


 入社一か月ほどのその日、俺は超高級レストランの中で強く決意した。


 来月以降もばりばり働いてやるぞ!

 偉大な黒魔法使いと呼ばれるぐらいまでやってやる!

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