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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法の会社に就職しました編

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20 もしやこの会社、天才集団?

一時的だと思いますが、日間5位に再浮上していました。ありがとうございます!

 足の疲れが急速に靴下に吸い取られていく!


 一歩一歩上げるのもつらかった足の疲労感が抜けている。まるで運動前に戻ったみたいだ。


「先輩、本当に回復しましたよ! これ、どうなってるんですか?」

 無茶苦茶、とんでもない効果じゃないか!


 俺はからくりが知りたくて、靴下を片方脱いだ。

 セルリアも興味があるらしく、顔を近づけてきた。

 靴下に顔を近づけられるのは、ちょっと抵抗あるけど……そんなすぐには臭くないだろ、多分。 


「まず、理屈から説明すると――それは靴下全体が黒魔法の魔法陣になってる。ちなみに詠唱内容はよく見ると、糸で織り込んである」

 あれ、そんな文字みたいな部分、あったかな?


「あ、ご主人様、裏返すと、詠唱らしき糸が見えますわ!」

 たしかに裏側に文字が書いてあった!


 バンティ・セノ・フエンテ・オンデュワクゥイ……かなり高度な黒魔法ということだけはわかる。新入社員が扱えるものではなさそうだ。


「黒魔法の元になる魔力を吸収して回復用に変換する、そういうコードが書いてある。なお、魔力は沼みたいな薄暗い場所からなら効率よく取れる。沼のあたりならいくらでも走れる」

「先輩、さらっとおっしゃってますけど、それ、無茶苦茶高度なことしてますよね?」


「うん。立体魔法陣。靴下を人がはいた時にはじめて魔法陣として完成して、効果をおよぼすようにできている」


 セルリアが「この方、天才ですわ……」と言ったきり、絶句していた。


 立体魔法陣という概念って、白魔法でもあることにはあるけど、一部の研究者が概念の説明をするのがやっとで、実用化できてるレベルじゃないはずだぞ……。

 しかも、糸で文字を表現して詠唱の代わりにしてるはずだ。超絶技巧すぎる。


「後輩君も才能ある。似たようなもの。いきなりサキュバスを呼び出したのがその証拠」

 ファーフィスターニャ先輩は威張るでもなく、自然体でそう言った。


 俺も黒魔法が向いてはいるはずだけど、それでもこんな神技はできない。先輩もこの年でできたってことはないだろうが。 


「大丈夫。これぐらいなら私が教えられるから」


 ただ、なんとなく予感はしていたのだが、先輩は教えるのが下手すぎて、全然ダメだった……。

 ちなみに俺が下手なことの責任転嫁ではないと思う。セルリアもちっとも訳わからないと言っていたからだ。


「そこは、糸を犬を撫でるように通して、くるっとまわって卵を割るように逆から出して、牛のよだれみたいに、小鳩のさえずりみたいに編み上げるの。そこで断末魔の叫びを上げるクラーケンのように攻める」

「……先輩、よくわかりません」


 とくに「断末魔の叫びを上げるクラーケン」だったら攻められないだろ……。


「そっか」

 先輩は「ふぅ……」と深いため息をついた。

「いまだに私の技法を習得できた者はいない。後輩君でもダメだった……」


 やっぱ、教え方が悪いんだな……。



 ファーフィスターニャ先輩の横につきっきりで仕事する期間は無事に満了となって、俺は会社の社長のところに戻ってきた。最初の一か月目の仕事がほぼ終わった。

 社長は部屋でボールを投げて、使い魔のケルケルに取りに行かせていた。


「おっ、フランツさん、お疲れ様です。沼のお仕事はいかがでしたか?」

 社長はボールを投げる手を止める。

「お仕事自体は暇でした」


「それはよかったです。最初はこういう仕事から慣れていくのが大切だと思うんですよね。どんなものにも順序というものがありますから」

「あの、社長、最初の仕事のメインテーマって、もっと別にあった気がするんですけど」


 社長の犬耳がぴくぴくと動いた。この耳、独立して動くのか。


「たとえば、すごい先輩に触れさせて、新人に刺激を与えるとか、そういうことを狙っていたんじゃないですか?」

 そこまでの確信があったわけではないが、そんな気がした。


 というか、このケルケル社長が楽そうだから配属しましたなんてことだけで物事を決めたとは思えないのだ。この人はもっともっと頭がいいし、策士だ。


「いや~、フランツさん、理解力がとんでもないですね。心を読まれてるのかと思うほどですよ」

 ケルケル社長は頭をかきながら言った。

 やはり、そうだったか。


「ファーフィスターニャさんは、黒魔法の技術者さんとしては間違いなく業界トップレベルの能力をお持ちです。もし、あの技術を多くの人が持てば、『疲れない服』なんていう、世の中に革命を起こすものが生まれますね」


 自分のことのようにケルケル社長は楽しそうに語る。


「そうなんだワン。もし、彼女がもっと汎用性の高い白魔法で同じような靴下を作ったら、とてつもなく有名になってたワン。もっとも、黒魔法業界の中でも彼女は有名になる気はあんまりないみたいだワン」

 社長の使い魔をしてる毛むくじゃらの犬、ゲルゲルが言った。


「今ならゲルゲルさんが先輩を『職人』って呼んだ理由がわかります」

 自分の技術にプライドを持ち、それで生きていく人、これはまさに職人だ。

 はっきり言って、この技術を知らしめれば、ひと財産築けるだろうに先輩は全然そんなこと考えてない。


 ある意味もったいないけど、天才ってそういうものなのかもしれない。天才の思考がすべて意識高い系とかお金稼ぎにいく系ではないのだ。

 むしろ、そういうところから離れて超然としているから天才なのだ。


「この会社、想像以上にとんでもないところですね……」

 もしかして、一流どころか、超一流の人間ばかりが所属してるんじゃないだろうか……。


 そういえば、鍛冶職人が多いヘルンダという町には、世界屈指の技術を保有する町工場みたいなのが、どこにでもあるような路地裏に当たり前のように存在していると聞いたことがある。


 このネクログラント黒魔法社もそれにノリが近いかもしれない。

 王都の人間もほとんど知らないけど、どう考えてもすごいことをしている。


「ファーフィスターニャさんと仕事をして、刺激を受けてもらえれば私の目的は達成されたも同然ですね」

 にっこりとケルケル社長は微笑んだ。


 俺はちょっとふるえた。

 恐怖からじゃない。

 心の中で面白くなってきたぜ、と思った。

 この会社、本当にわくわくする!


 給料もいいし、生活も安定してるし、しかもやりがいも感じてきた。


「私がファーフィスターニャさんを採用した理由もおわかりいただけましたよね」


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