199 専門家にお願い
本日早朝、ベトナムから帰国しました! 更新再開です!
「セルリアには何かやらせるつもりはないから安心してくれ。調べるって言ったのも俺だ。俺の責任でやれる範囲でやる」
こう言わないと、セルリアとメアリも俺を手伝おうとしすぎるから、迷惑をかけてしまう。
「ご主人様、愛していますわ!」
ぎゅっとセルリアに抱きつかれた。二年目に入ってもセルリアとの愛は冷めてないな。
美人は三日で飽きるとかいう言葉を作った奴は、何もわかってないと思う。あるいは本当に顔だけで相手を選んだ奴じゃないかな……。
「まっ、わらわはフランツの言葉を信じるつもりだよ。わらわほどじゃないけど、フランツも輝くところ、持ってるからね」
「すっごく上から目線だけど、褒めてくれてうれしいぞ」
メアリからすれば、最大限の評価だろう。
「でも、黒魔法だけでやれることには限界があるからね。どうしたって、魔法は属性によって得意・不得意があるし」
メアリは理想や気合いで現実から目をそらさない。こういうリアリストなところを俺も信頼している。
黒魔法はちょっと破滅的な内容の魔法が多い。闇に身を隠すような魔法もあるけど、相手は天下の大企業だ。まさか姿をちょっと隠した程度で中に入るだなんてことはできまい。
「たとえば、紫魔法なら人の心を読むこともできるのもあるはずだけど」
「うん、メアリ、大正解だ。紫魔法を使う気でいる」
今回の件は紫魔法が最も適している。
精神支配だとか、幻覚を見せるだとか、相手を騙すことに特化した魔法が多い。
メアリは俺の言葉にあきれた顔をした。
「フランツ、そんなの、独学で使えるようになるものじゃないよ。とくに紫魔法なんて難解だってことで有名なのに。一応、黒魔法とは近いって言われてはいるけど」
メアリの言葉は厳しいけど、全部正論だ。
言葉のとおり、俺を信じてくれてるからこそ、全力で俺に向かってきてくれているのがわかる。
「独学でやるつもりなんてない。俺は努力したことを目的にするほど、努力論者じゃないよ」
それじゃたんなる自己満足だ。今回は、先輩を満足させないといけないんだから。
「フランツに師匠みたいな人、いたっけ?」
メアリが首をかしげる。
「学び舎に恩師のような方がいらっしゃるのではありませんか?」
セルリアの予想はいかにも性善説に基づいてるけど、残念ながら、そこまで信頼できる先生とかは魔法学校にもいなかった……。
「向こうがどう答えるかまだわからない。けど――多分、俺の体を差し出したら、いけると思う」
これで二人とも、見当がついただろう。
差し出したいかどうかは別問題だがな……。
●
後日、俺は昼から有休をとって、単身で、王都のとある会員制の飲食店に行った。
その店は住宅街の近くにあって、一見、ただの大きめの一軒家にしか見えない。
ベルを鳴らして、出てきたその家の奥さんみたいな人に紹介者の名前を告げる。
「ふふっ、お入りください」
奥さんみたいな従業員に中に迎え入れられた。
門前払いを喰らわないか少し怖かったけど、ちゃんとOKだった。
中はいくつもの部屋に分かれていて、その一室ごとが客室となっている。
その個室のうちの一つに入ると、俺を呼び出してきた人間がいた。
「まさか、君のほうから私に力を貸してほしいと言われるだなんて思わなかったわ」
席にはシックな黒のドレスを着た大人の女性が座っていた。
『ヴァニタザール開発』の社長、ヴァニタザールだ。
「ストライキの時以来ですね。紫魔法なら、あなたに頼むしかないと思ったんで」
「正解だと思うわ。使える人なんてめったにいないしね。とはいえ、私が教えても、一朝一夕とはいかないわよ」
俺は自分の鼻に指を当てた。
「俺を使えば、手ぐらいはありますよね?」
くすくすとヴァニタザールに笑われた。
「対価は高くつくわよ。みっちり調教してもらうから」
ああ、うん、はい……。
「『調教するから』じゃなくて、『調教してもらうから』なんですね……」
「たっぷり叱ってね。お願い。鎖は今も持ってきてるんだけど」
「いくら会員制の店といっても取り出さないで!」
前途多難にもほどがあるが――
これが一番可能性が高いんだ。その道の専門家に頼るほうが素人の努力より百倍、効果的なのだ。
「まっ、こっちの話はあとでしましょう。ここはあくまでも高級レストランだから、食事でもしながら語らいましょう。コースはいくつかあるけど、どれにする?」
メニューを見たら、一番安いコースでも銀貨一枚以上するな……。
学生時代は使えなかった店が使えるようになった程度には俺も成長したのだろうか。
俺はヴァニタザールと同じコースを注文した。
「まずは、あなたの知人の状況についてわかる範囲で全部教えて。手紙にはずいぶんとぼかしてあってわからないところが多かったのよ」
断られた場合も考えて、ファーフィスターニャ先輩とはわからないように、あいまいに書いていた。
それでも察せられるおそれもあるが、いくら業界人でも『第一魔法』が誰かを引き抜こうとしてるということまでは知らないはずだ。
「はい。実は、俺の会社の先輩が――」
現状を、もちろん俺が知っている範囲でだけど、話した。
途中で料理が運ばれてきた。料理もおいしかったけど、あまりそっちを堪能する余裕はなかった。
「なるほどね。よくわかったわ」
ヴァニタザールは妖艶に笑った。これでヘンタイでなければなあ……と思う。
「それで、あなたはどうするのが最善だと思ってるの? まず、あなたの案を聞かせて」
「引き抜きをしてきた『第一魔法』の人間の心を探るんです」
「探ったとして、どこで判断するの?」
「その人が先輩のことをどれだけ深く考えているかどうかを見ます」
そこがわかれば先輩が幸せになれるかどうか、ある程度の指標になるはずだ。
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