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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
先輩が引き抜かれそう問題編

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195 今日から新年度

 その日、俺はいつもよりこころなしかいい姿勢で出社した。

 まず、会社で出会ったのはムーヤンちゃんだ。


 彼女は自分の机に座って、おどおどしていた。なにせ、今日が初出社だからな。

 そう、今日が年度はじめなのだ。


 俺の社会人生活も二年目を迎える。


 ムーヤンちゃんは俺やセルリアの存在に気づくと、すぐに立ち上がった。

「よ、よ、よよよ、よろしくお願いいたします、先輩方っ!」


「そんなに硬くならなくてもいいよ。先輩って言っても、たかだか一年だし」

「それにムーヤンさんは事務仕事ではわたくしたちよりはるかにすぐれた能力を持っているはずですわ。わたくしたちもムーヤンさんからたくさん学ばないといけないぐらいです」

 セルリアの言葉はどこまでも優等生で、そして、謙虚だ。


 うん、ここで先輩風を吹かせたら格好悪いことこの上ない。丁寧に、親切に接しないとな。


「まっ、気楽にやればいいんじゃない? この会社は上下関係にうるさくないしね」

 メアリがそう言った。まさに伝説級の魔族である『名状しがたき悪夢の祖』が社員として働いている時点で、上下関係は壊れていると言える。


 やろうと思えば、この国を支配することだってできるはずだからな……。そんなことされたら困るが……。


 そこにトトト先輩、サンソンスー先輩、ファーフィスターニャ先輩、レダ先輩などがどんどんやってきた。

 さすが新年度の初日だけあって、ふだんはあまり会社に顔を出さない人たちもやってくるんだな。


「あっ、あなたが新入社員のムーヤンちゃん? よろしくね」

「あの、ダークエルフの先輩、どうして下着姿なんでしょうか……?」


 トトト先輩に対してムーヤンちゃんは当然の疑問をぶつけた。


「言っている意味がよくわからないんだけど、よろしくね」

 いや、言ってる意味わかるでしょ! 新入社員が混乱するから説明してあげてほしい。


「ボクはサンソンスーって言います。基本的に海の監視業務をやってるから、王都にはめったにいないけど、よろしくね。海で遊びたい時は言ってくれれば、いろいろ紹介できるよ」

「は、はい! 先輩はかっこいいですね……」

 サンソンスー先輩はさわやかなイケメン女子なので、ムーヤンちゃんはトトト先輩の時とは違う戸惑い方をしていた。それもわかる。


 次はファーフィスターニャ先輩がムーヤンちゃんの前に来た。

「…………おはよう」

「はい、おはようございます……」

 ファーフィスターニャ先輩はいつもどおりマイペースだ。表情はほとんど顔に出ない。


 ムーヤンちゃんが俺のほうにそうっと聞いてきた。

「あの……今日のファーフィスターニャ先輩って不機嫌だったりします? あまり楽しくなさそうな顔をされてるような……」

「ああ、あの人はいつもあんな感じだから大丈夫だよ。やさしい先輩だから心配しなくていい」

 俺も新入社員の時、最初は怖い人かもってびくびくしたなあ。

 ほんの一年前のことなのに、ほんとにすべてがなつかしいや。


「そなたが新入社員のムーヤン・サルフェンド殿であるな。拙者はライターのレダと申す者。ライターとして各地を巡り歩いておる。趣味はその土地の郷土食を堪能すること。記事のネタにもなり、一石二鳥とはこのこと。不思議に思ったことや、記事になりそうなことがあれば、お気軽にご連絡くだされ」

「ムーヤン・サルフェンドです……。ムーヤンと呼んでください……」

 レダ先輩は表現が古風極まりないが、自己紹介自体は一番ちゃんとしていた。


 もちろん、俺も先輩方にあいさつをした。

 今更言うまでもないが、この会社、人材の宝庫だ。

 そりゃ、少人数でもかなりの収益を上げられるわけだ。


 そして、最後にケルケル社長が社長室から、使い魔のゲルゲルとともに出てきた。

「皆さん、揃っていますね。おはようございます。今年度もほどほどにやりましょう。特にノルマとか目標はないです」


 なんともゆるいあいさつだが、それこそ、ケルケル社長らしいと言える。

「今後も面白い会社にしていきましょうね。新入社員のムーヤンさんもいらっしゃいます。魔法使いではなく、事務を担当されますので、皆さん、とくにやさしくしてあげてくださいね。黒魔法は一般の人をびっくりさせるものも多いですから」

 セルリアもメアリもこくりとうなずいていた。


「はい。本日は皆さんに提出してもらう書類なども多くありますので、ムーヤンさん以外も大半がこの部屋で事務的なことをやるのが中心になります。レダさんやトトトさんは旅費の申請が貯まっていますので、よろしく」

 魔法業界とはいえ、会社は会社だ。作らないといけない書類もある。


「それと、あとで個別に社長室にお呼びしますので、呼ばれたら入ってきてくださいね」

 なぜかトトト先輩の瞳が輝いていた。そんなにいいものが待っているんだろうか?


 でも、聞かなくても社長室に呼ばれれば、いずれわかることだとな。そもそも、俺にも該当することかも不明だし。


 その日は社員のみんながデスクに座って、申請が必要な書類に住所や名前を書き込んでいる。

 こんな普通の会社っぽい光景が見られるの、初めてだ。

「これはこれで新鮮でいいですわね」

 セルリアも俺と同じ感想らしい。

「うん、ほんとにそう思う。とても黒魔法の会社には見えないよな」


 しばらくすると、社長室から出てきたトトト先輩が、

「次は、フランツ君だよ。社長のところに行ってね」

 と声をかけてきた。いつもよりも声がはずんでるように感じる。


「あ、はい。すぐ行きます」

「それと、セルリアちゃんも一緒でいいよ。使い魔だから」

「わかりましたわ」

 セルリアがセットになる理由は明白だけど、何があるんだろう。

 社員ごとに個別に訓示? でも、それならトトト先輩のテンションが上がっていた理由にならないな。


「では、ご主人様、まいりましょう」

 セルリアに手を取られて、俺は社長室に入った。


 言うまでもなく、ケルケル社長は席について俺たちが来るのを待っていた。使い魔のゲルゲルは横で控えている。


「あの、社長、いったい何のお話でしょうか?」

「とってもいいお話ですよ」

 社長もいい笑顔だ。

 なんだか、俺ばかりが取り残されてる感じだな……。


 もっとも、疑問はすぐに解消された。


「フランツさん、昇給です! 月給が毎月銀貨二枚増えます!」


 言われて数瞬、俺は固まっていたが――


「やったーっ!」

 そのあと、部屋の外にも響きそうな大きな声を上げた。

今回から新展開ですが、章タイトルをつけるとネタバレっぽくなるかもしれないので、章タイトルは今後つけます。

あと、来週なんですが、ベトナムのブックフェス的なイベントに招待されて、行くことになりました!

その関係で、23~26日頃にかけて更新が止まる時期ができます。出国前に更新頻度をあげたりして対応したりします。ご了承ください。

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