19 最強の靴下
日間7位、週間1位、月間3位ありがとうございます! 今後とも皆さんのご期待にこたえられるよう、しっかり書きます!
クルーニャさんは会社の掃除をしつつ、空いている部屋で生活することを認められた。
部屋の掃除とはいっても、かなり巨大な建物なんで、それなりの時間になる。バイト代も生活を安定させる程度には出るようだ。もともと、この会社、金払いはいいしな。
住み込みのバイトをクルーニャさんに話したら、涙を流して喜ばれた。
「そんな感動するほどいい条件だった? ちょっとくすぐったいぐらいだ」
「ううん、どっちかというと、わたしのためにこれだけ尽くしてくれる人がまだいるんだってわかってうれしかったの」
ああ、それはそうかもな。
誰かが自分のために動いてくれる、つまり自分は一人じゃないってわかる。
「女性に歳聞くべきじゃないかもしれないけど、あえて聞くね。クルーニャさん、何歳?」
「十八」
同い年だった。
「だったら、どうとでもなるよ。むしろみんなが社会に出る年齢ですでに失敗を経験してるって、考えようによってはすごく有利とも言えるし」
「プラス思考のフォローありがと。うん、わたしも気持ちを切り替えられたわ」
彼女の気持ちがいい方向に転じたのは顔を見ればすぐにわかった。入水自殺しようとしかけてた時は、目に生気が宿ってなかった。今はちゃんと光が見える。
「あのさ……フランツさん……このタイミングで聞くと、たかってるように感じちゃうかもしれないんだけど……もっと純粋な意味で聞いてるからね……。その……」
やけに前置きが長い。クルーニャさんは指と指を組んで、もじもじしていた。
「フランツさんは、今、彼女とかいるのかな……?」
うわ、想像以上の直球!
「見ず知らずの人間のために沼にまで飛び込むって、フランツさん、すごく心がきれいだよね。今度こそ、わたしもだまされないかなって……」
「それは難しいですわね」
後ろからセルリアが話しかけてきた。
「わっ! 使い魔のサキュバスさん!」
クルーニャもセルリアが入ってくるとは思ってなかったらしい。
「わたくしはご主人様の使い魔ですから、ご主人様のお世話全般をいたしますわ。お二人が肉欲に溺れることに関しては止めはいたしませんけど、クルーニャさんのほうは、わたくしがそばにいるのに抵抗がありますわよね」
「そ、そうね……。彼氏の横にサキュバスがいますっていうのは、かなりの大問題よね……。浮気がどうとかそういう次元じゃないっていうか……」
多分、好きになった相手に彼女がいて、彼女が自分たちの関係を認めるなら付き合ってくれていいよと言ってるような状況だろう。それでもいいとは普通、言えないよな。
「フランツさん、ごめんなさい……。サキュバスさんとお幸せに……」
「うん、ありがとな」
「わたしがフランツさんにあこがれてるのは、本当だからね!」
そう言ってもらえるだけでもうれしい。
それにしても、黒魔法業界と関わり持ってから急激にモテ期が来ている気がする。
モテ期という言葉なんて都市伝説だと思ってたけど、そうでもないんだな。
●
こうして俺はしばらくの間、沼の管理をファーフィスターニャ先輩と一緒にやることになった。
沼の数そのものは、まあまあの数が王都近辺にあるので、仕事に慣れてくれば一人でほかの沼の管理に向かうようだ。
仕事自体は、はっきり言って、すっごく暇だ。
なにせ、原則座ってるだけだからな。
ただ、この時間を本当にのんびりしてたら、後で響いてくると思ったので沼を監視しながら、黒魔法に関する本を読むことにした。
ずっと見張ってないとダメなんじゃないかと言われそうだが、インプとは言葉のコミュニケーションもできるし、それにセルリアも見張りを手伝ってくれていた。
「勉強熱心だね」
ファーフィスターニャ先輩に言われた。
先輩は座るというより寝転がるといったほうがいい椅子で沼を見ていた。
だらだらするのにも先輩は慣れているのかもしれない。
「これ、勘なんですけど、最初にこの仕事を任されたってことは、空き時間を使って、自主的に勉強しなさいってことだと思うんです。最初の一か月でどれだけ伸びるか試されてるんじゃないかなって」
「社長のことだから、ただ、楽な仕事から教えていこうとしてるんだと思う。けど、成長しようって心構えは評価する」
先輩はあまり顔には出さないが、温厚ですごく優しい人だ。これも褒めてくれてるんだろう。
黒魔法も一つの魔法の体系だから学ばないといけないことは膨大にある。
もちろんその中でこの社会で仕事としての意味を持つものはごく一部だけど、その広大なバックグラウンドを知ってるのと知らないのとでは全然意味が変わってくる。
「後輩君、意識高い。じゃあ、私もちょっと秘伝の技を教えてあげる」
「えっ、それはうれしいですけど、いったい何ですか?」
黒魔法の秘伝と言われると、まだ身の危険を感じる部分はある。
「私の手を見るといい」
そう言った先輩の胸のあたりにはいくつも毛糸のボールが載っていた。
「あ、編み物?」
「じゃあ、行くよ」
先輩の手が超高速で動き出した!
もはや、自分の目でははっきりと視認できないほど!
「なんだ、これ!?」
すごい勢いで複雑な模様の靴下らしいものが出来上がっていく!
しかも、その間、先輩はちゃんと沼のほうを見ている、あくまで監視の仕事はしてるのだ。つまり編み物のほうはまったく見てない!
「秘伝ってもしかしてこれですか!?」
「うん。高速編み物。これなら監視をしつつ、いろんなものを作ることが可能」
しゃべっている間に靴下の右足用とおぼしきものが完成していた。
間違いなく、人に鉄板で自慢できるレベルのスキルだ。
「たしかにすごい技術だとは思うんですけど、できれば黒魔法に関することを教えてもらいたいな~と……」
「後輩君、これはれっきとした黒魔法」
「えっ……?」
もう、一足分の靴下ができていた。もこもこしていてかなりぬくそうだ。平面というわけでもないのに、複雑な紋様がいろんな色の糸で編みこまれている。
「はい。疲労回復靴下。はいてみるといい」
そう言われた俺は半信半疑でその靴下をはいてみた。
「とくに何もないですけど」
「まだ疲れてないから。その上から靴をはいて、沼を一周走ってみて」
げっ! 沼ってかなり距離あるんだけどな……。
上司の命令なので、俺は素直にそれを実行した。
これでウソでしたなんてことを言われたら、パワハラだぞ……。先輩はそんなことする人じゃないと思うけど……。
なんだかんだで戻ってきた時には汗だくになった。
沼の付近はぬかるんでる箇所もあるから、体力も使うのだ。
「ご主人様、大丈夫ですの?」
セルリアも心配するぐらいに俺は疲れていたらしい。
足も酔っ払ったみたいに千鳥足になっていた。
「ファーフィスターニャ先輩、こういうのはよくな――――あれ?」
足の疲れが急速に靴下に吸い取られていく!




