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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
フランツ、面接官をやる編

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188 面接は随時受付けます

今回から新展開です。よろしくお願いいたします!

 最近、家の近所を歩いていても、可憐な花が咲いているのをよく目にするようになった。

 少しずつ、一周年が近づいてきたな。

 いや、一周年というと、記念みたいだから自分のことに使う表現としては変なのだろうか。

 就職してから一年が過ぎる。

 つまり、二年目に入る。


 とはいえ、まだまだ半人前なところは多いし、二年目になって突然、仕事の能力が向上するわけじゃないけど。


 しかし、そこでふと気になることがあった。

 ――新入社員ができるみたいな話、全然聞いてないな……。


 社員数的に毎年、新人を雇ってるとは思えない。たとえば、ファーフィスターニャ先輩の実年齢は七十代だ……。来年は採用する見込みがないということも大いにありうる。

 でも、採用するつもりかどうかは気になる。


 だって、後輩ができるかもしれないのだ。


 というわけで、俺は社長に尋ねてみた。



「いえ、実はちゃんと採用案内も載せてるんですよ」

 社長はそう言って、『新卒採用ぐ~るぐるナビゲーション』を出してきた。


「それは学生にとって聖典とも言える『新卒採用ぐ~るぐるナビゲーション』の最新版じゃないですか!」

 この本には、新卒を募集してますよという会社の情報が大量に載っている。魔法学校のキャリア支援センターにも何冊も置いてあった。

 この中からよさそうな会社を見繕って、面接や試験を受けるのが就活の基本だ。存在を知らない学生はいないだろう。


「ほら、黒魔法部門のここにうちの会社も載ってますよ」

 そこにはケルケル社長らしき犬耳の子が「黒魔法は楽しいですよ!」とアピールしているイラストがついている。

 ほかにも簡単な業務内容や本社の場所など基本的な情報が掲載されている。新卒にしては高すぎな給料も書いてある。


「あっ、なんだ、ヘッドハンティングだけしてるわけじゃないんですね」

 意外だった。社長って、能力があるけどいろんな事情で働けない人の受け皿になっているイメージがあったし。


「新卒の人ということは、イコール若い人ということですからね。若い人を育てていくことも大切なことです」

 横にいた社長の使い魔のゲルゲルが「チェスのほうも育てていくワン」と言った。そこは教えなくてもいい。けど、チェスのチャンピオンに教えてもらえるって、チェス好きには最高の環境かもしれない。


「あれ、でも、うちの会社って面接をしてた気がしないんですが」

「それはそうですよ。応募0件ですから」


 さらっと絶望的なことを社長に言われた。

「0件ってそんなことありえるんですか……?」

 いや、あまり受けにくる人がいない年だったとかならともかく、一人もいないなんてことがありうるのか?


「だって、天下の『新卒採用ぐ~るぐるナビゲーション』に載ってるんですよ!? 数えきれないほどの学生がこのページも目にしてるはずです!」

 にわかに信じがたくて、俺は社長の机に身を乗り出した。


「私も最初はそう思っていましたが、これが現実ですよ。はぁ……」

 社長が珍しく、ちょっとふてくされたような顔になった。もっとも、わざと作った表情だろう。社長ほどやさぐれという表現が似合わない人もいない。


「やはり、まだ黒魔法は人気がないようですね。というか、この本を見る学生さんの大半が最初から白魔法業界しか見てないので仕方ないんですが。ほら、フランツさん、見てください」


 社長が俺に見えるように、ぱらぱらぱらと本をめくっていく。


「この本、全体の八割以上が白魔法のことに占められてるんですよ」

「言われてみれば、ものすごく紙面が偏っている……」


 実際、会社の案内自体もほぼ白魔法の会社で黒魔法とか赤魔法とかほかの魔法は数えるほどしかない。魔法と言えばほぼ白魔法なのだ。


「後半の残り二割も、そもそも会社紹介と関係ない企画ページと広告が多い……。黒魔法業界とかほぼ何も書かれてないに等しい……そっか、黒魔法ってそこまでマイナーなのか……」

 改めて、黒魔法の立場を感じさせられた。


「フランツさんもこの本の去年度版を見たことがあるはずですが、黒魔法のページ開いてチェックしましたか?」

 そう言われると、何も言い返せなかった。


「本当ですね……。就職決まってないのに白魔法のページだけ見てました……」

 自己弁護をさせてもらえば、白魔法以外の魔法って特殊な魔法学校で専門の教育を受けた人間や、師匠が子供の頃からいるような人間がなるものだという意識があった。


 なので、最初から魔法学校の生徒は白魔法のページしか見ないのだ。


「でも、こんなに給料がいいって書いてるんだから、黒魔法でも誰か人が来そうなものなんですけど。今の学生はお金がほしくないのか?」

「そんな理由、犬にだってわかるワン」とゲルゲルが言った。

 犬といっても、無茶苦茶賢い犬だけどな。


「ゲルゲル、どういうことだ?」

「給料がよすぎるから、かえって警戒されてるワン。黒魔法だし、生贄とか捧げる仕事だと学生から思われてるワン」


「たしかに! そういう面はある!」

 俺も社長に直接出会って勧誘されたから入社を決断できたが、この広告を見て、入社しようと考えたかというと――ないな。

 やはり黒魔法業界って危険なことが多いんだろうな、いくら儲かっても死んだら無意味だもんなという発想にいきついただろう。


「私もそれは理解しています。ですが、これで給料を安く書いたら、どうなります? 今度は『白魔法業界と同じ程度の給料の黒魔法の会社になんて入るわけないだろ』と学生さんに言われるのがオチですよ」

「ほんとだ……。そんなの、来るわけがない……」


 なかなか課題は多い。

 これは後輩が来るのは夢のまた夢だな。


「現状、黒魔法の新入社員の方は地方の黒魔法専用の研修機関とか、アリエノールさんのような黒魔法を家業にしているような方とか、そういった方々ばかりですね。うちはまだいいですが、今後、人手不足倒産の危機に陥る黒魔法企業も発生するでしょうね」


 せちがらい世の中だ。現代社会は黒魔法に風当たりが強すぎる。


 だが、その時、カランカランと社長室にあるベルが鳴った。

 来客時に鳴るように設定されている魔法によるものだ。

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