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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法業界ストライキ編

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181 黒魔法業界全体の状況

「でも、ストライキの紙には社長は参加しちゃダメとは書いていませんよ? そういう参加者を差別するような主義・主張はこの『黒魔法青年団』という団体の考えとも相いれないはずです。なので、私が出てもいいんじゃないでしょうか?」


「ええと……理屈はわかるんですけど、社長……これって経営者側に敵対するものじゃないんですか……?」


 ちなみに後ろでは社長の使い魔であるゲルゲルが、「権力の犬ではないワン」と書いた布を頭に巻いていた。あまりその姿で外を出歩いてほしくない。


「だいたい、業界団体に要求するって、それって黒魔法協会のことですよね? 研修や運動会でお世話になりましたけど、労働者の敵ってイメージは全然ないですよ」

焚刑ふんけいのエゼルレッド』さんというもじゃもじゃの会長が運営している組織だ。あの姿は本当にインパクトがあるので、そうそう忘れない。


「ああ、なるほど、なるほど。そのあたりの業界のことについて、ずっとお話をしていませんでしたね……。それはフランツさんがわからないのも無理はないです……」

 社長の中では何か得心がいったらしい。


「皆さんにお話をいたしますので、会議室に来ていただけますか?」

「あと、その鉄兜、重そうだし、はずしたらどうですか?」

「こういうのかぶると、雰囲気が出るんですけどね、骨の壁を召喚してのバリケード封鎖とかなつかしいですね~」

 これ、思想的に共感してるとかじゃなくて、楽しんでてやってるな……。仮装と同じ感覚だな……。



 俺たちは会議室に入った。

 なぜかその会議室にも「斗争! 粉砕! 団結!」という布がかかっていた。どうにも異様だ。


「さて、まず皆さんが事実誤認しているであろうところを解説いたしますね」

 社長が言った。どっちかというと、この部屋が何かを間違っている気がするけど。


「フランツさん、この会社に入って、黒魔法業界って天国だと思いませんでしたか?」

「思いました!」

 給料もいいし、労働環境もいいし、それに先輩もみんな美しい。これで文句を言ったら衰弱の魔法で殺されるぞ。


「それは、自分で言うのもおこがましいですが……私の経営努力によるもので……」

 言葉のとおり、恥ずかしいのか、社長は顔を赤らめた。

 社長は十分に威張る権利があるぐらいには活躍しているはずだけど、それでも自画自賛は落ち着かないんだろう。


「いまだに大半の黒魔法の会社は賃金も低く、その割に汚い仕事が多いという有様です。それでも、以前よりは危険な仕事が大幅に減っただけでも大きな成果ですが……」

「えっ!? そうなんですか!?」

 入社してからも闇の部分を全然見ていないので気づかなかった。


「はい。もちろん、黒魔法業界としてもこのままでは未来がない、働く人が減る一方だということで改革はやってはいます。その中で我が社は最も成功したところの一つというわけです」


「つまり、わたくしたちは恵まれた会社に入っていて、業界の現状に気づいていなかったんですわね」

 セルリアの言葉に社長が首肯した。


「だとしても、まだ解せないね」

 メアリはまだ承服していないらしい。メアリは本当に頭の回転が速いからおかしなところをどこかに見つけたんだろうか。

「あの黒魔法協会って業界団体、そんなに労働者と対立してる感じもなかったよ。そんなに労働者ともめてるならフレンドリーに運動会とかやってないんじゃないの?」


「黒魔法協会というのは、業界を改革しようという意識のある会社だけが入っている組織で、最大の業界団体は中央黒魔法委員会という別組織です……」

「そうだったんですか!」

 これまで知らなった新事実が明らかになった。


「じゃあ、俺たちは黒魔法業界の光の部分だけを見ていたってことですね」

 黒魔法業界の光って矛盾してるような表現だけど、意味はわかってもらえるだろう。


「ですです。ちなみに中央黒魔法委員会は、国の天下り幹部をたくさん受け入れているようなところです……」

 それはいかにも労働団体と対立しそうだな……。モロに管理する側か……。


「『黒魔法青年団』はあまり報われていない黒魔法業界の社員たちが作った団体で、長年、中央黒魔法委員会に労働条件の改善や賃金アップを要求しているんです。しかし、なかなか状況がよくならないので、全体ストライキをしようとしているわけです」


「それで、あまりつながりのないこの会社にもビラを入れてきたんだね。好条件で働いてる黒魔法業界の人間も手伝ってくれってことか。そうでないと全体ストライキにならないもんね」

 メアリの中ではそれで謎は解けたらしい。俺もだいたいのことは飲み込めた。


「わたくしたちは報われていますから、『黒魔法青年団』も入会しないと思って、勧誘には来なかった、でも今回は手伝ってほしいと言ってきているということですわね」

 もう一度、セルリアの言葉に社長がうなずいた。


 さて、理解はできた。

 問題はこれからどうするかだ。


「それで、私としましてはネクログラント黒魔法社全体でストライキをしようかな~と思っているんですが」

 ケルケル社長が、社長らしからぬことを平然と言った。

「それって、働いてない間も給料とか出るんですか……?」

「もちろんですよ。でないと、論外です」


 だったら、社員にとっては利益しかないけど。


「黒魔法の仕事が止まったらいかに社会が大変なことになるか、それを知ってもらうことは大事だと私は思っています。そして、その時に黒魔法協会に所属してる会社が平然と仕事を請け負ってしまうと、低賃金と重労働であえいでいる人たちへの妨害になっちゃうんですよね」

 そういう見方もできるな……。すでに好条件の会社がストライキをスルーしたら、そこに仕事がいって、ストライキが骨抜きになりかねないのか。


「わらわはそれで悪い条件の会社がつぶれていって淘汰されるのも、一つの改善だとは思うけどね。でも、一時的に失職する黒魔法使いが増えるのは事実だし、痛みも伴うけど」

「そうなんですよ。メアリさんのような意見もあったんですけど、今回は黒魔法のお仕事自体の重要性を世間に知ってもらおうということを重視しています」


 じゃあ、ストライキは決定か。

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