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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法業界ストライキ編

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180 ストライキのお知らせ

今回から新展開です、よろしくお願いします!

 会社に出勤すると、俺用のロッカーに見慣れない紙が入っていた。

「業務用のことだったら、社長が直接渡してくるし、なんだろ……?」


 ちなみにネクログラント黒魔法社の中に、俺専用の机はない。もちろん、イジメに遭ってるわけじゃなくて、そもそもこの会社は専用の机がない会社なのだ。理由の一つは業務の大半が事務仕事じゃなくて外に出るものだからということにある。


 ただ、職員用のロッカーはある。ここに余計な荷物などはしまっておける。あと、メールボックスの役目も果たしていて、紙の書類は外からロッカーの中に入れられる。

 そのため、三日に一度は必ずロッカーはチェックしないといけない。


 本当は毎日チェックしろと言うところなんだろうけど、ケルケル社長はそのあたりゆるいので、「三日に一度ぐらいでいいです。本当に急ぎだったら直接連絡しますし」と言っていた。

 俺はほぼ毎日チェックしてるけどな……。性格上、あまりそういうのを放置できない性格なのだ。


 で、その紙は見た感じからして、文字が太くてどぎついというか、業務用の書類という雰囲気はなかったのだけど――

「『合同ストライキのお知らせ 黒魔法業界の労働者の皆さん、一緒に立ち上がりましょう』――――――――って、なんだ、これ……?」

 目を通してみると妙なことが書いてある。


「あら、ご主人様のロッカーにも入っていたんですの?」

 セルリアも同じ紙を持って、前に立っていた。ちなみに女子用のロッカーは隣の部屋だ。簡単な着替えとかは閉め切って行える。男は俺だけだから気楽だ。


「うん、いったい誰が入れたんだろう……。あと、ストライキって穏やかじゃないよな」

「わたくしもまだ内容を読んでないんですの。確認してみましょうか」


 やたらと文字だらけのその紙を全部読むのにはかなりの時間がかかったが、要約すると、こうなる。


・黒魔法業界の労働者の多くは激務の割に低賃金で酷使されている。


・そこで我々『黒魔法青年団』は業界団体に再三に渡り、賃上げ要求を行った。


・しかし、業界団体は一向にそれに応じようとしない。


・最終手段として黒魔法の労働者全体による大規模ストライキを決行する。


・期日は二月十五日。魔界と人間の世界が最も近づくとされる日からである。


・ぜひあなたも労働者の仲間とともにストライキに参加してほしい!


「……こういうのって、黒魔法業界にもあるんだな」

 ストライキって最近あまり聞かなくなったんだよな。親が若い世代にはけっこうあったらしいんだけど、俺の世代は話でしか知らないレベルだった。


「そもそも、労働団体ってあるんですわね。『黒魔法青年団』なんてものからお誘いを受けたこともありませんわ」

「だよなあ。あまり誘われまくっても面倒な感じもするんだけど、誘われすらしてないのも、無視されてるみたいでショックかも……」


 身勝手なことを言ってると思われるかもしれないが、このあたりの心理は理解してくれる人は多いと思う。

 たとえばあまり参加したくない飲み会だからといって、最初から呼ばれなかったら、むっとするようなものだ。


「それは、この会社がどう考えても低賃金じゃないからなんじゃない?」

 気づくと、メアリも俺たちと同じ紙を持って立っていた。


「三週間ぶりにボックスを開いたら、こんなのが入ってたよ」

「いや、もっとチェックしとけよ……」

 このあたり、性格が出てるな。メアリはいかにもいいかげんっぽい。


「ほら、こういうストライキって報われてないと思ってる人たちがやるものでしょ。初任給銀貨四十枚のこの会社でさらに賃上げ要求する気はあまりしないし、労働団体にも入ってくれなさそうだから、団体もスルーしたんだよ」

「それもそうか……。この会社、すでに待遇無茶苦茶いいもんな……」

 さらなる待遇改善を求めたら天罰が当たると思う。

 黒魔法で天罰というのもおかしいか。呪いがかかる。


「わたくしも人間世界の黒魔法の会社は素晴らしいと思っていますわ。とくに問題を感じることもありませんわね」

 魔族のセルリアも満足しているぐらいだし、不満に思う層がいることすら想像できない。


「世の中にはどれだけお金をもらっても足りないと感じる奴もいるってことかな。まっ、俺はどっちみちストライキなんてしないけど。社長に申し訳ないし」


 これが本心だ。俺にとって、ケルケル社長はただの雇い主じゃない。

 俺を人間的に成長させてくれた師匠みたいな存在だし、多くの出会いを与えてくれた恩人でもある。

 あと……肉体的な関係も何度かあるし……。


 今になって給料を上げろと運動して、ケルケル社長が困るようなことをやる気にはなれない。

 こういう運動をやるのがおっくうだとか、政治的なことをしたくないとかいった以前に、社長の笑顔を奪うようなことはしたくないんだ。


「強制参加じゃないし、こんなストライキの呼びかけは見なかったことにしよう」

 セルリアもメアリもうなずいた。

「じゃあ、社長に見られる前に三人分まとめてゴミ箱に捨ててくるよ」


 そして部屋を出るところで、社長に出会った。

 嫌なところで出会ったなと思ったけど、そんなことより社長の姿が異様だった。


「斗争! 粉砕! 団結!」と書いた布を巻いた鉄兜をかぶっている。斗争で闘争と読むんだろうな……。

 ぶっちゃけ、犬耳のせいか、上手くかぶれてない。どっちかというと、鉄兜が載っているだけといったほうが正しい。

 それと、口のあたりも三角の布を巻いている。何か黒魔法の儀式でもするのか? いや、絶対に違うよな……。


「あっ! フランツさん、おはようございます!」

「社長……その格好はなんですか?」

「見てのとおり、ストライキ用の格好です。これでストライキをしようかなと」


 俺が突っ込む前に後ろからメアリが声を上げた。

「それ、経営者側がするやつじゃないでしょ! なんで、社長の立場でするのさ!」


 一点の曇りもない正論だ。俺もそう思う……。

活動報告に書きましたが、コミカライズ3話がニコニコ静画にて更新されました! 3話もやっぱりちょっとえっちいです(笑)。よろしければごらんください!

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