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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
ヴァンパイアに接客術を学ぼう編

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179 賢者モード

「やったー! 本当ですね? 今からやっぱりナシとかはダメですからね!」

 先輩の目がきらきら輝く。まるで宝石でも買ってあげると言われたみたいだった。そこまで血が吸いたかったのか!


「俺もすごくお世話になったんで、そのお返しです。ちなみに、どこから血を吸うんですか?」

「首筋から吸うと危ないので、左腕からお願いします。じゃあ、服は脱いでベッドに座っていただけますか?」

 なんか、病人になったみたいだな。


 長い人生、ヴァンパイアに血を吸われることだってあるか。

「そうだ、貧血防止のために、事前にコップ一杯分のお水を飲んでおいてもらえますか?」

「そのあたり、ちゃんとしてるんですね……」

「あと、消毒用ガーゼで腕を拭いておきますね」

 腕がすぅっとした。


「それじゃ、いきますよ。気分悪くなったら、言ってくださいねー」

 かぷり。

 最初だけちくりと痛みが走ったが、すぐに痛みは消えた。


 吸われてる間、当たり前だが、先輩は何もしゃべれない。なので、無言の時間が続くことになる。

 どうも落ち着かない……。俺にとったら、女性の部屋ですぐそばに女性がいるわけで、それなりに緊張だってする。これでなんとも感じないというほうが変だ。


「その……吸血って案外地味で長いんですね……。やたらと医療行為っぽいというか……」

 無言の時間が長くなるので、何かしゃべる。といっても、先輩は吸ってる間、何もしゃべれないので、返事はない。


「ああ、嗜好品だからじっくり、ちょっとずつ吸うということですかね? あんまり血が減ってる感じもしないです」

 何か返事ほしいな……。しょうがないから、部屋でも見ようか。こぎれいな、いかにも女性向けの部屋という感じだ。


 と、だんだんと俺も気持ちよくなってきた。

 まどろみに近い。睡眠薬でも投与されたみたいな感覚だ。そりゃ、吸血相手に激痛を与えたり、不快な気持ちにさせたりすれば、それだけ抵抗されて、吸血が難しくなるわけで、快適に過ごせるようになっているんだろう。


 そして、ようやく吸血が終わった。

「ありがとうございました! 一応、噛み痕にガーゼ貼っておきますね!」

「えっ? 終わってたんですか? 全然気づかなかった……」

 先輩の口が離れたとわからなかった。やはり、麻酔みたいな効果があるのか。


 先輩に噛み痕のケアもしっかりされた。

「いやあ、フランツさん、本当においしい血をしてますね。超一流の血ですよ! ヴァンパイアからモテモテですよ!」

「喜んでいいか微妙な情報ですね!」


「ヴァンパイアにとっておいしいということは、魔族全般にとっても好かれやすい体質であることが多いんです。フェロモンのようなものが出てるというか、人間の中でもどこか魔族寄りというか」

「魔族寄り? いや、俺、ただの人間ですよ。両親もごく普通の人間ですし」


「もしかすると、何百年も前の先祖に魔族の方がいたのかもしれませんね」

 俺の頭に浮かんだのは、シスコンの先祖だった。

 あの先祖、魔族との間に子を作ったとか……?

 ないな。だって、シスコンだからな。魔族とえっちいことをしようって意識とか、とくになかっただろう。


「ちなみに魔族の血が入ってると、黒魔法には有利なことが多いと言われてます」


 ということは――

 あの先祖よりさらに古い先祖に魔族の血が混じっていた可能性はあるんじゃないか?

 魔族の血が入っていたから、偉大な魔族で、メアリの兄である『闇より黒き冥界の鳩』を召喚できた可能性はありうる。で、俺がメアリを召喚できたのも、同じ理屈で説明がつく。


 とはいえ、二千年前や三千年前のことなんて俺にわかるわけもないし、誤差のようにも思える。真相はもやの中だ。


 あと、それよりも、もっと早くどうにかしないといけない変化が起きていた。

「あらら、フランツさんも、ムラムラしちゃっていましたか?」

 エンターヤ先輩の視線が俺の下半身のほうに向いているのがわかった。


 ズボンの上からでも、わかりますか……。

 興奮というより緊張のほうが強いはずなのだが、それでも独特の時間なので、体に影響が出ていたらしい。


「じゃ、お礼と言ってはなんですが、そちらも吸いましょうか? ギブ・アンド・テイクです」

「ああ、それならちょうどいい――って何言ってるんですか!」


 とんでもない提案をされて、俺は困惑した。

「絶対に汚いですし、いいですよ……」


「それなら大丈夫です。消毒用ガーゼもあるので。もちろん牙を立てたりしませんから。吸うのは全般的に得意なんです」

 それ、サキュバスの領域なのでは……。


 ここまで言われてるなら、もう断れないよな。


「では……お、お願いできますか……?」

「はーい。では、ズボン脱いでくださいねー♪」


 そのあと、俺は血とは違うものを先輩に吸われました。むしろ、吸い尽くされたと言ったほうがいい。


「やっぱり変な味ですね……。これの味ももっとおいしくしたらいいのに」

 すべて終わったあと、先輩に言われた。

「まあ、本来は子孫を作るためのものなので、おいしいと感じても意味がないからしょうがないんじゃないですかね……」


「あっ」

 先輩が、何かに気づいたという声を出した。この状況でいったい何にどう気づくんだ?


「今のフランツさん、とっても凛々しい顔になってますよ。最初にお会いした時より、何割か知的に見えます! まるでずっと未来を透徹するような目というか!」

 うれしい言葉だけど、なんで俺が凛々しくなるんだ……?

「そっか、これが賢者モードというやつなんですね」

 言葉にされたら、途端に恥ずかしくなってきた……。


「そっか、フランツさん、座ってるだけだったから、運動後みたいに汗をかいたり、髪が乱れたりもしないですもんね。ただ、純粋に欲望から解き放たれてる状態ですもんね」

「わざわざ言わなくていいです!」


 そのあと、家に帰宅したのだが――


「ご主人様、酔いが醒めたどころか、とってもかっこいいお顔をされてますわね」

「フランツ、大望を抱えた英雄みたいな表情だよ。なんかあったの?」


 いたたまれなくなるようなことを二人に言われました。


「きっと、先輩から勇気づけられるようなお話をされたのですわね。いい経験をいたしましたわね!」

「うん、いい経験だったよ……」

 俺の中の罪悪感が膨れ上がっていくのがわかる……。もう、褒めないでくれ、セルリア……。



営業の先輩編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

25日にダッシュエックス文庫3巻出ました! よろしくお願いいたします!

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