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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
ヴァンパイアに接客術を学ぼう編

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170 『田舎屋』へ行こう

あけましておめでとうございます! 今回から新展開です!(ネタバレ可能性があるので章タイトルはもうちょっと進んでからつけます)

 後日、朝帰りの件は社長にもきっちりと指摘された。

 誰か言ったな……。セルリアかメアリのどっちかだろうけど。


「案内をお願いはしましたが、朝になるまで一緒にいろとは言ってないんですけどね。これも若さの特権ということですかね」

「社長、すごく楽しそうですね……」

 怒られたりしないだけマシということだろうか。


「でも、そういうところまで進んだということは、女性が一日楽しめるように案内はできたということですから、その点は合格です。あわてて勉強したかいはありましたね」

「はい、ほんとに……」

 社長の反応からして、やっぱり俺に王都の勉強をさせることが目的の一つだったようだ。


「これまで王都って人口が多いだけのところだと思ってた節があります。知らなかったものがたくさん見えてきました」

「大変いいことです。なにせ、魔法を生業にしている企業はすべて社会に必要とされるから存在していますからね。社会のほうを理解してないと、この魔法がこんなところで使えるなとか、そんな想像もできませんよね」


 まったくおっしゃるとおりだ。紫魔法の幻影をおしゃれなお店に使う発想なんて、俺にはなかった。まあ、俺は紫魔法使いじゃないから知っててもできないが。


「この会社は少人数制なんで、こんな用途で魔法を使えば意味がありますよというのを提案してもらえれば、それを仕事として認めます。フランツさんも自分からお仕事を発見するぐらいのつもりで働いてくださいね」

「はい、わかりました!」

「もちろん、企業ですからお仕事はこちらからも出しますけどね。でも、やっぱり自分がやりたいことを仕事にしたほうが人は生き生きとするものですから。ということはストレスも減るということです。いいことばかりです」


 まあ、入社一年目の若造が新規の企画書を作れるほどの能力はないが、今後、黒魔法を使って今までにないビジネスを提案できたら最高だよな。

 いずれ、俺も入社二年目になる。ちゃんと成長していかなければ。


 だが、そこでふと疑問が湧いた。

「この会社って、なんだかんだで仕事とってきてますよね」

「ですねえ。おかげさまで前年度比でプラスをずっと続けてます」


 社員がみんなサボってるだなんてことはない。インプを使った沼の清掃活動にしろ、畑を耕す手伝いにしろ、依頼があるからできていることだ。

「どっかに広告でも出してるんですか?」


「ああ、それはやり手の営業マンがいますので。いえ、厳密には営業ウーマンですが」

 どうやら、また俺の知らない社員がどこかで働いてるらしい。営業職なら各地を移動していてもおかしくないか。そして、また女性か。社長が女性だと、女性を採用する率が上がる気がするので、そんなに不思議じゃないが。


「そういえば、この一年、ずっと魔界のほうで新規事業の開拓をやってたんですよね。そろそろ、本社に戻ってくる時期ですし、また折を見てフランツさんたちにもご紹介しますね」

「あ、はい。ちなみにどんな人なんですか?」

「翼が生えてて、八重歯がキュートな方です」


 容姿を聞いたわけじゃなくて、性格を知りたかったのだけど、結果としてわかることはあった。

「翼が生えてるということは、普通の人間ではないですね。魔族ですか?」

 にっこりと社長はうなずいた。

「はい。サキュバスにも匹敵する上級魔族ですよ」


 俺は怖い人じゃないといいなと思ったが、怖い人ですと答えられても対処策もとくにないので、突っ込んで聞くことはしなかった。


 この会社はいい人しかいないはずだから、大丈夫だ、きっと。



 新年はじまってしばらくは墓地の管理業務など、地味な仕事が続いた。


 社員の仕事としては、基本は沼の掃除と大差はない。

 インプを召喚して、雑草が生えていれば抜いてもらって、墓石が大きく傾いていれば直させて、墓石の破損などがあれば、墓地を管理している寺院に連絡する。


 お墓の管理業務は新年が多いらしい。たしかにご先祖に墓参りをしようと思う人も増えるだろうし、寺院側もあまり墓地がみすぼらしいと格好がつかないので、うちに依頼をしてくるのだ。


「華がない仕事だけど、楽だからいいや」

 メアリもインプを召喚して、草引きをさせていた。俺たちは墓を見回って、インプの仕事ぶりを軽くチェックする。セルリアも俺についてきている。

「墓地の仕事って白魔法使いは嫌がるらしいな。だから、黒魔法業界としては、大事な収入源らしい。なにせ、お墓って概念が消えるってことはまずありえないから。流行に左右されないから、強みがある」


「別にアンデッドがどんどん出てくるわけでもないのにね。むしろ神聖な場所なはずなのに。まあ、それで仕事にありつけるなら悪いことじゃないよ。ふあ~あ」

 メアリにとったら張り合いがないのであくびをしている。

「あっ、ご主人様、この墓碑、子供一同でお墓を建立してますが、ものすごく子だくさんですわよ。きっと何人かは愛人の子供ですわね!」

「セルリア、お墓でも楽しめる要素を見つけるのすごいな……」


 たしかに墓碑銘なんていちいちチェックしないけど、なかにはとんでもないものも交じってるのかもしれない。


 墓地の管理業務はとくにトラブルもなく、終わった。

 ここから帰ろうとすると、ちょうど王都の飲み屋街を通るのが一番近い。


「これは帰りにドブロンを出してる『田舎屋』に行くしかないんじゃない? ほら、自分のところの領民でもあるわけだし」

『田舎屋』は俺が男爵をしている土地の人がやっている郷土料理とお酒の店だ。

「メアリさんの案にわたくしも賛成ですわ!」

 じゃあ、多数決でもう勝利だな。断る理由もない。


「よーし、『田舎屋』に行くか」



 泥棒橋通りにある『田舎屋』に入った。まだ、夕方といった時間なので、俺たちが店の最初の客だった。


「あっ、領主様、いらっしゃいませー!」

 店長のマコリベさんが威勢のいい声を出す。


 そのあと、プレートに水の載ったコップを持った沼トロールのホワホワがやってきた。


「いらっしゃい。がうがう」

「今年もよろしくな。しっかり、ドブロンを広めてくれよ」

「任せろがうー」

 どんとプレートを持ったまま、ホワホワが胸を叩いたので、コップが落ちかけた! あぶなっ!


ダッシュエックス文庫3巻は1月25日発売です!

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