165 新年の初仕事
今回から新展開です。よろしくお願いいたします!
「今年もよろしくお願いします!」「今年もよろしくお願いいたしますわ!」「よろしくね」
一月の初出社の日、まず俺たちはケルケル社長にあいさつした。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
ケルケル社長もどことなくうれしそうだ。
「フランツさん、里帰りはどうでしたか?」
「まあ、ぼちぼちですね。あと、道中でレダ先輩とお会いしました」
「あら、よかったです。もしかしたら二人が会えるかなと思ってたんですが、やっぱり、フランツさんはそういうところで強運を発揮しますね!」
社長は本当にニアミスを狙っていたようだ。でも、出会わないまま終わる確率のほうが確実に高かっただろうから、それできっちりレダ先輩に会えたというのは、俺は強運なんだろう。
「あの方は偉大な剣客ですよ。私も最初、出会えた時は心底ラッキーと思ったものです」
「そんな人を入社させる社長も偉大というか、とんでもないですよ……」
「五世紀も生きてると、ふところも広くなるんですよ」
この社長の言葉はあながち冗談じゃないな……。どこの世界に義賊を正社員として採用する魔法の会社があるんだ……。入社しちゃうレダ先輩もレダ先輩だけど。
「セルリアさんも里帰りはどうでしたか?」
「久しぶりに家族で語らいましたわ。お姉様も自分探しの旅から一時戻っていらっしゃいましたし」
この話だけ聞くと上流階級の話だなと思うし実際そうなんだけど、サキュバスとインキュバスの家庭はここからがちょっと違う。
「親戚の叔母様たちもいらっしゃって、殿方を悦ばせるテクニックをいろいろと教えていただきましたわ。とくにドMの方用の方法はあまり詳しく知らなかったので参考になりました」
俺もこの話をセルリアから聞いた時は衝撃を受けた。やはり、サキュバスはそのあたり、筋金入りらしい。
「叔母様のお一人は、調教技術の第一人者として名を馳せていますわ。こちらの世界でも熱心なファンがたくさんいるようですが、皆さん、ほどよく叔母様からおあずけを喰らっているそうで、なかなか会えないそうですわ」
セルリアの家、闇が深いな……。
「フランツも一度やってもらったら~?」
メアリがにやにやしながら腕で小突いてくる。
「いや、俺はドMってほどじゃないから、ハードなのはちょっと……」
「叔母様は回復の薬草を常備してらっしゃいますから、仮に傷ついても安全ですわよ。やはりケガをしてしまうと楽しくなくなってしまいますからね」
「まあ、それでもちょっと遠慮したいかな……。そういう性癖に目覚めてもそれはそれで困るし……」
正直、セルリアの一族が集まった時の話だけで三時間はもつぐらい面白いというか、興味深いのだが、そんなに話をしていたら勤務時間が過ぎてしまう。
そこにファーフィスターニャ先輩とトトト先輩が入ってきた。
「よろしくお願いする」「今年もたくさんエンジョイしようね!」
トトト先輩がエンジョイと言うと卑猥な意味に聞こえる……。
というか、忘年会がとんでもないことになったんだよな……。こんなことを現実に経験することがあるのかというような一日だった……。
「後輩君……また今年もよろしくね……」
ファーフィスターニャ先輩の顔は少し赤い。それも当然だろう。忘年会でファーフィスターニャ先輩ともサキュバス的なことを流れですることになってしまった。
「あ、はい……もちろん……」
俺もどうしても意識してしまう。
「すっごく久々にあんなことしたけど……悪くなかったよ……。後輩君は物足りなかったかもしれないけど……」
「物足りないなんて、そんな……。先輩もすごくよかったです!」
「フランツ、その表現、ちょっとヘンタイっぽいよ」
メアリに指摘されて、俺も口がすべったと思った……。
「まあ、今年もお仕事、頑張りましょう、皆さん……。俺も成長した姿を見せられるよう、努力しますから……」
どうにか話題をそらす方向性に持っていく。
「そうですね。ただ、せっかくの新年ですし、フランツさんには少し変わったお仕事をしてもらいます」
社長が笑っているのが、ものすごく気になる。何か企んでいるとしか思えないな。
「他社の黒魔法の社員さんが王都を見学に来ているので、案内をしてあげてください」
「え、案内?」
たしかにいつものインプを使って沼の掃除をするみたいな仕事とは大幅に違う。
こういう、知らない人と会う仕事は気をつかうから、まあまあ大変だな。でも、新年がはじまったばかりだし、インプの人手を必要とする仕事のオファーもあまり来ないということはありうる。
そうなると、新人の俺のところには別の仕事がまわってきても不思議じゃない。
「失礼のないように注意します! ちなみにどんな方でしょうか……?」
やたらと気難しそうな人とかだったら嫌だな……。あと、年齢が違いすぎるとコミュニケーションがとりづらい。
「シズオグ郡のモルコの森にあるカーライル黒魔法商店の方です」
あれ? どこかで聞いたことがあるような……。
「アリエノールさんが来ていらっしゃるので、フランツさん、観光案内をお願いいたしますね」
ふふふっと社長が笑っている。
「そういうことかー!」
「フランツさん、今回はお一人でアリエノールさんをエスコートしてくださいね。ちゃんと向こうの会社からそういう依頼を受けていますので」
果たして、それが仕事なのかという気もするけど、仕事という名目になっている以上、しっかりと役目を果たさないといけない。
「ちぇっ……またフランツが鼻の下伸ばすようなことしそう……」
メアリが聞き捨てならないことを言った。でも、俺が反論しても説得力がない気もするな……。
「デートスポットとして使えそうなところなら、わたくしがお教えいたしますわよ!」
セルリアが完全にコイバナでテンション上がる女子の空気を出していたが――
「いえ、あくまでも観光スポットメインでお願いいたしますね」
と社長に念を押された。
ああ、これもあくまでも仕事なんだ。遊びじゃないんだ。




