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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
年末は犯罪の季節編

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161 詐欺師を騙せ

 運は俺たちに味方してくれているらしい。その建物には明かりがついていた。

 俺たちは建物の横を通っている細い路地に入って、身を潜める。


「音、聞こえますか?」

 俺はレダ先輩に尋ねる。

「大丈夫だ。古い建物で隙間が多い。ちゃんと聞こえてくるぞ」


 窓も近いせいか、かろうじて言葉が聞き取れる。どうやら、中には男が二人いるらしい。ほとんど何もないような殺風景な部屋だ。せいぜい、古代遺跡の横の観光案内所で見たパンフレットが壁に貼ってあるぐらいだ。


「いやあ、いい感じで予算が下りましたな、ザグーナーさん」

 背の高い男のほうが言った。ということは、もう片方のやせてる奴がザグーナーか。

 ザグーナーの顔は一見したところ、ずる賢いネズミみたいだった。人を顔だけで判断してはいけないのかもしれないが、ひと癖もふた癖もある人物という印象を受ける。


「今年度の予算が、銀貨四千五百枚か。まずまずといったところだな。来年度は本格的にパワースポットとして宣伝すると言って七千枚ぐらいは要求したいところだ。まだ役場の連中も夢を見ている時期だからな」

「そうですな。もうひと稼ぎしてやらないと、割に合いませんからな」


 レダ先輩が「やはり、自治体から金を巻き上げることを前提にした団体であったか!」と窓を割って中に突っ込みかけたので、俺とメアリで止めた。

 まだ犯罪という証拠が足りない。時期尚早だ。


「ノゴス、例の観光案内所の建設費用の件は?」

 背の高い男はノゴスというらしい。パンフレットのどこかに関係者の名前として書いてあった気がする。

「はい。銀貨二千五百枚かかったというように、業者からの請求書を改竄かいざんしました」

「ふん、あんな狭い小屋、銀貨千枚もあれば作れるのにな。役場の連中は世間知らずだから、いくらでも騙せる」


 そうザグーナーが言った直後、メアリが「よし、これで捕まえる証拠があるようだよ」と言った。

「そうだな。金額を誤魔化しているってことがわかれば、明らかな犯罪――あっ、まだ待ってください、先輩!」


 俺がまた先輩を止めた。

「悪を目の前にすると体が勝手に……」

 レダ先輩はどうも短気というか、敵を見つけると跳びかかっていこうとするところがあるな……。


「バカな教授一人おだてて、あとはライトストーンの担当者を焚きつけるだけでいい。楽な仕事だ。これだけでそれなりの金が入る」

「業務の実態など、役場はチェックしに来ませんからな。来たとしても役場の中には専門家がいないから、いくらでも言い含められます」

「しばらくは自治体を騙すビジネスで儲けさせてもらうとするか。悪人を騙すより、純朴なバカを騙すほうがよほど金になる。それに報復の危険も小さい。最高だ」

 楽しそうにそいつら二人は笑った。どことなく、役場への嘲笑も交じっている笑いに感じた。


 さてと、証拠はそれなりに揃ったな。

 あとは、これをどうやって解決に持っていくかだ。

 ただし、レダ先輩がそのまま突っ込んでいくのは選択肢に含めないこととして。


 ああ、パワースポット詐欺だから、罰もそれに合わせた形でやるか。

「あの、二人とも、少し提案があるんですが」

 俺は策を弄した。この二人がいるなら、たいていのことは実行可能だろう。


 二人は同意してくれた。

 これが後腐れのない方法だろう。


 では、犯人が出ていく前に動いたほうがいいな。


 どうやって侵入するかだが、メアリが窓枠の鍵を入れる部分をがつんと手で叩いて、強引に開くようにした。物理で解決したな。メアリの力だと、普通の戸締りは何の意味もない。


 そして、窓をがらがらと開けて、黒い頭巾つきローブを着たレダ先輩が中に入っていった。頭巾のせいで顔はまず見えないだろう。


「な、なんだ、貴様は!」「いったい、何者!?」


 男たちが叫ぶ。謎の存在が入ってきたから、そりゃ驚くだろうな。

 先輩、策のとおりにやってくださいよ。いきなりぶん殴って成敗とかはやめてね……。


「拙者は……お前らが行ったパワースポット実験で眠りを妨げられた黒魔法使いの霊魂である……」

 一人称、拙者のままかよと思ったが、相手は気にしてないようなので、このままいこう。


「そんなバカな……」「あれはデタラメのはず……」


「せっかく魔力を得つつ、ゆっくりと眠りを楽しんでいたのに、お前たちが騒ぎ立てて、あまつさえ、すぐそばに訳のわからない施設を作りおった……。もはや、許してはおけぬ……」


「まさか、あのトンデモ教授が言ったことが正しかったのか?」「古墳に眠っていたのは古代の黒魔法使いなんでしょうか……?」


 よし、かなり信じてくれてるようだぞ。


 ここでメアリが黒魔法をちょこちょこっと路地から詠唱した。

 連中がいた室内が一気に薄暗くなる。

 明らかに空気がおどろおどろしいものに変わっている。


 しかも、連中の周囲に死霊のようなものが浮遊しだす。

 これはメアリが使役しているミニデーモンによるものだ。こんな怖い姿も見せられるんだな。

 おかげで、もはや詐欺師二人は疑う余裕もなくなってきている。


「せ、拙者はあと千年先に魔力を得て、完全に復活する予定であった。しかし、お前たちのせいでその魔力が横取りされるおそれが出てきた。聞くだけで耳が腐るような悪行三昧! 天が許しても拙者が許さん!」

 先輩、途中から正義の味方っぽさが出てますよ! ばれます!

「いや、悪行かどうかはこの際どうでもいい……。お、お前たちをここで殺して、気晴らしとしよう! 悪者を退治できて一石二鳥だ!」


 内容が不自然だけど、それ以外はかなり先輩は雰囲気を出していた。 ある意味、プロの義賊なわけで、カタギの人間が出せないオーラを放っているから、役だとしても迫力が違うのだ。

 ただの詐欺師の一般人である相手二人がふるえあがってもなんら不思議はない。


「た、助けてください……」「命ばかりは……。私はこのザグーナーという男にそそのかされただけなんです……」「おい! ノゴス、自分だけセコいことを言うな!」「うるさい! 死んだら金だって使えないだろうが!」


 おっと、仲間割れがはじまったらしい。

 こいつらはおしまいだな。詐欺師同士が疑いだしたら、もう何もやれない。悪党というのは悪党だからこそ内部の結束が重要なのだ。


「そろそろ、とどめだな、メアリ」

「わかったよ。ミニデーモンたち、フェイズ2に移行するよ」


 部屋のポスターがぽろぽろはがれだした。

 次いで、テーブルがガタガタと動き出す。

 怪奇現象のようだけど、あくまでもすべてミニデーモンの仕業だ。

 詐欺師二人はもう生きている心地もしていないようで、その場にへたり込んだ。


 騙すことを商売にしてる奴を騙すっていうのは気持ちいいな。


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