160 怪しい組織の謎
『パワースポット観光案内所』の中もきっちりとうさんくさかった。
こういった資料から、この遺跡がパワースポットだとわかるといった展示がしてあるのだが、そもそもその資料が全部どことなく怪しい。俺は歴史家じゃないから本当のところはわからないが。
あとはパワースポットだということを説明しているパンフレットが奥のテーブルに置いてあるぐらいだ。
しかも、その施設は無人だった。
観光案内所を名乗ってるんだったら、せめて誰か常駐させておけよと思う。
「これ、作るのにも、まあまあお金かかってるよな……。この様子だと赤字なんだろうな……」
地元のことだけに痛々しくなってくる。役場の人の反応を見ても、街おこしをするぞという気持ちは感じられたのだけど、それが正しく機能してないというか、力みすぎて空転しているというか……。
一方、メアリは思いのほか真剣に展示やパンフレットを読んでいた。
詠唱してる奴の噂につながるものがないか探してるんだろうか。
「ここを運営してるのって、非営利団体『ライトストーン歴史研究所』っていうんだね。魔界で言うところのNPO法人みたいなものかな」
メアリはパンフレットのほうにも目を通す。そこにも『ライトストーン歴史研究所』の名前と住所が書いてある。
「研究者の名前はブランディン博士か。よし、ちょっとこの人物について調べてみよう」
「その博士の本だったら、そこの本棚に置いてあるぞ」
「いや、この人の研究成果じゃなくて、この人自体の評判だよ。このあたりで一番大きな図書館に連れていってくれるかな?」
なんだか、大事になってきた。
「メアリ、何かわかってきたのか?」
「別にわらわは天才の探偵じゃないから、何かがはっきりわかったわけじゃないよ。だから、ウラをとるための材料を集めていくの。少しずつ真相に近づいていけばそれでいいんだ」
「でも、その様子だと何か予想はついてるんだろ」
メアリとも長いので、そのあたりのことは顔を見ればわかる。
子供っぽく見えるけど、メアリはすごく長生きだし、洞察力も素晴らしい。
「わらわはフランツより性格が悪いんだ。でも、性格が悪いからこそ気づけることもあるんだよ。そこは一長一短だね。だから、わらわとフランツは相性がいいのかもしれない。フランツとセルリアだと、ダブルで善人だから」
その時、微笑んだメアリの表情はやけに色っぽかった。
「あのさ、図書館のついでにレダ先輩のところにも聞きに行かないか? 何か知ってるかも」
「それはいいアイディアだよ、フランツ」
こうして、俺たちはまず図書館に行って、パワースポットと言い張っているブランディン博士という人物についての情報を集めた。
結論から言うと――
「学会からは相手にされてないな……」
「いわゆるトンデモ学者ってところだね。そもそも学会も黙殺に近いスタンスみたいだけど、たまに言及されてる時はボロカスに書かれてる。資料批判が無茶苦茶で、こじつけの連続だってさ。古代の資料はとくに少ないからね。適当なことを並べていってるみたい」
少なくとも研究者の中からは相手にされてないことは確実だ。
とはいえ、そういうのは専門書や専門誌に書いてあることばかりなので、そんな知識のない人間なら偉い先生がおっしゃってるぐらいに受け取った可能性はあるかもしれない。
「まあ、トンデモなことを言い出す奴がいるなんてことはたいした問題じゃないんだよ。でも、それを利用しようって奴がいると話は違ってくるんだよね」
次に俺たちはレダ先輩の宿泊先に行った。レダ先輩は宿併設の喫茶店で俺たちをもてなしてくれた。地元の宿に入るって初めての経験だ。
「『ライトストーン歴史研究所』について、何かご存じのことがあったら、教えてもらえませんか?」
単刀直入に俺は言った。
「聞いたことのない団体名であるな。こういう団体は今、各地の自治体にあるからな。――むっ……」
こっちが持ってきた『ライトストーン歴史研究所』が出している資料を見たレダ先輩の表情が曇った。
その時点でどうにも嫌な予感がする。
「この研究所の代表者であるザグーナーという男は、あまりいい話を聞かないぞ。後ろ暗いことをしていると言われている」
「その話、詳しく聞かせてください!」
どうも放置していい問題ではないようだ。
「金集めは上手いんだが、給料の未払いで過去もトラブルを起こしたことがある。一種の業界ゴロと呼べるような手合いだ。金になりそうなところを見つけると、さっと入ってくる。この『ライトストーン歴史研究所』というのも、まともに運営されているのか?」
だんだんと線がつながってきた。
幸いというか、『ライトストーン歴史研究所』の住所は近い。
「メアリ、年末最後の仕事を頼むことになりそうだけどいいかな?」
メアリはふふっと楽しそうに笑った。
「じゃあ、フランツの抱き枕権、十回ね」
「そんな権利関係なく、俺は抱き枕してやってるだろ」
どうせなら気持ちよく新年を迎えたいし、ちょっと当たってみるか。
「記事になりそうだな。拙者も同行しよう」
レダ先輩も興味を示してくれた。というより――
「悪の臭いがする。こういう小悪党が拙者は一番嫌いなんだ」
この人は、小ずるいことで金を儲けようとする奴が許せないんだろう。
なにせ、貧困のせいでレダ先輩は生命の危険さえ味わったのだ。極度の貧困は生活が苦しいとかいった次元じゃなくて、生存を脅かしてしまう。もし、裕福な家庭に生まれていれば、負うことのないリスクの中で生きてきた。
「年末だし、活動しているかはわからないが、証拠をつかむぐらいは留守でもできる。拙者は拙者でなかば罪人だからな」
それもそうだ。社長もとんでもない人材を社員にしているわけだ。
夕暮れが迫る中、俺たち三人は『ライトストーン歴史研究所』の事務所が置かれてある建物を目指した。
運は俺たちに味方してくれているらしい。その建物には明かりがついていた。




