158 パワースポットらしい
メアリが「それって何か根拠とかあるの?」と俺が聞きたかったことを聞いてくれた。メアリは探偵に向いていると思う。ずばずば気になることを突いてくるし、疑わしい点は徹底して疑う。
「はい。実は文献のいくつかにそれらしい記述があるのがわかったんです。こちらのパンフレットをごらんください」
渡されたものを見る。どうやら、地元の古代遺跡が魔法使いが魔力を吸い上げる装置だったと書いてあるものだった。とはいえ、聞いたことのない資料なので信憑性はよくわからない。
「古代遺跡があることは知ってましたけど、あれってただの大昔の墓じゃなかったんですか?」
この土地は海が近いので、海からも見えるようなところに権威の象徴として墓を作っていたのだ。ちなみに、トラブルを起こした俺のシスコンのご先祖様よりはるかに古い時代の話だ。
「我々もそう思っていましたが、ある日、歴史学者の先生がいらっしゃって、これは魔法使いがかつて利用していた装置だとおっしゃったんです。そして、ぜひとも街おこしに活用するべきだと」
まあ、それで観光客が増えたりすればいいけど、そんなに上手くいくものだろうか。俺としては半信半疑どころか、八割は疑っている。
少なくとも、王都に住んでてライトストーンがそんなことで街おこしをしようとしてるって情報は一切入ってきていない。
けど、怪しい詠唱をやってる奴がいるという話は広がってるんだよな。
となると、無関係として一蹴するのもそれはそれで怖い。
「フランツ、古代遺跡っていうのは立派なものなの?」
「魔族の価値観では立派かはわからないけど、この国の規模からすると、有数のものらしい。保存状態もかなりいいそうだ。鍵穴の形に作ってある墳丘なんだけど」
メアリはくちびるに右の人差し指を当てて、考え込む。
「鍵穴の形か……。それだけ聞くと、魔力を引き出すようなものとして作られた可能性は否定しきれないね。魔法を使う時に、関係の深い形や物を利用するのはよくあることだし。たとえば、呪いをかける時に、呪いたい相手によく似た人形を用意したりするでしょ?」
「つまり、鍵穴ってことは、大地から魔力を引き出す扉を象徴してるってことか……」
役場の人も「そうなんですよ! このことがもっと詳しくわかれば古代のロマンを求めて各地から観光客が訪れます!」と力説してきた。
「フランツ、ひとまず明日、古代遺跡に連れていって。どうせ休日だし、問題ないでしょ」
「そうだな。メアリの退屈しのぎにもなるし、ちょうどいいや」
帰省の目的が一つ、はっきりとできた。
●
そして、俺は実家に戻ってきた。
「おお、おかえり、フランツ。あれ、セルリアさんは、どこに……?」
親父が開口一番、セルリアの存在を探していて、連れて帰ってこなくてよかったと思った。
「セルリアは魔界の実家に帰省してるよ。だから、ここには来ない」
「そっか……。そうなのか、ははは……」
親父、テンション落ちすぎだろ……。息子が帰省したんだから、もうちょっと喜べよ!
「ああ、フランツ、いつでも王都に戻ってくれていいぞ……」
「そこはもう一日いられるんじゃないのかとか、子に言うところだ!」
本当に現金すぎる……。もはや、実は父親は別の人と母親に言われても動じないレベル。
「でも、メアリちゃんもかわいいからな! 何も問題ない! もう少し、大人なタイプのほうがうれしいが」
「おい、親父、黙れ。いいかげん黙れ」
あと、メアリがキレたらライトストーンって街ごと消滅するからな。それぐらいに恐ろしい存在だからな。
――と、母さんが親父の背後から首をぎゅっと絞めた。
「うぐぐ……苦しい……」
「大丈夫よ、あなた。絞めてる私の心はもっと苦しいから」
そんなことはないだろうと思ったけど、自業自得なので止めはしない。いくらなんでも、これで殺すことはないだろう。
「けれど、たしかにセルリアちゃんがいないのは悲しいわね。未来のお嫁さんが来ていないんだもの。早く孫の顔が見たいわ」
マジで母さん、セルリアと俺と結婚させる気満々だな。
ただ、サキュバスは魔族なので、人間との間に子供は生まれづらい。でないと、サキュバスは妊娠しまくりになってしまう。
「夏休みから親に変化がないと好意的に解釈することにするよ。ちょうど、大掃除の時期だけど、何かやろうか?」
「ああ、それならけっこうよ。明日、手伝ってもらおうかと思ってたけど、その分もこの人に全部やってもらうから」
母さんがさらに親父の首に力を込めた。
「ねっ、あなた、いいわよね?」
「わ、わかった……。いつセルリアさんが来てもいいように掃除す――ぐうぇぇぇ!」
親父が断末魔の叫びを上げたけど、命に別状はありませんでした。
「くそっ! いつかサキュバスと仲良くなって、あんなことやこんなことをしてやる! それまでは死なんぞ!」
息子の前で言ってほしくない発言ランキングの上位に来ることを言いながら、親父は窓を拭きだした。これで罰が掃除だけなら安いものなのかもしれない。
「ところで、親父、ライトストーンがパワースポットとして街おこしをやってたんだけど」
「ああ。みたいだな。ワシは魔法使いではないので、よくわからんが」
ある種、会計士らしい返答が来た。全然興味もなさそうだ。
「少なくとも、まだ全然周知されてないんだろうな。街で仕事をしていても、魔法使いらしき人間が増えたなんて印象はないし、観光客の顔もたいして見んぞ。海水浴の時期が過ぎると静かなもんだ」
「なるほどな。そりゃ、王都でも聞かないわけだ」
「ただ、古代遺跡のほうは整備にかなり金をかけたらしいし、ある程度は人が来てくれないと赤字がふくらむぞ。役場のほうはそのあたり考えてるのか怪しいところだ」
やっぱり会計士らしい発言だ。親父は会計士としてはまともなのだ。
「はいはい、あなた、手もしっかり動かしてね」
母さんも雑巾を持って拭き掃除をはじめた。こういうところを見ると、まだ夫婦仲は冷めてないと考えよう。そう信じたい。俺が傷つくから離婚とかはしないでくれ。
ひとまず、現段階でできる情報収集はこんなところか。俺は自室に荷物を置いた。
今のところ、祖先の心の声みたいなのも聞こえないし、俺はいたって正常だ。
ダッシュエックス文庫3巻の作業にそろそろ入ります! また情報入りましたらご連絡いたします! また、そろそろコミカライズ版2話もそろそろ更新されます! あと、1話遅れでそろそろマンガUP!以外でも更新が行われますので、そちらもぜひどうぞ!




