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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
年末は犯罪の季節編

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154 義賊現る

 メアリが出なきゃいけないような強敵か……。

 けど、その頭巾の人物はメアリには目もくれず、屋敷の中に入った。実行犯ならおかしなことじゃない。仲間とも合流したいだろうし。

 しかし、そこで不思議なことが起こった。


「お前、何者だ!?」

 強盗団とおぼしき男が頭巾の人物に声をあげたのだ。


 ということは、こいつは強盗団じゃないのか? だとしたらまさに何者なんだ?

 俺とメアリは塀から屋敷に生えてる木に移って、様子をうかがう。もうちょっと状況を把握したほうがよさそうだ。


「親分、こいつ、格好からして悪徳抜きですぜ。たいした奴じゃないですよ」

 強盗団の男の一人が言った。

「そうだな。何をしに来たのか知らねえけど、見られちまったもんはしょうがねえ。ここで殺しちまえ!」


 強盗団たちが悪徳抜きを囲む。

 すると、悪徳抜きが頭巾つきのローブを、ばっと脱いで投げた。


 そこに立っているのは顔に十字の傷を持ったポニーテールの女性。

 月夜を浴びて、その顔が輝いて見える。


「このような数をたのんでの悪行三昧。しかも、人を傷つけることも平気でする。実に見苦しい。盗人の美学に反する!」

 その女性が堂に入った態度で言った。


「親分、こいつ、なかなかいい女ですぜ! 肌も白く透き通ってらあ!」

「よし、手ごめにして連れて帰るぞ!」

 かえって、正体を知った強盗団は意気が上がっている。


「メアリ、これって助けたほうがいいんじゃ……」

 メアリは首を横に振った。

「多分、その必要はないよ」


 果たして、本当にそのとおりになった。


 ポニーテールの女性に突っ込んでいった男たちは、その女性が出した木剣で殴り倒されていく。

 四方から囲もうとしても、次々に各個撃破されていく。


「悪いが、お前たちみたいな強盗がいると、泥棒全体の名前が汚れる。お縄につけ」

 強盗団もその女性の様子に何か思い当たるところがあったらしい。


「まさか、お前、伝説の女泥棒、十字傷のレダじゃねえのか!?」

「そうだ。かつてはお前たちのような絶対悪からだけ盗んで、糊口をしのいできた」


 なんか、泥棒業界の大物みたいな人物のようだ……。


「おいおい……実在したのかよ……」「あの十字傷のレダだって? 強盗や盗賊からしか盗まない、あのレダか?」「警察の中にもファンが無数にいるって話じゃねえか!」


 まさか、まさか……。

 小説の中だけの正義の味方的な大泥棒が実在してただなんて!

 しかも、その大泥棒がまさに目の前で戦っているのだ。


「ふん、お前だって泥棒には違いねえだろ。何、聖人ぶってんだよ!」

 親分と呼ばれていた男が吐き捨てるように言った。

「俺とお前は似た者同士だ。裏の世界で生きてる点じゃ一緒だ。偉そうな顔をするんじゃねえよ」


「そうだな。だから、泥棒稼業からは足を洗った」

 静かにレダは言った。その態度もクールだ。

「今は名義上はとある会社の正社員だ」


 この場に、正社員という言葉がものすごく浮いていた……。


「おいおい! 正社員って舐めてるのかよ!」「今は深夜手当が出てるのか!?」

 強盗団も笑い出した。これは当然の反応だと思う。


「裁量労働制が取られている。週に一回、労働に関して社長に手紙で報告している。まあ、拙者も会社のためになる労働ができているかというと疑問だが、給料は毎月、振り込まれている。年に二回のボーナスも支給されている」


 平然と説明をはじめたぞ……。

 そして、やっぱり状況にふさわしくない単語が並んでいる。


「ふざけんじゃねえ! 野郎ども、こんな意味不明な奴に負けるんじゃねえぞ!」

 盗賊団が再び攻めかかる。

「どこまでも愚かだな」

 これをレダは木の剣で淡々と打ち払っていく。

 まったく無駄な動きがない。まさに剣客と言っていい肉体能力だ。


 いつのまにやら、軽く二ダースはいた盗賊団は、親分を入れて残り三人となっていた。

 大半は頭を殴られて昏倒している。


「もうおしまいのようだな。諦めて、逮捕されろ。『冥府カモシカ』の一味よ」

「ふん! お前がいかに凄腕の剣士だろうと、こっちには魔法使いもいるんだよ!」


 残った男たちは親分も含めて、一斉に別々の魔法陣を描きはじめた。

 こいつら、魔法で仕留めるつもりか!

 これはまずい。三人とも、かなり離れてるし、剣では魔法発動前に全員倒すのは難しいんじゃ……。


「拙者が魔法を使えないと、いつ言った?」


 さささっとレダは木剣で簡易の魔法陣を描いていく。

 これは「肉体弱体化」の魔法だ!

 それでも、少し弱らせただけでは相手の詠唱を止めるまでには――


 その魔法陣からとんでもない量の魔力があふれているのを感じた。


 俺が使えるのは「肉体弱体化(中度)」だけど、そんな比じゃない。威力は(強度)だろうか。むしろ、(最々強)ぐらいの力じゃないかな……。


「やっぱ、とんでもない奴だったね」

 メアリが嘆息するように言った。

「どうやら、『悪徳抜き』っていう魔法をあの子は実用化してたんだよ。そして、貯めこんでた魔力を一気に放出してるんだ」


「えっ!? でも、あんな黒魔法はないはずだ……。悪徳抜きはあくまでも年末の風物詩で、効果があるなんてことは……」

「新しい魔法を自分で作るぐらいのことをやっちゃう存在だってことだよ」

 そう考えざるをえないほどの強烈な力だった。


「喰らえ、悪党ども! お前たちがいると、盗人の名がすたる!」


「肉体弱体化」による、漆黒の闇が強盗団三人にそれぞれ直撃した。夜でもはっきりわかるほどの闇だった。

 直後、その三人は足の力を失ったみたいに、ばたばたとそこに倒れていった。

 目は開いているから意識はあるみたいだが、まともに言葉を発することすらできないらしい。


「いずれ、屋敷の人間が気付いて、警察を呼ぶだろう。せいぜい、罪をあがなえ」

 レダは木剣をふところにしまった。

 まさに義賊。隠れているんじゃないなら、拍手したいところだ。


 けど、そこまでの手練れなら隠れている俺たちのことだってお見通しのようで――


「樹上のお二人、用があるなら出てきたらどうだ?」

 レダの視線が木のほうに向いた。


「魔界のことわざに深淵をのぞいてる時は、深淵もこちらをのぞいてるっていうのがあるけど、そんな状態だったね。そっちもわかってたか」

 メアリは俺を抱えると、ゆっくりとレダの前に降り立った。


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