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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
年末は犯罪の季節編

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151 風来坊と強盗団

 せっかくだし、一度、説明しておくか。魔界とはシステムも違うかもしれないし。


「あのな、この王国には年末に一年の使用料をまとめて徴収する会社がけっこうあるんだ。飲食店に業務用の食品を卸してる会社とかな。まあ、年に一度とまでは言わなくても、半年とか四半期ごとにどさっと払うってことは多い」


「なるほどね。その都度、集金してると面倒な商売も多いものね。節目にまとめて支払いをするって会社は魔界にも多かったよ」

 メアリの態度だと魔界でも大枠は変わらないようだ。


「で、その中でも年末っていうのは支払いが集中する時期なんだ。しかも、銀行は年末年始だと閉まってたりするから、大きな会社だと新年に銀行に預けるまでの間、金貨が大量に倉庫に保管されるなんてこともある」

「ああ、それを盗まれたら大変だから、気をつけてるってことだね」

 俺は大きくうなずいた。


「そういうことだ。とくに、ただでさえ、この時期は社員も休む奴が多い。だから、人の目も届きづらい。泥棒に入られるリスクもいつも以上に高くなるんだ。金貨を大量に持って逃げられたらシャレにならないから、商人の中には警備員を臨時で雇ったりするってわけだな」


 ちょうど、大きめの石造りの倉庫の横を通過した。そこにも顔に大きな傷のある男が腕組みして立っていた。


「どっちかというと、あの男が不審なぐらいだけどね。どう考えても、まともな世渡りしてきた人相じゃないでしょ。ならず者って雰囲気がぷんぷんするよ」

 皮肉交じりにメアリが言った。ぶっちゃけ、それで正解だと思う。


「世の中には普通の会社の社員が性に合わない奴も一定数いるんだ。フラフラ何をしてるかわからないけど、なんだかんだで食っていけてる奴も多い。そういう連中の仕事のクチの一つが用心棒なんだよ」

「ふ~ん」

 なんか、ジト目でメアリに見られている。

 そんな変なことを言ったつもりはないんだが……。


「フランツさあ、実はそういう風来坊みたいな生き方にあこがれ、持ってない?」

 心の中で、ぎくりと大きな音がした。

「そ、そんなことは……少しあるかな……」


「だよねえ。今、ちょっと目がきらきらしてたんだよね。ああいう明日をも知れぬ生き方もロマンがあるなとか、かっこいいなとか、思ってる顔だったよ。男ってそういう部分あるんだよね。お兄ちゃんも、そういう風来坊の小説が好きでよく読んでたんだよ」


「まあ、なんていうかな……定職について毎月決まった給料をもらえる仕事もありがたいんだけど、だからこそ、リスクの高い生き方が特別に見えることがあるっていうか……」

 すべてが自己責任の生き方というのは、一歩間違えばすぐに食べるものもなくなってしまう。でも、そこにスリルがある気もする。


「もちろん、メアリのお兄ちゃんが読んでた小説もそうだと思うけど、そんなところに出てくる風来坊はものすごく美化されてるぞ。弱きを助け、強きをくじくなんて奴はほぼいなくて、実態はゴロツキと大差ない連中が大半だとは思う」

 なので、基本的にはフィクションの世界の産物なんだが、だからこそあこがれるというのもあるかもしれない。


「そっか。わらわとしては、生活力ないだけじゃんとしか思えないけどね。だいたい、用心棒としてとてつもなく優秀で信用できるなら、どこかの会社が社員として雇うでしょ」

 夢も希望もない正論だった。

「まあ、そんなところだな……」


 そんな話を馬車の中でしてると、ふっとほかの乗客の言葉が耳に入った。

 なぜかというと、ちょうど俺たちが訪れる街の名前が出てきたからだ。


「次はオーガルぐらいが狙われるんじゃないか」

「規模としても、ちょうどよさそうだもんな。あそこは構成員の人数も多いからデカいところを攻めないと割に合わないだろうし」

 どうやら、その二人は商人らしい。商人はこうやって出会った同業者たちと情報交換をする。


「あのさ、オーガルって街で何か事件でも起こりそうなの?」

 さっとメアリが話に入っていった。こういう時、メアリの子供っぽい容姿は相手を必要以上に警戒させることがないので、ちょうどいい。


「お嬢ちゃん、強盗団『冥府カモシカ』って知ってるかい?」

 商人の一人が尋ねる。メアリは首を横に振った。わざと子供っぽいそぶりを強調してるな。


「三十人ぐらいが所属してるって言われてる、悪名高い強盗団なんだ。商人の倉庫を襲撃して場合によっては人も平気で殺す。で、そいつらが最近荒らしまわってるエリアからして、次あたりオーガルって街が危ないんじゃないかって話をしてたのさ」


「ふうん。でも三十人がうろついてたら目立つよね。夜中にこっそり動いてるのかな」

「そりゃ、白昼堂々やる奴らはいないさ。深夜に入り込んで、事が終わればすぐに散っていく。神出鬼没で地元の警察や軍隊も手を焼いてるのさ」

「ふうん。わらわは夜はお兄ちゃんと宿に入って寝てるからわからないや」

 俺が完全に兄って設定なんだな。


「だな。お嬢ちゃんなんかが会ったら大変だ。よくてさらわれるってところだな。夜間は宿に入ってるほうがいいぞ」

「だってさ、お兄ちゃん」

 俺のほうを向いたメアリは、にやっと笑っていた。

「夜は気をつけて、出歩かないようにしようね♪」


 その顔には面白そうだから、夜中に散歩でもしよっかと書いてある。

 もしや、ケルケル社長がオーガルに寄るのはどうかと提案したのは、これのせいだろうか?

 たしかにどんな強盗団もメアリに遭遇したら運の尽きだ。壊滅させられるのは必至だ。それで悪が滅ぶわけで、いいことしかない。


 しかし、そんな純粋な善行? をやらせるために俺たちをけしかけるようなことをするかな……?

 まあ、どっちみちオーガルに行かないといけないことは間違いない。何かあったとしたら、その時に明らかになる。


 明らかにならなくても問題はない。これはたんなる帰省途中の小旅行なんだから。


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