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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アタミス温泉忘年会旅行編

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148 人にもなれる

 のぼせてしまったので、俺は食事までしばらく風に当たって、熱をとっていた。

 この忘年会、うれしいけど、同時につらくもあるな……。


 本音を言うと、心の平静を保つためにも、できることなら、夕食後にお金を持ってサキュバス的なサービスをしてくれる店に行きたい!


 あくまでも、心の平静を保つためにだ。欲望というのは存在を消し去ることはできないから、ほどほどにコントロールしないといけないのだ。


 だが、たいしてお金を持ってきてないし、仮にお金があっても一人だけ単独行動でホテルの外に出たら不自然すぎる。

 それにバレたら、軽蔑されるだろう。ほかは女子ばかりなので、男の気持ちに共感してもらうことは難しい。俺が女子社員でも何を考えてるんだとか思いそうだ。


 これが家なら、セルリアにサキュバスとしてのお仕事をお願いするということもできる。だが、いくら別々の個室があるとはいえ、みんなで泊まっているのだ。今夜は控えないとまずいだろう。


「なんだか、ご主人様、疲れた顔をなさってますわね。お風呂ってくつろげますが、体力を消耗しますものね」


 ぱたぱたとセルリアが羽の扇子で風を送ってくれているが、決してお風呂的な理由だけではない。


「いや、まあ……ある意味、自分のごうとの戦いみたいなものだから、じっくり乗り切ることにするよ……」


「もうすぐおいしいごはんですわよ。それを食べれば、回復もすると思いますわ」

「そうだな。俺もそれに期待したい」


 三大欲求を別の三大欲求で満たして誤魔化すという作戦、悪くはない。

 たとえば、ぐうぐう寝ている時に、おなか減ったなとか、女子の裸見たいなとか、思うことはない。食事を堪能してる間は、食事にしっかりと集中できるはずだ。


「どんな料理なのかな! 今から楽しみだ!」


 ――食事は豪華だったけれど、やけに精力がつくようなものだった。


「このあたりはニラの仲間がよく取れるそうですね。香りがきついですが、それさえ慣れればおいしいですね」

 ケルケル社長は犬なので、香りが強すぎるとつらい部分があるようだ。なお、別に玉ねぎやニラを食べることは可能らしい。


「お肉もおいしい。パワーになってる気がする」

 ファーフィスターニャ先輩はもりもり肉をかじっている。見た目によらず、なかなか食べる。


 俺も料理はおいしく食べたが、どうも血がたぎってくるような感覚がある。

 やけに体がかっかしてくるぞ……。


「そういえば、温泉地の料理は味付けが辛いところもあるというね。温泉で汗を流すだけでなく、食べ物でも汗を流そうって発想らしいよ」

 サンソンスー先輩が解説をしてくれた。それが合理的なのかよくわからないけど、汗をかいてもすぐに温泉で洗い流せるから、汗をかくデメリットが小さいと言えなくもない。


 それはそれとして、困ったな。頭がぼうっとする……。

 マジで個室を一部屋、俺専用にしてもらうようお願いするべきかもしれないな。缶詰状態になれば、もう少し気持ちも落ち着くはずだ。


 むしろ、その前にもう一風呂浴びて、さっぱりしようかな。温泉に入ればリフレッシュもできるはずだ。


 デザートを食べ終えたあと、俺はさっと部屋風呂に向かった。

 こういうのは先手必勝だ。男は俺だけだから、ゆっくりしていると入るタイミングがなくなりかねないし。

 そして、そのあとは部屋に引きこもろう。これでひとまず乗りきれる!


 しかし、俺の作戦は機能しなかった。

 ――なぜか、裸の女性が湯船につかっていた。

 まあ、服を着てつかっていたらおかしいので裸なのは当たり前なのだが、論点はそこじゃない。


「だ、誰ですか!? 宿泊客じゃないですよね!?」

 会社の社員はほかにもいるはずだけど、少なくとも来るなんて話は聞いてないぞ。


「ああ、そうか。この姿をとるのは初めてであったかもしれませんな」

 いったい、何者だ? どうも俺のことは知ってるようだけど……。


「拙者はファーフィスターニャ様の使い魔、フクロウのモートリ・オルクエンテ五世でござる」

「人間になれたんだ!」

 あと、女だったんだ……。


「その程度の魔法、森の賢人フクロウの中にはできる者もおり申す。もっとも、ファーフィスターニャ様の使い魔になってから鍛えられて、この魔法も習得したのですが。これは鳥魔法とでも言うべき、人のものとはまた異なった魔法でござる」


 魔法体系を根本から覆すようなことを、さらっと言ってる気がするんだけど、たしかに動物が人の姿をとったっていう伝承とか民話って多いよな……。人に姿を変える動物はありえるのか。


 もっとも、それはそれとして、また余計なものを見てしまった……。

 モートリ・オルクエンテ五世の姿は、美少女というにはもう少し歳がいっている姿をしている。人間の見た目だと三十歳前後だ。でも、その分、肉のつき方に奇妙な色気がある……。妖しい人妻といった雰囲気なのだ……。


 ゆっくりと彼女が湯船を出て、俺のほうに近づいてくる。

「な、何か用かな……?」


 無言で、彼女は俺の前で膝立ちになると――

 さらに額を床にまでつけた。

「今後とも、我が主、ファーフィスターニャ様をよろしくお願い申し上げる」


 よくできた使い魔だ!


 本当に主人のことをよく考えてないと、こんな態度とれないよな。しかも、その主人がいないところだから、破目だってはずせるのに。

「わかった。誓うよ」

「ありがとう、若人よ」

 彼女は立ち上がると、俺の手をぎゅっとつかんだ。彼女なりの親愛の表現なのだろう。

 うん、それはいいんだが、俺からすると裸の女性が無茶苦茶近くにいる状態なんだよな……。

 基本がフクロウだからか、距離が近い。


「人間はこういう時、親愛の情を示すために抱き合うものでしたか?」

「それは絶対やめてくれ……」

 先輩の使い魔に手を出すとか、場合によってはクビになってもおかしくない。


 俺はそのあと、湯船に入らずに頭から水を何度か、かぶった。

 心を落ち着かせるには、あったかいお湯では不十分だ……。


「よし、今度こそ、今度こそ、気持ちは落ち着いたぞ!」

 俺は脱衣場に戻った。とっとと、部屋に引きこもる! もう寝る!


 裸のサンソンスー先輩とファーフィスターニャ先輩が立っていた。

 うん、脱衣場だもんね……。鉢合わせもあるよね……。

フランツのラッキー?が続いてますね。多分、次の更新のタイミングぐらいでコミカライズ、マンガUP!さんにてはじまるはずです!

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