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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アタミス温泉忘年会旅行編

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146/337

146 スイート・ルームにて

 そのあと、高台から海を見渡したり、温泉が噴出しているところなどを見学したりしているうちに、夕方もだんだんと近づいてきた。


「それでは、そろそろホテルに行きましょうか!」

 今回の旅程を立てたケルケル社長がみんなを先導して歩いていく。今日は尻尾がずっと動いてるな。ゲルゲルも「今年、一番機嫌がいいかもだワン」と言っていた。

 なお、館内などに入る時以外はファーフィスターニャ先輩の使い魔のフクロウ、モートリ・オルクエンテ五世も空を旋回していた。一応、ついてきているらしい。サンソンスー先輩の亀の使い魔はちょっと来れないよな。


 メアリが「社長ってこうやって見ると、忠犬って感じだね」と失礼なことを言った。

「あんまりそういうこと言うな……。社長なんだから……」

 でも、心の中では深くうなずいていた。家族と旅行に出てはしゃいでいるペットの犬っぽさがハンパない……。


 温泉街はそんなに巨大な町ではないから、十分も歩くとホテルに到着した。

 ホテルの名前は『グラン・ヴァカンス』。王都にある貴族の邸宅かというような、豪華な建物だ。


「ここです! いや~、実物を見ると、思った以上にいいですね~!」

「また、高そうなホテルですね……。これ、会社のお金で出して大丈夫なんですか……?」

 社員旅行は宿代も食費もすべて会社の経費で落ちることになっている。社員としてはありがたいけど、経営のほうは大丈夫かと不安になる。


「心配いりません! 今年は業績もいいんですよ! さあ、参りましょう!」

 ホテルに入ると、正装した従業員らしき男女がさっと、頭を下げて、俺たちを出迎えた。

 その中でも、老紳士といった風情の男性が一歩前に出る。


「『グラン・ヴァカンス』のホテル長でございます。このたびは最上階のスイート・ルームをご予約いただき、ありがとうございました」

 えっ! そんな高そうな部屋を!

 まあ、社長がどんな部屋で泊まろうと、社長なんだからいいよな。

 俺はもうちょっとランクの低い部屋だろう。


「はい、皆さん、スイート・ルームまで案内してもらいましょうね」

 ファーフィスターニャ先輩が「社長、スイート・ル-ムに泊まるのは誰と誰?」と尋ねた。それは当然出てくる疑問だ。社長一人で泊まってもいいわけだけど。


「全員で同じ部屋に泊まりますよー。なにせ、とっても広いんですから! ファーフィスターニャさんのフクロウさんも入れますよ!」

 ファーフィスターニャ先輩は素直に喜んでいたけど、俺はあわてた。


「いや、男の俺もいるんですよ!? 全員で一部屋ですか?」

「はい。本当に広いんですよ。最高で十二人まで泊まってもいいとホテルのほうのパンフレットにも書いてありました」

「いえ、面積的な問題じゃなくて、性別的な問題です。いや……それだけ広いなら個室がいくつもあるのかな……」

 それなら、男が混じっていても、そんなに気にはならないか。着替えを見ちゃうみたいなアクシデントも起こらないだろう。


「個室ももちろんあると思いますけど、そんなに気にしなくていいですよ、フランツさん」

 あっさり俺の心配を受け流して、社長はホテル長についていってしまった。

 トトト先輩がぽんぽんと俺の肩を叩いた。

「まっ、ライトストーンの島で、みんなの裸を見た君がそんなこと気にするのも変でしょ?」

「それは、その……完全なる不可抗力でしたからね……」

 遠くが見えるようになる魔法がいきなり発現したとか、俺の責任能力の外だ。


「ご主人様、よかったですわね」

「セルリア、その『よかった』っていうのは、どういう意味だ?」

「サキュバスとして、ラッキースケベの演出には全力を尽くしますわ!」

「そこは尽くさなくていい!」

 謎の使命感を燃やさないでほしい。会社内での俺の信用にかかわるから……。


 そんな懸念を残したまま、スイート・ルームに入ったが、そこはたしかに見事なものだった。


 まず、部屋が多い。個室だけでも四つあるので、十二人までOKというのも納得だ。応接間も広々としていて、一流のレストランのようだ。テーブルも椅子もどれも高級品とすぐにわかるものだった。


 そして、景色もいい。ベランダからは海を一望できる。潮騒が風に乗って聞こえてくるほどだ。情緒満点と言っていい。


 さらに、その景色を見ながら露天風呂に入れる構造になっていた。木を箱のように組んだタイプの浴槽だ。


「最上階の高所にあるこのお風呂はほかの部屋からのぞかれる心配もございません。ぜひ一度、夕焼けを眺めながら、ご入浴なさってはいかがでしょうか?」

 ホテル長が部屋の紹介をしていって、退出した。


 ファーフィスターニャ先輩は露天風呂の前でうずうずしていた。

「社長、入りたい。入ろう」

「ですねえ。みんなで入りましょう!」


 ちょうど夕焼けの時間に差しかかるし、この時間を逃す手はないもんな。俺はホテルの大浴場でも使わせてもらおうか。

 と、社長に腕をつかまれていた。


「フランツさんもどうぞ。脱衣スペースは一箇所なんで、先に入っていてもらえれば、けっこうです。部屋風呂ですから、バスタオルで体を隠してもマナー違反になりませんしね」

 社長はそう言うだろうとは思ったけれど、とはいえ、これはこれで生殺しなんだよな……。いっそ、一人で賢者のように、物思いにふけりながら、大浴場に行くのも――

「わかりました。入ります」


 ――いや、ここは混浴露天風呂を楽しむべきだろう。それが俺の男としての決断だ!


「フランツ、欲望に正直だね」

 メアリにちょっと笑われた。笑いたくば、笑え。


 俺はそそくさと脱衣場で服を脱いで、露天風呂に入った。

「ああ、最高……」

 泳げそうなほどに湯船は広い。しかも、泉質のせいか、どことなく肌がぬるぬるする。入ってるだけで健康になれるような気がする。


「黒魔法使いが健康を気にするのもおかしいかもしれないけどな」

 このままつかっていれば、ちょうどいいころ合いで夕焼けを臨めるんじゃないだろうか。


 そして、その温泉にセルリアが入ってきた。

「わ~、本当に広いですわね~」


 バスタオルも巻かずに。


「えっ!? 巻かないの!?」

台風、大変でしたね……。自分が住んでる部屋も微妙に被害を受けて、業者さん呼びました……。あと一週間ほどでコミカライズ第一話が載るはずです! よろしくお願いいたします!

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