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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アタミス温泉忘年会旅行編

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143 レッツ忘年会!

 年末が差し迫ってきたある日。

 俺は会社でケルケル社長からこんなことを言われた。


「忘年会をやりたいと思うのですが、大丈夫ですか?」

「忘年会ですか。もちろん賛成ですが、大丈夫かっていうのはどういう意味ですか……?」

 黒魔法的な恐ろしい会でも開くということなんだろうか……?


 ケルケル社長は首を左右に振った。同時に尻尾も左右に動いた。社長としてはアクションがかわいすぎるのではないだろうか。

「いえいえ。単純に、近頃は忘年会とか嫌がる若い方も多いと言いますので、確認をとったまでです。無理強いはいたしませんから」


「会社から参加するのは、俺の家のセルリアとメアリを除くと、社長、ファーフィスターニャ先輩、トトト先輩あたりですかね?」

「はい、それとワニ獣人のサンソンスーさんも駆けつけてくれるそうです」

「そんなの、行くに決まってるじゃないですか」

 俺以外、全員女子(ただし使い魔は除く)。形式的には、ほぼハーレムみたいなものである。それで断る男がいたら、逆に見てみたい。


「わかりました! では、とっておきの場所を予約しておきますね! 皆さんでぱーっとはしゃぎましょうね!」

 ケルケル社長が見た目相応の幼さの残る笑みを浮かべる。これは忘年会を割とガチで楽しもうとしてるな。期待も持てそうだ。


 過去にも社長は超高級店で俺を祝ってくれたことがある。また、そういうところなんじゃないかな。

 テンションが上がってきたぞ!


「あ、そうだ、もう一つ確認をとっておきたいのですが、翌日に帰る形になってもよいですか? そのせいで休日にかかってしまうんですけど」

 たしかに飲み会って酔いつぶれてもいいように、週末に設定されてたりするよな。社長の確認もそういうことだろう。

 べろんべろんになっちゃったら、翌日も動けなくなってしまう。なので、嫌々行った飲み会は休日もなかばつぶされたようになってしまって、気分も最悪ということもあるらしい。


「はい、それぐらいは何の問題もないですよ」

 この会社の面子で行って、楽しくないことなどありえない。


「わかりました。それじゃ、しっかり探しておきますからね!」

 社長、仕事をしてる時以上にやる気だな……。


 そして翌日。

 メアリとセルリアとともに出社した時に社長に言われた。


「忘年会の場所が決まりましたよ!」

 どこの居酒屋かな? いや、居酒屋というのもおこがましい高級レストランかな?

「アタミス温泉のホテル『グラン・ヴァカンス』一泊二日です!」


「え……? 泊まりがけ……?」


 まったく予想外の情報が出てきた……。

「アタミス温泉っていうと、王都からも比較的近い温泉地ですよね? そこまで行って過ごすっていうことですか?」

「はい! ホテルには露天風呂もあります。近くには南洋の植物を集めた植物園もあるそうですし、ほかにもレジャー施設もいろいろとあるようですよ。海も近いので、お魚もおいしいですよ!」


 横にいたセルリアは目を輝かせていた。

「温泉! 胸が高鳴りますわ! 実家の家も露天風呂だったので、なつかしさもありますわ! どことなく淫靡な雰囲気もありますし!」

「淫靡な雰囲気は温泉や露天風呂に失礼な気もするけど、言いたいことはわからなくもない……」

 お風呂というと裸になる場所なので、セルリアとは親和性が高い場所なのだろう。少なくとも、雪山とかよりはサキュバスらしさを発揮できると思う。


 一方、メアリは表面上はクールに振る舞っていた。

「アタミス温泉? まあ、せいぜいわらわを楽しませてくれればいいよ」

 やたらと偉そうだけど、地元の魔界でもものすごくリッチな生活を送っていたから、今更ちょっとの贅沢ではなんとも思わないのだろう。


「ふふふ! 今から待ち遠しいです! 忘年会の日、早く来ませんかね!」

 社長がまた尻尾を振っていた。そばにいる使い魔のゲルゲルより振っていた。犬の属性がいつもより強く出ているな……。



 こうして、俺たち一行は王都からアタミス温泉を目指して、旅立った。

 なお、移動はトトト先輩のドラゴンスケルトンである天翔号を使った。これなら短時間で到着できる。

 ただ、問題があった。

 ドラゴンスケルトンは中が吹き抜けなので、猛烈に寒いのだ!


 社長もファーフィスターニャ先輩も、久しぶりに再会したサンソンスー先輩も防寒着スタイルだった。

「冬のドラゴンスケルトン、冷える。対策は必須」

 もこもこの服で口元まで隠しているファーフィスターニャ先輩が言った。この会社に入って長いだけあって、慣れている。


 一方でそういった装備を忘れていたメアリと、露出度にこだわるセルリアはふるえていた。

「ううう……。なんで温泉に行くまでの間にこんなに寒い思いをしなくちゃいけないのさ!」

「メアリさん、我慢ですわ……。この程度の寒さ、雪国と比べればどうということはありませんから……」

「セルリア、別に雪国になんて行こうとしてないでしょ!」


 どうにか耐えてくれ……。俺はもともと冬は厚着だったので、この程度ならしのぐことができる。


「ご主人様、ここは抱き合って暖をとりませんか……?」

 さらっとセルリアが男の心をくすぐる提案をしてきた。どちらかというと、この寒さをしのぐためというほうがメインの理由な気もするが。

「ほら、わたくしは使い魔ですし、ご主人様に温めてもらうのは正しいことかなと……」


「そ、そうだな……。じゃ、じゃあ抱き合おうか……」

「あっ! ずるい! それなら、わらわも参加するよ!」


 メアリは俺の背中側にぺたっとへばりつく。俺のほうは正面からセルリアと抱き合う。

 なんか、我ながら変なスタイルだな……。


「あらら、見せつけてくれますね~」

「後輩君は全体的に破廉恥。でも、男はだいたいこんなものかも」

 ケルケル社長とファーフィスターニャ先輩に揶揄された。そういうことをしてるからしょうがない。


「寒いと、ボクは眠くなってくるんだよね……」

 サンソンスー先輩は隅っこでうつらうつらしていた。


「それはワタシもわかるわ。このあたりの道、変わり映えがしなくて、眠くなってきちゃった……」

 天翔号を運転中のトトト先輩が言った。


「いや、先輩は絶対に眠らずに安全運転でお願いします!」

 こっちは血の気が引いて、寒気がした!


「ふあ~あ……。あれ、本格的に頭がぼうっとしてきたかも……」

 社長もこれはまずいと思ったらしく、運転を変わった。


「ここからは私がやります! それと、途中でちょっと休憩しましょう!」


 少し危ないところもあったが、二時間ほどでアタミス温泉に到着した。


今月末からコミカライズはじまります! お待ちください!

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