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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
食えない同級生編

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141 専門職に必要なもの

「ソントは、魔法使いとして未熟だから、クビを繰り返していたんですね」


 トトト先輩が俺の横で深くうなずいていた。


「そういうことよ。バイトをやたらと移りまくっているということは、定着できる能力がなかったってこと。そして、次のバイト先が見つからない期間も伸びていって、食うのにも困るようになった」


 わざと労働日数が短いものを狙って探す奴はいないだろう。

 ソントが十日とか一週間とか五日とか、数日のうちに仕事が終わってしまったのは、もういらないと言われた可能性が高い。


 その結果、どんどん余裕のない日雇い労働的生活になる。


「このままいくと、ソントって子を雇ってくれる白魔法の会社はなくなるわ。それでも若いうちは肉体労働系の日雇い労働をやれるかもしれない。でも、その先に彼が展望を抱けてないままだったら、あまりお勧めはできないわね」


 それから、先輩はこんなことも言った。

「魔法使いってね、あくまでも専門職なの。魔法という特別な力でそれでお金を稼ぐの。ワタシやフランツ君がやってるのも、ほかの誰にでも代替できることじゃないのよ。そこらへんを歩いてる人を捕まえて、天翔号を動かしてみてと言っても、ぴくりとも進まないわ」

 魔法学校にいたから、そのあたりの感覚がマヒしていたかもしれない。


「先輩、今日はありがとうございました」

 次に俺が何をするべきか、結論が出た。


 友達だったからこそ、俺がしないといけないことがある。



 その日の夜、俺たちが家族で飯を食ってる時間に、ソントが肩を落として帰ってきた。

「実は、またバイトをクビになったんだ……」

「そっか。まあ、まずはメシを食えよ。食わないと何もはじまらないからな」

 頭で考えるのにも力は使う。その力は何か食べて得ないといけない。俺の場合、黒魔法の「生命吸収」とかって手もなくもないけど、それは例外。


 ソントはいかにも居候といった様子で申し訳なさそうに席についたが、おなかはすいていたようで、バクバクとパンを食べていた。


「ソントってさ、たしか地元は南のほうだったよな?」

「うん、親はそこで働いてる」

「まだ親は元気にしてるか?」

 ちょうど、ソントがスープを口に入れていた時だったので、返事に少し間ができた。

「うん、両親ともに健在だけど……それが、どうかした?」

「あのさ、ソント、食べ終わったあと、話がある」


 どこで話すべきか迷ったけど、ソントと二人で外をぶらつくことにした。

 王都の近くといっても、ここは郊外だから月明かりぐらいしかない。当然、歩いている奴もいない。そのほうがいい。


「魔法学校を卒業してから一年で、ほんとにいろいろ変わったよな」

「だね。アクトンには一度会ったけど、上司が厳しいだけの無能だって愚痴を言ってたよ」

「あいつ、けっこういい会社入ったんだけど、上司運とかはどうしようもないよな」


 共通の知り合いの話などをだらだらとした。

 だけど、ソントもこんなことのために出てきているわけじゃないってことは、おそらくわかっているだろう。


「ソント、これまでやってたバイトって、ほとんど白魔法に関するものだったよな?」

「うん……。魔法学校を卒業したわけだし、それが使えるところにしようと思って」

「普通の就活はしないのか? ほら、俺たちはまだ若いんだから、魔法と関係ない分野で働くことだってできるだろ」


 多少迷ってから、ソントは答えた。

「でも、どうせなら魔法の分野で働きたいじゃん。魔法使いなんだから」


 ここではっきりと言わないとダメだな。

 俺は厳しい顔になったと思う。


「ソント、お前は魔法の業界でやっていけるほどの能力はないんだよ。現実を見ろ」

 何も言い返されることもなかった。

 少なくとも、そんなことはないとか反論してきたり、ふざけんなとか怒ったり、そういう反応はなかった。


 黙り込むことでやりすごそうとしているんだ。

 ずっと、ソントが何も言わないので、悪いけどソントが逃げたと判断した。まだ言葉を続けないといけない。


「ソント、お前は魔法学校の中でそんなに成績はよくなかった。そりゃ、卒業はできたけど……それだけじゃ足りなかったんだ。魔法が必要な仕事に就くって、それなりに難しいことなんだ。お前が定職に就けてないのも、魔法の仕事ばかり受けたからだろ?」

 魔法使いを求めている業種であれば、当然、魔法使いとしての最低限の力を最初から期待される。それは若手でもそうだ。


 そこで、仕事をやっていけるだけの力がないと判断されれば、採用はされない。

 日雇いに近い頭数を求めるバイトには採用されても、そこでも馬脚を現して、ああ、こいつは失格だとすぐに来なくていいよとクビを言い渡される。


 そんなことをソントはずっと続けていた。

 短期間の仕事をやって、技術が身につくわけでもない。ソント自体は卒業した頃から能力的に成長してない。それでは、専門職である魔法の仕事にはいつまでたっても就けない。


「このまま、魔法で無理をして職を探すのもソントの人生だから止めはしない。だけど、その場合は俺の家には置けない」


 これまで上手くいかなかった方法をゴリ押しで繰り返すだけなら、それは努力じゃない。

 ただ、自分の現実を見るのが怖い、ただ、自分を変えるのが怖い、それだけだ。


「うん、わかった」

 ソントは月を見ながら、そう言った。

「郷里に帰るよ。地元で何か職を探す」


「うん、それもいいんじゃないかな」

 メシが出てくる環境なら、自分のことをじっくり見つめなおす時間もとれるだろう。最低でも、眠る場所も食べる場所もない時の状態よりは何十倍もマシだ。


「魔法学校に通わせてもらった手前、戻るのが恥ずかしかったんだけど、足りないものはしょうがないね」

 諦めに近いため息をソントはついた。

 ソントの中でも薄々わかってはいたんだろうな。


「旅費はあるか?」

「バイト代で足りるから明日には実家に帰るよ。フランツ、ありがとう」


 魔法学校の中にいた時はあまり気にしてなかったけど、その外に出てしまったら、社会はとんでもなく残酷なんだよな……。


 まあ、でも、この世に職業なんて無数にある。そのうちの魔法に関するものがダメだったからって人生がダメだなんてことにはならない。

 もしかしたら、数年後、ソントが有名がパン職人になっていたり、商人として大儲けしていたりするかもしれない。


 どうか、ソントが新しい道をしっかりと見つけられますように。


今月末からコミカライズがはじまります! よろしくお願いいたします!

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