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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
食えない同級生編

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140 日雇い労働の町

三連休中、旅行でホテルの環境で更新ができるか怪しいので、先にアップしておきます!

 翌日、その日もソントは朝からバイトに出ていった。

 昨日のうちにバイト先は一箇所見つかったけど、それだけだと心もとないので、ほかのバイト先も探すということらしい。

 居候の身だから、当然肩身は狭いだろうけど、殊勝な心掛けと言える。やっぱりソントは悪い奴じゃないな。でも、学校ではあまり成績はぱっとしなかったんだよな。


 俺はトトト先輩と王都で待ち合わせした。

「先輩がまともな服を着ている……」

 トトト先輩はおそらくエルフの民族衣装をアレンジしたような服を着ていた。なかなか似合っている。

「フランツ君、ワタシを痴女だとでも思ってるわけ?」

 ジト目で先輩に文句を言われてしまった。痴女とまでは思ってないけど、少なくとも俺の前でも家の中とかだと裸になる性格ということは知ってます……。


「ちなみにデートでは断じてないわよ。むしろデートでは絶対に行かないようなところに立ち寄るわ」

「デートで絶対行かない場所って言われると逆にどういうところか、難しいですね……」

 著しくセンスのない店とかだろうか? 連れ込み宿とかいかがわしい店? でも、むしろ連れ込み宿はデートで行くところだよな……。


「雑に説明すると、空気がすさんでる場所に行くの」

「すさんでる? 墓地とかですか?」

 先輩のクイズはなかなかの難問だ。

「墓地だと、かえって清浄というか、おごそかな空気も流れてるでしょ? まっ、ここで考えなくても、行ってみればわかるわ」


 答えはわからないまま、俺は先輩の横を並んで歩く。たしかにデートという空気はなかった。先輩も行く場所のせいか、多少の緊張があるのかもしれない。顔は笑っていない。おかげでいちゃついているカップルって感じはまったく出ていない。


「ある意味、ワタシは昔、よくそのへんを通っていたからわかるの。でも、王都の中でも特殊な地区だからフランツ君は足を踏み入れることも、まずないかもね。場所全体が袋小路みたいになってるし」

「まだ、答えがわかりません……」

「だんだんと近づいてるわ」


 やがて、俺と先輩は独特の場所にやってきた。

 そこは両側に延々と古びた汚い宿が連なっているところだった。

 その宿の値段を見て、俺は衝撃を受けた。


「『一泊銅貨二枚』って書いてありますよ! いくらなんでも激安じゃないですか!」

 安い宿でも銅貨五枚ぐらいが相場と思っていたけど、その半額以下だ。これでよく経営できるな……。

「ああ、もっと安いところもこのへんにはあるわよ。銅貨一枚で泊まれるところもあるから」

「なんて安さなんだ……。それなら毎日泊まれますよ。むしろ部屋を借りるより安いんじゃ……」


 ぽんと、トトト先輩は俺の肩を叩いた。

「大正解。だから、このへんの人は毎日泊まってるのよ」


 宿からちょうど中高年のドワーフの男が出てきた。

「今日は休日か。仕事もねえよな……」

 そうぼやくように言って、近くの飲み屋に入っていった。ここ、朝から飲み屋がやっているのか……。


 さらに通りを歩くと、とぼとぼとくたびれた印象の男の姿をいくつも見かけた。

 店は宿のほかに安い居酒屋と「仕事あっせん」とか「ギルド認定の紹介所」という看板がかかっている、いわゆる職業あっせん所らしきもの。


 それと、隣の通りには、いわゆる広義のサキュバス的なことをするお店が軒を連ねていた。

 でも、そこも値段が極端に安くて、正直怖い。ぼったくりじゃないかとか、病気とかうつらないだろうかと心配になる……。少なくとも、サキュバスといいことをするにはこの値段だと無理だろう。


 途中まで行くと、トトト先輩は引き返した。

「最後にこのあたりで最大のあっせん所に連れていくわ。今日は閉まってるだろうけど、雰囲気はわかると思う」

 そこも五分も歩くと着いた。

 建物は閉まっていたが、前にいくつも求人広告が張ってある。


<日雇い 鉄運び 日当銀貨一枚>

<土砂の運搬 三日間 三日で銀貨二枚・銅貨四枚 日払いアリ 朝昼の弁当アリ>

<建物破壊の周辺防御 要 防御系の白魔法 一週間の勤務>


 その求人の内容を見て、なんとなく方向性がわかった。

「いわゆる力仕事ですかね。それと、どれも短期間のものです。一日だけの仕事のものも多い……」

「そういうこと。で、このへんの人たちはこういう仕事を平日になると探して、日々の暮らしをしているわけよ。家の代わりに安い宿を毎日使っているの」

 いわゆる日雇い労働者という生き方か。


「昔は、王都も建設ラッシュで、たくさんの労働者が必要だったの。それで地方からたくさんの人を集めたの。一日頭のお金はそれなりにもらえるから、腕に自信のある人が集まって、お金を稼いだわ。でも、こういう求人は定職ではないから不安定なのよね」

「それこそケガをしたりしたら、途端に働けなくなりますよね……」


「まさにそういうこと。かなりのリスクがあるわ。それに建設ラッシュが過ぎたら、仕事の数も減るから、あぶれちゃう人も出てくる。いい仕事は取り合いになるし……なかなか大変よ」


 俺は就活をしていたから、こういう世界は見てなかったけど、地方から出てきて、この地区に住むような人生も三十年も前に生まれていたら、あったかもしれないのかな。


「で、ここにも白魔法を使うソントって子に近い仕事もあるけど、それに関してはほかのあっせん所のほうがわかりやすいかな」

 またトトト先輩に連れられて行ったのは魔法使いを中心にした公式の職業あっせん所、いわゆるギルドだ。ここは休日でも開いている。


 そして、バイトの求人のところを見て、俺は理解した。

「ソントがやっていたような仕事が並んでますね」


 どれも今すぐ白魔法使いが必要だから来てくれみたいなことが書いてある。日雇い労働のものもあるけど、能力があれば長期で働けることもあるといったことを謳っているものも多い。

 逆に言えば、能力がないなら、すぐにクビになるかもしれませんということだ。


「就活が全滅したソント君はここでバイトをすることにした。そこまでは正しいわ。魔法使い向けの求人は、一般的な肉体労働よりは労働期間が長いものも多いし。でも、問題は彼の職歴からして、ことごとく短期間で仕事が終了しているってこと。しかも、就活自体はしていたって話だけど、結局、就職はできてない」

 ゆっくりとトトト先輩は答え合わせをする。

 もう、答えは俺にはわかっていた。


「ソントは、魔法使いとして未熟だから、クビを繰り返していたんですね」


次回、いつもより一日長く空くかもしれませんが、すぐ元のペースに戻ります。ご容赦ください! コミカライズの準備も着々と進んでおります!

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