139 先輩に聞いてみよう
翌日、俺たちが出社するタイミングと同時にソントもバイトを探しに王都に向かった。
俺たちとは逆方向だから、ソントと同道することはない。メアリがすぐに愚痴というか、本音を言った。
「あのソントって奴、どうもうだつが上がらない感じだね。幸が薄そうっていうか……。人格に問題があるって印象はないけどさ」
「言いたいことはわかる。でも……俺もまさにあんな雰囲気を出してたんだよな。だから、そうやってあいつが責められると俺もきつい……」
今思うと、俺も就職活動の時もああいう喪に近い空気を出していたのだろうか? だとしたら就活がなかなか決まらなかったのもうなずける。
こいつ、どうも暗いイメージだな、よし採用しよう! ――だなんて認識の会社はまずないだろう。元気な奴のほうを選ぶだろう。元気だったら会社員として有能かというと、そんなことはないんだけど。
「このことはご主人様だけが抱え込んでどうにかなることでもないと思いますわ。できるだけいろんな方に相談するべきかと」
セルリアの言葉が心に染み入る。
「たしかにな。だけど、社長には相談しづらいっていうのが本音だ」
ケルケル社長はいい人すぎる。もし、俺が居場所のない友人を預かっていると言えば、雇おうとか言いだす気がする。少なくとも無視するということは、ただでさえ社長との距離も近い少人数の会社なんだからできないだろう。
いくらんなんでも、ここまでの迷惑はかけられない。それにソントが誰かの陰謀に巻き込まれて、職につけないわけでもないだろう。現状がソント自身の問題が大きいなら、社長に甘えすぎるわけにはいかない。
「そのお気持ちもわかりますわ。しかし……たとえばご主人様が銀貨十枚をソントさんにお渡ししして、それで解決するかというとそうでもありませんわよね」
「うん……。そもそも、あいつは絶対受け取らないだろうな……」
銀貨十枚あったら、部屋を借りることはできる。
しかし、そこそこの大金だ。それを昔のよしみとはいえ、受け取るのはあいつは拒否するだろう。俺が逆の立場でもつらいと思う。
かといって、今の家にずっと住まれるのもな……。
出社したら、会社の横にドラゴンスケルトンが止まっていた。
ということは、ダークエルフのトトト先輩がいるということだ。まさにその時も下着姿でドラゴンスケルトンの天翔号を洗っていた。
「あっ、みんな、おはよ! 冬になって天翔号を走らせるのも、ちょっときついわ~!」
下着姿で言われても言葉に信が置けないが、これは水洗いでぬれるからだろう。
トトト先輩を見た時、俺はもう近づいていっていた。
「すいません、ちょっとご相談があるんですが……空き時間でいいんで聞いていただけますか?」
「今なら天翔号を洗いながら聞けるからいいよ。話してみなさい」
俺はソントから聞いた話をほとんどそのまま伝えた。
この内容にウソが混じっていたら、どうしようもないが、そういうことがなければ、ソントのこの一年弱の情報がそのままトトト先輩にも行ったことになる。
「ああ、はいはい。なるほどね、なるほど、なるほど」
やたらと先輩はなるほどと言った。かえって、聞いているのか不安になるけど……そんなこと言ったら失礼だから言えない。
「ちなみに、フランツ君、逆に質問するけど、そういうバイトが具体的にどういうものかイメージができる?」
「イメージ? 白魔法を使った仕事ですよね? あとは結界を張るとか、現場に出ていってやる仕事ってことぐらいですかね……」
ソントが言った内容にデスクワーク的な内容のものは含まれてなかった。魔法使いでもデスクワーク中心のものもあるが、そういうのはバイトではあまりないし、あってもどうも女子が中心に採用されてる印象がある。
「そっか。明日は休日だよね。ワタシが王都を案内してあげるわ。あんまり大人数でもアレだし、二人きりでいい?」
セルリアは「いいですわ」と言い、メアリも「昼間ならいいんじゃない?」と了承してくれた。
いったい、先輩はどこを案内するつもりなんだろう?
「それと、多分、社長に言ったら迷惑かけちゃうとかフランツ君は思ってるだろうけど、それ、杞憂だから」
確信を持って、トトト先輩は言った。
「それって、困ってる人は誰であろうと社長は絶対助けるってことですか?」
だからこそ、言いづらかったんだけど、そこは解釈の違いだろうか。
「そうじゃないわ」
でも、先輩はあっさり否定した。
「きっと、そのソントって子を社長は採用しないと思うわ。社長は一分の隙もなく善人だけど、聖人ではなくて、あくまでも経営者なの。会社の不利益になる人材は採用しない。会社である以上、お金が儲かるようにはしないといけないからね」
強い声で先輩は続ける。
「ワタシも君も究極的には実力を評価されたから、この会社で働けているのよ。その人の特性を社長は活かそうとはしてくれる。でも、それは実力のある人間の特性よ。力不足の人間を成長させる教育者ではないし、あまりにも力不足と思ったら採用なんてしない。だから、この会社は少人数制なの」
さりげなく、俺は褒められてるのかな。うれしい反面、俺って新卒だからそんなわけないんじゃないかなとも思った。
「あなたの能力や成績は、あなたを紹介してくれた人が社長に言ったはずよ。そこで成績が悪いですとでも言われてれば、社長は会ってくれなかった。あなたが優等生だってことは社長は事前に知っていたはずだわ」
あっ、リーザちゃんは、そりゃ、プラスのことを社長に吹き込んでくれたよな。そこで授業態度も最悪で、だから成績も悪い奴ですだなんて言われたら、社長も絶対に会わなかっただろう。
改めて、リーザちゃんのありがたみが増した。
「まあ、それは本題じゃないわ。明日、フランツ君にたっぷり教えてあげる。ちなみにエロい意味じゃないからね」
補足があって、ほっとした。下着姿の先輩にたっぷり教えると言われると、妙な期待をしちゃいかねないからな……。
「本当にエロいいことはしないでね。約束だからね」
メアリが先輩の前に立って、念を押していた。
月末からコミカライズがはじまります! 今からわくわくしてきましたw とりあえずセルリアは超かわいいのでご期待ください!




