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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
社長の風邪編

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127 魔法と一体になる

 昼が過ぎても、まだ社長は苦しそうだった。

 小柄だと伝染病などには免疫力が低いというけど、そういうこともあるのかもしれない。


「ううん。今回はいつもより少し治りが遅いようですね」

 社長が自嘲的に言った。それでも朝に倒れていた時と比べれば、目に力は宿っているけれど、この様子だと一日で治るというのは怪しいところだ。


「社長はいつも頑張ってたんですから、たまにはじっくり休んでください。それで文句を言う奴なんていませんよ。とくにこの会社には」

「そう言ってくれるのはありがたいんですが……」

 そこで社長はため息をつく。

「そうですね、動かないものは動かないですからね……。休むしかないですね」


 別に社長が仕事中毒というわけではないだろうけど、社長だからこそやらないといけないこともいくらでもあるだろう。


 何か社長のためにやってあげられることはないかな。


 ふっと、白魔法のことが頭に浮かんだ。

 そうか、白魔法の中には回復魔法も多いはずだ。


「ちょっと図書室に入ってもいいですか? カギ貸してください」

「あ、はい……」


 この会社の図書室はなかなかいい本が揃っている。ちゃんと白魔法の本もめぼしいのがあった。

 俺は白魔法の本の索引を調べる。

 開いたのは病気の回復能力を高める魔法のページだ。

 ただし、ケガなどの回復と比べると、かなり高度なものらしい。詠唱もかなり複雑で、学生の時点で使えるような代物じゃない。


 でも、上手くこれが形になれば、社長を助けられる。


「さて、やりますか」


 俺は社長の部屋から外に出ると、廊下でその魔法の練習に取りかかった。

 魔法陣の描き方がまず黒魔法と全然違う。描き方に習熟しないと、何の効果も発揮できずに終わってしまうだろう。


 土の上じゃないし、線が引けるわけじゃないので、魔法陣が作れているかはわかりづらい。それでも、集中して、線に力を込める。


 高度な魔法とはいえ、俺の中には白魔法使いの最低限の素質はある。


 一時間ほど、その場で練習を繰り返した。黒魔法と比べると、ずいぶん難しいというか、体が慣れてない印象を受ける。やっぱり、俺は黒魔法使いの血筋だったのかなと思わされる。


 それでも、あくまでも俺はもともと白魔法から魔法を覚えたわけだ。勘所はつかめる! 粘り強くやれ!


 そして、付け焼刃の練習を終えて、俺は社長の部屋に戻ってきた。


「社長、一発で成功するかはわかりませんが、病気の際に抵抗力を高める魔法、試させてもらえますか?」

「それはもちろんかまいませんが……すぐにものにするのは難しいのでは……」

 社長もまさか俺が自在に白魔法を使えるとは思ってないだろう。


「やれるだけやってみます!」

 失敗して失うものはない。

 心を落ち着けて、真心を社長にぶつけるつもりで。


 それが白魔法の本来のあり方だからだ。


 詠唱を行いながら、俺はゆっくりと魔法陣を描いていった。


 これまでで一番形になっている、そう思った。


 自然と体が動いているようだ。練習の時はこんなに自由に、楽しく動くことはできなかった。

 そう、変な表現かもしれないが、楽しいのだ。

 緊張感みたいなものが抜けて、まるでダンスでもしているような気持ちになっている。


 俺は最後に杖を社長のほうに向けた。


 きらきらと宝石のような発光がわずかに起こった。


 魔法の効果的に劇的な変化はわからないけど、おそらく魔法は成功した……と思う。そもそも、自分が成功したことのないものだから、わからない。


「ど、どうでしょうか、社長?」

 ケルケル社長本人に聞いたほうが早いかなと感じて、そう質問した。


「こちらに寄っていただけませんか?」

 不思議な答えが返ってきた。俺は言葉のとおりに従う。


 俺の頭にぽんと手を載せられた。


「本当に立派な魔法使いに成長されましたね!」

 お礼を言われたというより、褒められた。


「魔法はきっと効きましたよ。体がぐんと楽になりましたから」

 よかった。もう、今はその気持ちしかない。


「かなり高度な魔法なんでダメ元だったんですけどね」

「フランツさん、魔法と一体になっていましたよ」

「魔法と一体?」


 少し不思議な表現だと思った。


「はい。魔法使いが、一段成長した境地に至ることを、魔法と一体となると言うんです。さっきのフランツさんはまさにそんな印象でしたよ」


 一体となるというか、一生懸命といったほうが気持ちとしては正しいんだけど。


「体の抵抗力が上がった気がします。もうひと眠りもすれば回復できそうです」

「じゃあ、俺は部屋で見守っていますね」


 そうして、眠りについた社長を見ていたのだけど――

 慣れない魔法を使ったせいで、体にぐっと負担がかかったような……。


 白魔法でも分不相応な高位の魔法を使ったから、その分、疲れが出たのか――



 目が覚めたら、体にタオルケットがかかっていた。

 というか、座っている椅子もいつのまにか安楽椅子に代わっている。


 だとしたら、やってくれたのは――社長しかいない。


「あっ、お目覚めになられましたね」


 目の前にはずっと穏やかな顔になっている社長がいた。

「すいません、俺が寝てしまってましたね……」


「慣れない特殊な魔法を使いましたからね。私のほうは一時間も寝たら、すっかりよくなりました。そのあとはずっと本を読んでいましたけど、ぶり返した様子もありません」


 もしかして、時間がすごく経っていたのかと思ったら、夜十時前だった。かなりぐっすり寝てしまっていたらしい……。


「すいません、社長も回復したようですし、もう帰りますね……」

 けど、ゆっくりと社長が俺の前に近づいてきた。


「せっかくですし、黒魔法の継承式をしていきませんか?」

 俺はどきりとした。

 過去に社長とやった黒魔法継承式は、モロにえっちいことだったからだ……。


ダッシュエックス文庫2巻は9月後半発売です! 今、イラストレーターさんがイラストの大詰め作業やってるようなのでもうちょっとイラスト公開とかはお待ちくださいw

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