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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
サキュバスの自分探し編

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121 アイドルの勧誘

 こうして俺たちはリディアさんの自分探しの旅について聞くことになった。


「あのね、私ってさ、どっからどう見てもサキュバスじゃん?」

「それは、まあそうですよね」

 セルリアとは、少しタイプが違うかもしれないが、とにかくサキュバスであることは間違いない。こんな露出度の高い服装をしているのはサキュバスぐらいしかいない。全裸が落ち着くというトトト先輩みたいな例外もたまにいるんだけど。


「それでね、サキュバスの仕事ってさ、まあ……そういうことをやるわけでしょ」

 リディアさんはぼかしたけど、その内容がわからない大人の男は誰もいないだろう。

「でもね、そういう生き方をしていくのってさ、ほら、アレじゃん? 決められたわだちの上を走っていってる的なところあるじゃん? それって、自分の可能性を狭めてるようなところがあるって思うんだよね」


「ああ、だいたい言いたいことがわかってきましたよ」


 リディアさんはそこで自分の胸にぽんと手を置いた。

「だからさ、私は人間の世界に出て、あえてサキュバスっぽいことをせずに働いてみようって思ったの。もしかしたら、サキュバス的な生き方より向いてることがあるかもしれないしさ。それで新たな自分が発見できたらラッキーじゃない?」


 俺はいつのまにかうなずいていた。

 セルリアも感動したような瞳で、立ち上がって、リディアさんの手をぎゅっとつかんだ。


「素晴らしいですわ! 自分に真摯に向き合ったがゆえに、そんな結論に至ったんですわね! ご立派と言うしかありませんわ!」

「ありがと。妹のあなたにそう言ってもらえてすごくうれしいわ」


 たしかに、自分の将来が若いうちから定められているって、納得しづらいところはあるよな。もちろん、将来が不安な奴からしたらうらやましいんだけど、複数の人生を生きることはできないから、相手の気持ちは本質的にはわからない。


「ちなみに、今後の予定とか計画は決まってるの?」

 身内でもなんでもないメアリは、離れたところから冷静に聞いてくる。

「先週から王都の部屋を借りて、バイトしながらお金を貯めてるの。あっ、エロい仕事は禁止してるよ。それをしちゃったらサキュバスと変わらないからね。そこはエロ禁止縛りをやってるの」

「そっか。まあ、いいんじゃないかな? 長い人生なんだし、いろいろと試してみるべきだと思うよ」


「うん、そうするわ」

 元気よくリディアさんもうなずいた。その快活な笑みは、セルリアにはない魅力があった。

「今日はごはんありがとうね。食べ終わったら帰るわ」


「あの、お姉様、この家でしたら一部屋は空いているんですが……」

 リディアさんは手で否定を示した。

「できるだけ人の手は借りたくないの。部屋も借りてるし、そちらで暮らすわ。たまに遊びに来るぐらいは許してほしいけどね」

 けっこう、しっかりしてるな、この人。ほんとに一種の修行みたいなのが目的なんだな。


「リディアさん、いつでも遊びに来てくださいね。王都の生活は魔界とはかなり勝手も違うでしょうし」

「そうね。フランツ君とも会いたいしね。仕事でないんだったら、また、してあげるけど?」

 ふふふっと妖しく笑うリディアさん。

 こういうこと、サキュバスはナチュラルに言うので困る……。


「そういうのはいいです! それに俺にはセルリアがいますから」

「お姉様と一緒というのも、たまにはいいかなと思いますけれど」

 セルリアがとくにこだわりもなく提案する。

 ああ、もう! 男の欲望を確実に刺激してくるな!

「ある意味、本望だけど、そこは理性で断る!」


 そのあと、リディアさんは食事のお茶を飲んで、元気よく帰っていった。


「可能性を広げていく姿勢、立派ですわね」

 意識の高いセルリアは本当にリディアさんを讃えているようだった。

「そうだね。このまま成功してほしいね」


 ただ、世慣れてるメアリがまた、少し不安そうな顔をしていた。

「志はすごく高いんだけどね。だからこそ、騙されたりすることがあるんじゃないかって不安がなくもないなあ」


 王都はいろんな人間がいるから詐欺師みたいなのもいるんだろうけど、ひとまずはリディアさんの未来が開けることを祈っていよう。



 そして五日後。

 リディアさんが夜、俺たちの家に来た。

「こんばんは! 私、スカウトされちゃったわ!」

 なじみのない言葉がリディアさんの口から発せられた。


「スカウト? いったい、何にスカウトされたんですか?」

「私が軍隊にスカウトされるわけないから、だいたい察しがつくでしょ。ほら、都市部で活躍してる歌手グループとかあるじゃん? 三人組とか五人組とかで歌って踊るやつ」


「ああ、アイドルのことですか」

 アイドルという言葉はもともと偶像を意味していたが、そのうち、歌と踊りで観衆を熱狂させる人たちをアイドルと呼ぶようになった。


 そして、はっきり言って華のある職業だからなりたい人間は腐るほどいるし、中には倍率千倍や二千倍の狭き門のオーディションを受けないといけないことも珍しくないという。

 そしてオーディション以外にも事務所の関係者によるスカウトという方法も昔から行われていた。その程度はアイドルにたいして興味がない俺でも知っている。


「それは本当にすごいことですわ! サキュバスという一種族としても鼻が高いですわ!」

 セルリアも思わずガッツポーズを決めていた。たしかにアイドルというのは花形中の花形だ。演劇の人気俳優に匹敵するような芸能人だし、というか、アイドル出身で人気俳優になることも多い。


「チラシ配りのバイトしてる時に声をかけられちゃった。今度、王都の事務所に来てほしいだってさ! 人間も私の魅力を認めたようね!」

 リディアさんもドヤ顔をしている。今日ぐらいはとことん偉そうにしておいてもらおう。


 しかし、メアリだけが明らかに祝福ムードとは違う顔をしていた。

「その事務所の名前と場所ってわかるかな?」

「えー、芸能人も出入りしているから、秘密にしておいてって言われてるんだけど、まっ、いいか。ここだけの話ね。『王都外延部の北放浪傭兵通りの七番地五号』よ。会社名はニュー・オーシャン芸能事務所ね」


 すぐにメアリはそれをメモしていた。不安があるんだろうけど、俺としては名前を聞いて、むしろほっとした。

「ニュー・オーシャンってかなり有名ですよ! 人気アイドルもいくつも所属してる!」

「そうなんだ! じゃあ、ガチのやつだね! 私、王都一のアイドルになっちゃったら、どうしよ!」


 はしゃいでる俺たちの横でメアリだけが一歩引いた位置にいた。


明日、コミケですね。参加される方はお気をつけて! まあ、自分もサークル参加するんですが……。

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