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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
サキュバスの自分探し編

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120 姉との再会

 運動会も終わって、秋も次第に深まってきた。


 俺は着ている服がこれまでより厚手のものに変わった。まだ、日が照っている時間はいいのだけど、日が暮れてくると途端に涼しくなってくる。

 とくにこの会社の仕事は、外でインプを使役するようなものも多いので、服も外での作業で冷えないものにしないといけない。


 一方でセルリアはやせ我慢なのか、ずっと露出度の高い服を着ていた。

「セルリア、もう諦めて、追加で一枚着たら……?」


 見ているこっちが寒くなってくる。どう考えてもセルリアの服(服というか布だけど)は夏向けであって、秋や冬を乗り切るものではない。夏だからって、一般人が着てていいものじゃないけど。


「以前にもお話ししたことがありますが、露出度の低いサキュバスなんてものは、サキュバスの存在意義を否定することにすらつながるものですわ。なのでなんとか乗りきりますわ」


「でも、風邪ひくんじゃないかな……?」

「サキュバスもインキュバスも風邪には強いのですわ。というか、長い時間をかけて、寒くても風邪をひかないサキュバスやインキュバスだけが生き残って子孫を繁栄させていったと言いましょうか」


 なるほど。人間社会でも、相当寒い地域なのにほぼ裸の民族がいたとかいう話だし、ありえない話ではないかもしれない。

 とはいえ、寒そうに見えるのは変わらないが。


「ほら、王都で働いているサキュバスも肌をあらわにして働いているはずですわ。負けてられませんから」

「でも、そういうサキュバスは基本的に建物の中にいるだろ」


 王都で働いているサキュバスはつまり、そういうお店で働いている者たちだ。とはいえ、サキュバスのお店はものすごく値段が高いという話で、あまり俺は気にしたことがなかった。普通の給料の庶民が入れるような店じゃない。


「だからといって、負けるわけにはいきませんわ、うっ……は、は、くしゅ!」

 セルリアがくしゃみをしたので、俺はその背中をさすってやった。

「ほら、これで少しはぬくくなったか?」

「はい、ありがとうございますわ。ご主人様はおやさしいですわね」


 どの種族にも、種族特有の問題があるものだな。



 その日の仕事終わり、俺とセルリアは買い物に出ていた。ちょうど日暮れ頃のタイムセールに間に合う時間だったからだ。

 ちなみにメアリには部屋の掃除をその時間、お願いしている。とんでもない魔族に平然と掃除を頼んでいる俺っていったい何なんだろうと思うけど、家族だからな。そこは役割分担だな。


「お願いしまーす、お願いしまーす。居酒屋『居眠りコブラ亭』、オープンしましたー」

 城下町を歩いていると、なにやらチラシを配っていた。

 居酒屋のチラシならこの時間に配るのは妥当だからな。


「このチラシをお持ちの方、一杯無料ですよー。どうぞー。どうぞー」

 かなりチラシに人が群がっている。そんなに話題の店なのか、それとも一杯無料の声に惹かれたのかと思ったけど、理由がだいたいわかった。


 そのチラシ撒きをしている人の露出度がかなり高いのだ。ほとんど下着というか……。

 むしろ、翼も生えているし、あれはサキュバスと見て間違いないな。


 そういえば集まってるのも男の率が高い。怪しい店のチラシだと勘違いしている可能性もある。


「ああやって、バイトしてるサキュバスもいるのか。大変だな」

「サキュバスといっても、千差万別ですからね。中にはあえて、禁欲主義に生きることに決めた方もいらっしゃるそうですわ」

 そのサキュバスはいろいろ思うことがあったのだろうか。


 しかし、どうも、そのサキュバス、見覚えがあるんだよな。あのシニヨンの髪型、どこかで見たような……。


「あっ、フランツ君じゃん! 私、私! リディアだよ! そっか、このへんに住んでたんだよね!」

「セルリアの姉のリディアさん!」

 見覚えも何も知り合いだった!


「お姉様、どうして人間の世界に来てらっしゃいますの?」

 当然の疑問をセルリアは口にする。もちろん、リディアさんは魔界に住んでいるはずだ。


「う~んとね、話すと長くなるんだけど、自分の可能性を試してみたかったっていうかー」

 要領を得ない回答だった。つまり、どういうことなんだろう?


「そろそろこの仕事終わるし、あとで合流しない?」

「それでは、お姉様、買い物が終わった三十分後でいかがでしょうか?」


 こうして俺たちはリディアさんと合流して、俺の家に向かった。リディアさんは近くで飲まないかと言っていたが、メアリが家に待っていたのだ。



「うん、やっぱ、セルリアの料理っておいしいね!」

 リディアさんは喜んで夕飯を食べていた。はからずも、姉妹の再会になってよかった。


 ただ、セルリアは素直に喜んではいられないといった感じだった。

 まだリディアさんが王都にいた疑問が解けていないのだ。


 なにせ、セルリアの実家とは過去にいろいろあったし、また何かセルリアを連れ戻すような話になるんじゃないかという危惧を抱いてもしょうがないだろう。俺だって、それをまったく警戒してないと言えば、ウソになる。


「それで、お姉様、今回はどういった事情で王都にいらっしゃったのですの? しかも、あんなふうに働いていらっしゃいましたし」

 料理が半分ほどなくなったところで、セルリアが本題に入った。


 そういえば、チラシを配ってたんだよな。となると、セルリアと会うのは目的じゃなかったのか。いよいよ謎が深まる。

「言っても何も問題ないんだけど、先に一つだけ約束して」

 少し真面目な顔になるリディアさん。

「絶対に笑わないこと。それを守らなかったら激おこだからね」


 俺も自然とうなずいていた。突拍子もないことでも本人は真面目ということはありうる。メアリも同じように「笑わないよ」と言っていた。

「わたくしがお姉様を嘲笑することなどありえませんわ。お話しくださいませ」


 これで契約成立だ。


「私はね、自分探しをしてるの」


 …………変な答えが来た。


「それで、魔界だと近場すぎて気持ちが入らないっていうか、ホームでは探してる感もないっていうか、いろいろあってさ、人間の世界に来たわけよ」


 たしかに俺たちは笑わなかったが、その代わり、ぽかんとしていた。

 じ、自分探し……? 探すのは勝手だけど、なぜそれで王都でのチラシ撒きになるんだ?


「あっ、お前は何を言ってるんだって顔してるし……。でも、いいや。自分探しがどういうものかもっと詳しく語るから、しっかり聞いてよね。そこんとこよろしく!」

 やっぱり、リディアさん本人は大真面目なんだな。

というわけで今回から「サキュバスの自分探し編」スタートです! ダッシュエックス文庫2巻の作業も進んでます! 9月発売予定です!

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