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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法運動会編

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119 真実の愛で走り抜け!

 そして、足元から魔法陣が発光した!

 さあ、どんな魔法陣だ?

 リズムを崩すようなものか?

 それとも体力が急激に低下するようなものか?


 この魔法陣の内容次第で、勝敗が分かれる!


 体が妙に火照った気がした。

 なんていうか、もんもんとするというか……。

 心なしか、魔法陣周辺の空気がピンク色に見える。


「ああ、これはテンプテーション……誘惑術の魔法ですわね!」

 セルリアが叫んでいた。

「愛欲を急激に高めて、試合への意識すら奪ってしまうトラップですわ!」


 ある種、黒魔法らしいトラップだけど、トラブルになりそうなものを仕掛けてきたな……。


 俺たちの横でトップ争いをしていた男二人のチームにもその影響はモロに襲い掛かっていた。


「俺、なぜかお前のことが……」「実は俺も……」


 なんと男二人が二人三脚中に抱き合いだした!

 そのまま二人はキスをしているように見える……。あれ、愛し合ってたならいいけど、そういうの関係なしに魔法で理性を失っているとしたら、かなりきついものがあるな……。


「おやおや、あれではもはやゴールにたどりつくという目的も頭から消えてしまっておるのう」

 黒魔法協会の会長、『焚刑ふんけいのエゼルレッド』が他人事のように言っていた。やっぱり、無害化されてきているとはいえ、黒魔法の業界ってまだえげつないところが残ってるな……。


 後ろのチームもその誘惑術の魔法陣を見て、足を止めてしまっている。無為無策で突っ込んだら、ほぼ確実に巻き込まれるだろうから、躊躇するのはわかる。


 いや、ほかのチームのことばかり考えている場合じゃない。

 この魔法は俺たちにも確実に効いている。


「フランツ、わらわ、えっちな気持ちになってきちゃった……」

 とろんとした目でメアリが言う。事前の対策をしていれば別だが、そうでなければメアリみたいな上級魔族もこの魔法は効いてしまうようだ。

 そして、もちろん俺も喰らっている。


「俺も、メアリと、そういうことしたいかな……」

 ただでさえ、二人三脚中だから二人は密着しているのだ。メアリの心臓の音すら聞こえてくる。


 もう、この二人三脚の紐すらほどいて一つになりたい。

 そんな欲望に体も心も支配されていく。


 俺の足がゆっくりと紐のほうに伸びていく。こんな競技なんてどうでもいい! もっと自分の気持ちに忠実になりたい!


 でも、紐に俺が手を置いた時――

 同時に俺の手の上にメアリの手が重なった。

 きっと、それはメアリも誘惑術の魔法を受けてしまったから起きたものだろう。意図は俺と同じものだったろう。


 だけど、メアリの手に触れて、ふっと我に返った。

 いや、ちょっと違うな。ちゃんと、愛に目覚めた。


「メアリ、こんな魔法の効果で作られたものなんて真実の愛じゃない」

 どっちかというと、俺自身に言い聞かせるように言った。


「魔法なんて振り切ってゴールしないか? そのほうがかっこいいだろ?」

 メアリの熱っぽい視線にも理性の光が宿った。

「そうだね。わらわがこんな魔法にいいように使われるだなんて癪もいいところだし!」


 俺たちは再び、前を向いた。

 ゴールはもう目の前にある。


「二人三脚ってこんなに速く走れるんだね。フランツと心が一つになってる感じがする」

「俺も同感だ」

 俺とメアリの足のタイミングが見事に一致している――というわけではない。むしろ、常にずれている。

 だけど、そのずれを二人がすぐに修正して消してしまう。だから、バランスが崩れることもなく、次の足がまた出る。


 俺たちはゴール直前になって、さらに加速して――

 ゴールのラインを越えた!


「俺たちが一位だ!」

「やったねー!」


 俺たちは紐をほどかないまま抱き合って、そのまま体勢がおかしくなって、地面に倒れた。

 でも、そのまま笑っていた。


 ああ、心が通じ合っていればミスだって笑い飛ばせるんだな。


 そこにセルリアが拍手しながらやってきた。

「感動しましたわ! お二人はしっかりと困難を乗り越えましたわね!」

「ありがとう、セルリアのおかげだよ」


 そのセルリアは俺とメアリの二人を同時に抱えるように抱きついた。

「よかったですわ! お二人とも、最高ですわ!」


 メアリは「できれば、今は二人で抱き合ってたかったけど……まあ、家族だしね」と、ちょっと複雑な心境を吐露していた。



 すべての種目が終わり、結果発表の時間が来た。

 黒魔法協会の会長、『焚刑のエゼルレッド』さんが壇上に立つ。


「三位はシカバネ商業、二位はネオ・サクリファイス、そして――二人三脚で一位を取ったネクログラント黒魔法社が逆転で総合一位じゃ!」

 俺たちはその場でぴょんぴょん跳ねて、喜んだ。


「一位のネクログラント黒魔法社には、賞状・トロフィー・優勝旗・チャンピオンベルトと――」

 やたらといろいろくれすぎだろ。

「――副賞として、最高品質の象牙製の杖を贈るのじゃ。代表者は取りにきたまえ」


 ケルケル社長とファーフィスターニャ先輩が俺の肩をぽんと押した。

「フランツさん、どうぞ」「ここは後輩君が行くべき」


 俺は促されるようにして、ごてごてしたアイテムと杖をもらった。


「この杖、銀貨200枚ぐらいしますよね……。ほんとに高級品ですね……」

 俺は杖を落とさないように慎重に会社チームのほうに戻っていった。


「その杖はフランツさんが使ってください」

 あっさりとケルケル社長が言った。

「い、いいんですか……? ほら、この杖、新人の格で使うものじゃないというか……」

「実力で勝ち取ったものだから、いいじゃないですか。その代わり、これまで使っていた杖を返してもらえればけっこうです」


 あ、そういえばずっとコウモリが頭の部分に彫ってある杖を社長から借りていたというか、もらっていたというか、使っていたのだ。いい杖は値段が張るので新人は持てない。どうしても会社から支給されたものを使うことになる。


 誰も異論がある人もいないようだし、俺はその象牙の杖をもらうことにした。


 この杖が似合うような大魔法使いにならないとな。



 ――そして、その日の帰り。

 帰路に安っぽい神殿みたいな建物が目についた。


===

 ホテル ラヴ・フォーエバー ご休憩 銅貨四枚から

===


 あ、もう完全にあっち系の宿だ……。

 少し、メアリが俺の服を引っ張った。

「わらわ、運動して疲れちゃったな……休みたいな……」


 そういえば、誘惑術は乗り切ったけど、それを受けた事実はあるんだよな……。

「わかった。じゃあ、休憩しようか……」


 セルリアに「行ってらっしゃいませ~」と手を振られたけど、そこはできればそっとしておいてほしかった。


「わらわ、汗かいちゃったし、シャワー浴びたいなあ……」

「……うん、そうだな」

「フランツも汗臭いでしょ? 一緒に入らない?」

「……わ、わかった」


 そのあと、俺はメアリとの特殊な休憩により、運動会よりも、もっとくたくたになった。


運動会編はこれにておしまいです! 次回から新展開です!

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