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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法運動会編

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115 杖道対決

 そのあとも変な種目がいろいろと行われた。


・羊の品種当て競争


・ヤギの品種当て競争


・どこの沼の水か当ててみよう競争


「スポーツの要素がないのが多すぎる!」

 途中でさすがに俺もツッコミを入れた。


「まあ、例年どおりですかねえ」

 社長は参加しない種目ではパンを食べている。


「なんか、かなりゆるい大会なんですね……」

「こういうのはレクリエーションの場ですからね。でも、次のプログラムはガチですよ」


 いったいなんだろう。邪神召喚対決とかだろうか。それはそれでスポーツと関係ないけど、羊の品種を当てるよりはまだそれっぽいだろう。


 そこには「杖道」と書いてあった。

 また、謎の種目名が……。


「それは、杖を持って敵の頭を攻撃する種目ですよ。まあ、護身術みたいなものですかね」

 社長が簡単に説明をしてくれた。

「たしかに、杖ってかなり頑丈ですもんね。頭をぶん殴れば、敵に致命傷を与えるぐらいの威力はありそう」

「これにはファーフィスターニャさんが出場していますよ」

「あれ、先輩って最初、いましたっけ……?」

「今、遅れて到着しました。寝坊したうえに、道に迷って、諦めて帰ろうとして、途中で思い直して、また会場を探して到着したそうです」


 かなり適当だな……と思ったが、たしかにファーフィスターニャ先輩が試合の場となる円形のフィールドに立っていた。

 杖はかなり細身のもので、そこまで長くもない。

 一方、敵の男の魔法使いは漆黒のぶっとい杖を持っていた。


 審判が試合開始を告げる。


 ファーフィスターニャ先輩に向かって、まず男の魔法使いが突っ込んでくる。

 その杖で頭を狙う! おい、かなりえげつない競技だな!

 運動会だし、ケガとかした時用に、回復担当の救護班もいるんだろうけど、それにしても大ケガするぞ!


 それをファーフィスターニャ先輩はさっと杖を出して受ける。

 いつもののんびりした先輩と違って素早い動き――――というわけでもなく、普通に遅かった。

 ギリギリだった。もうワンテンポずれていたら、頭にクリーンヒットして倒れてたぞ。


「むっ、おぬし、こちらの動きを読んで、わざとギリギリで杖を出したな?」

 男の魔法使いが言った。そういうものなのか……?

「好きなように解釈したらいい。解釈はそちらに任せる」

 涼しい顔というか、眠そうな顔で、ファーフィスターニャ先輩は言った。


「ならば、このまま力で打ち倒すまでよ!」

 男の魔法使いはぶんぶん杖を振り回して、このまま先輩を押し切りにかかる。


 だが、先輩は何度も危ういところはあったものの、攻撃を間一髪のところで防いでいた。

 しかし、かろうじて防いでいるだけという状態で、見ていて心もとない。


「あの、社長……このままだと先輩が大変なことになるんじゃないでしょうか……?」

「大丈夫です。ファーフィスターニャさんは杖を使った護身術を体得していますから」

 社長はまだのんびりとかまえて、さらにパンを食べていた。パン、好きすぎるだろう。

 

 敵の男はこれは勝てると踏んだらしく、追撃をゆるめない。かなり体力を消費しそうな戦法だが、攻め時に見えてもおかしくないかもしれない。


「さあ、いいかげん降参しろ!」

 男が大きくファーフィスターニャ先輩との距離を詰めた。まずい。このままじゃ、とても防ぎきれない!


 しかし、そこで意外なことが起きた。

 先輩が攻撃に転じたのだ。


 杖をさっと振り――

 同時に男に打ちかかると見せかけて――

 さっと真横に振って、敵の股間に一撃を決めた。


「ぐ、ぐあああああああああああ!」


 男が悶絶した。わかる、その気持ち、痛いほどにわかる!


「というか、は、反則じゃないんですか!?」

「杖道は本来、女性魔法使いの身を守るために開発したものなので、問題ありません。敵の弱点を的確に攻撃するのも、また技の一つなんです」

 そう言われれば納得はできるけど、あの敵がかわいそうすぎる……。


「隙あり。チャンス」

 痛みに耐えようとぴょんぴょん跳ね回ってる男の頭を先輩が容赦なく攻撃していって、そのまま叩いて、ポイントを得手、勝利した。身を守るためだから手段を選ばないんだな……。


 こうして第一回戦を勝った先輩は準々決勝も準決勝もかろうじて敵の攻撃をかわして、勝利を収め、ついに決勝となった。


 いつのかにか、メアリもセルリアもものすごく真剣に試合を見学していた。


「こういう観戦も面白いね、フランツ」

 俺もメアリの横に座って、決勝戦を見守ることにした。

「残り一つだからな。優勝してほいいな」


 先輩の戦いはいわゆる圧勝は一つもなくて、どの試合もひやひやものだが、だからこそ手に汗握る部分がある。

 しかし決勝の相手は、女性だ。初戦みたいな攻撃はできない。

 相手は髪は邪魔にならないように後ろでくくっていて、いかにも杖道の上級者という感じだった。


 先輩、本当に大丈夫なのかな。ケガしなきゃいいけど……。


「てーい」

 間の抜けた声とともにファーフィスターニャ先輩から攻撃!

 だが、動きが遅すぎる。なんと敵はこの細い杖を自分の手で空いている手で握ろうとした。

 これはなんとか回避したファーフィスターニャ先輩だが、不利には違いない。


「たしかに握られている間にもう片方の手にある杖で攻撃されたら万事休すだね」

「だよな……。ここに来て杖の細さが不利に働いてる……」


 かといってゆっくりしてはいられないと先輩も考えての攻撃だろうから攻めるしかない。


「てーい」

 また、先輩が間の抜けた声で攻撃する。ダメだ! 今度こそホールドされるぞ!


 案の定、敵はぎゅとその杖を握り――

「いたあああああああああああ!」

 悲鳴をあげて、手を離した。


「実は杖をつかんでくるスタイルと聞いていたので、事前に杖に針をひっつけていた」

 してやったりという顔にわずかに先輩が変化する。

 そんなカスタマイズって許されるのか!?


「護身のためには手段を選ばない、これこそ杖道」

 先輩がそれっぽいことを言った。ただ、セコいだけな気もするんですけど……。


 敵がパニックになっている間に頭に一撃を決め、ファーフィスターニャ先輩が勝利した。

 あ、あんなので優勝してしまった……。


「よくやりましたね。まさに心でも杖道を修めています」

 社長が祝福の拍手を送っていたが、いまいち釈然としないぞ!

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