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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
黒魔法運動会編

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113 運動会の会場へ

「とはいえ、あくまでも私たちのお仕事は黒魔法を使って社会を明るくすることです。これは仕事というよりは遊びみたいなものです。なので、参加したくないというのであれば欠席でかまいません。黒魔法と運動会なんて似合わないと言って、参加しない企業も多いですし」


 その話を聞いて頭堅いなと思ってしまった俺は、知らないうちに社長に毒されているのかもしれない。そりゃ、お世辞にも似合っているとは言えないだろう。


「わらわはパスかな。こんなのやってもしょうがないよ。しょうもないって」

 メアリがつまんなそうな顔であくびをした。そういえば、スポーティーな雰囲気はメアリにないんだよな。運動会だとチームを組むだろうけど、集団行動とかも、あんまり得意じゃなさそうだし。


「それに、会社同士で競い合うんでしょ? あんまり得意そうな人っていないじゃん。ファーフィスターニャは走るのだって遅そうだし、運動できそうな面子も、サンソンスーは仕事がら持ち場を離れづらそうだし、トトトもドラゴンスケルトンの仕事が空いてなければ参加できないよね」

 げっ。メアリが合理的な理由を並べてきた。

 それからメアリは俺のほうをちらっと見る。


「フランツだってどうせ魔法学校時代は運動が苦手でモテないタイプだったでしょ?」

「運動がが苦手なのとモテないのとは関係ないだろ……」

 そうは言ったものの、俺が運動が苦手だったことと、魔法学校時代にモテなかったことはどっちも当たっている。おそらく、運動が得意なほうがモテやすい気もする。


 困った。このままではメアリに論破されてしまう。


 でも、ここはあえてメアリの逆をいく。

「社長、俺は参加します!」

 はっきりとこう宣言した。


「ええっ? フランツ、本気なの?」

 俺がそう言うとは思っていなかったのか、メアリが意味がわからないという顔になっている。

「だって、これってレクリエーション的なものだろ。しかも、メタボ対策とかを兼ねてるってことは、運動が不足してる奴ほど出るべきなんだ。だったら俺が出るのは自然だ」

 それで、ここでもう一歩踏み出すぞ。メアリとの距離を詰める。


「そんな俺をメアリがサポートしてくれたらうれしいんだけど」

 メアリが今度はびっくりしたような顔になって、それから赤くなって、表情も少しゆるんだ。

「そ、そんなに言うなら出てあげてもいいかな……。この会社が最下位で恥をかいてもよくないしね……」

「よし、ありがとう、メアリ」

 できるだけ、ありがとうと言うように心がける。ありがとうと言われてムカつく奴はあんまりいないはずだ。


「それでは、ネクログラント黒魔法社は参加するということで書類を送っておきますね」

 ケルケル社長が笑顔でそう言った。


「わたくしも参加したいのですが、秋とはいえ、長く外に出ていると日焼けしてしまったりするでしょうか?」

 セルリアの悩みはそこらしい。もともと露出が高い格好だからな……。


「ああ、それなら大丈夫です。直射日光にはまったく当たりませんから」

「あら、夜間に行うんですの? それとも、屋内なんです?」

「屋内と言えば屋内になるんでしょうかね」

 どことなく、含みのある表現で社長が言った。


「それと、フランツさんは少しラッキーかもしれませんね」

 なんだ、ラッキーって……。



 そして、運動会当日がやってきた。

 俺たちは広大――と言えなくもない地下空間にいる。


 ずばり、そこは古代の地下墓地だった。

 地下墓地内は整然と墓が並べられていて、とくに重要人物の墓の前は参道のようにまっすぐ道が伸びているので、それなりの直線も確保できる。百五十メートル走ぐらいはできそうだ。地面が土じゃなくて石畳だけど、そこまでたいした違いじゃないだろう。


「社長、こんな場所が王都付近にあったんですね……」

「はい。ここはかつて、国教となっていなかった宗教の遺跡なんです。地上にお墓を作ることを許されなかったので、仕方なく地下に大規模なお墓を作ったということですね。今はその宗教自体が廃絶したので、使っても問題ありません」


 怒ってアンデッドでも出てきそうだなと思うけど、黒魔法の運動会をやる場所としてはむしろ正しいかもしれない。


「あと、社長がラッキーと言った意味がわかりました」

 俺は鼻の下が伸びないように、にやけないように注意して言った。


 社長もセルリアもメアリも参加者は体操着というものを支給されて、それを着ている。それで、この体操着の下のほうがブルマという服で、やけにお尻にフィットしているのだ(なお、男の俺は短パンというものを着ている)。

 うん、そのほうが運動しやすいというのはわかる。わかるけど、こう……お尻に食い込んでいるというか、形がはっきりわかるというか、なかなかいいものだ。


「ふふ、そうでしょう。このブルマという服には、どことなく背徳の香りがしますよね」

 社長がくすくす笑っている。社長の体型にはよく合っているので、そんなにいやらしさはない。でも健全さの中にある一滴のやましさがいい場合もあるのだ。


「ご主人様、早くも興奮してらっしゃいますわね。さあ、頑張って運動会を戦いますわよ!」

 元気にセルリアが手を振り上げる。興奮という言葉にびくっとした。変な目で見ているのがバレているのかと思った……。


「ああ、ご主人様、もしかしてこの体操着姿に劣情を催しました?」

「きっちりバレてた……」

「そうなんですわよね。ことさら露出が多いわけでもないのに、とくに上半身なんてすっぽり隠れているのに、なぜか効果がある気がするのですわ。これは本当に謎ですわ。まだまだ性の世界は奥が深いですわね」

 こんなところでもセルリアは勉強熱心なんだな。


 でも、その体操着が一番フィットしているのはメアリだった。

 本当に妹が運動会に参加するって感じがある。


「メアリ、そういう子供っぽい服、似合うよな」

「もう、フランツ、それ、褒められた気がしないよ」

 不満そうに頬をふくらませた後、メアリは表情をゆるめた。

「けど、それでフランツが満足なら悪くもないかな……」

 うっ、かわいい。今、ちょっとデレたよな……。


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