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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

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111 新しい出発と社長の愛人

 そのあと、起きたことをざっとまとめると――


 人間として認められたアンデッドたちは仕事を辞める者は辞めて、残った者たちはひとまずヴァニタザールの会社の社員となって、労働組合をそこで作ることになった。労働組合のほうでまともな労働条件を提示して、それでヴァニタザールに交渉した。


 ヴァニタザールもこれを認めて、アンデッドたちには住む家もないので、寮を作ることも決めた。


 これから先、ヴァニタザールとアンデッドがどうなるか、しばらくはケルケル社長も見守っていくと言っていたが、なんだかんだでいいように回る気もしている。


 その日の帰り、社長に言われた。

「ヴァニーにフランツさんをぶつけて正解でしたね」

「いや、社長、いくらなんでも、あれは無茶振りでしたよ……? どこに勝算があったんですか?」

 そりゃ、相手の精神状態は不安定だっただろうし、話し相手をつけるぐらいは意味としてわかるけれど。


「私の人選は完璧ですよ」

 ケルケル社長は胸を張った。

「フランツさんは人の痛みがわかる人ですし、人を否定しませんし、ヴァニーのお相手をさせるにはちょうどいいと思ったんです」

「そう言われると照れます……」


 この社長、人を乗せるの上手すぎるんだよな。そして俺もきっちり乗せられている。

「それと、相性的な面もありまして。ヴァニー、昔から年下好きだったんで。年下に説教されるのが好きな性格なんです」

 くすくすと社長は笑う。


「社長の古くからの知り合いならだいたい周囲の人間は年下だと思いますけど……」

 ヴァニタザールもどういうアンチエイジングをしているのか、単純に超長命なのかわからないけど、少し年上の先輩会社員って見た目なんだよな。


「ふざけてるように聞こえるかもしれませんけど、こういう時は新しい出会いで気持ちを切り替えるのも大事なんです。ああいう性格なんで、誰でも彼でもぶつけられませんし、ヴァニーを騙そうとするような人とくっつかれてもまた地獄みたいなことになって、闇落ちしちゃいますしね」

 この言い方だと、依存体質なのは本当なんだろうな。


「というわけでフランツさんならいいかなと判断したわけです。まさか、こんなに大成功だとは思いませんでしたけど」

「あの、社長、俺は具体的に何があったかは言ってないですよね……?」


 とてもじゃないけど、言えない。

 紫魔法の幻影で学生同士って設定にしたりとか、神殿にいる神官って設定にしたりとか、主人とメイドって設定にしたりとか……。


「フランツさん、それぐらいはわかりますよ。長く生きてるんですから。いろいろあったんでしょうね、いろいろ」

 社長にくすくす笑われた。



 俺とセルリア、メアリの三人はガーベラの待つ家に戻ってきた。

「お疲れ様!」

 ガーベラは俺たちの元に飼い主の帰りを待ちわびてる犬みたいに走ってきた。

 待たされるほうも不安だっただろうな。ガーベラもよく耐えたと思う。


 その日はガーベラが俺たちにお礼をしたいということで、料理を作ってくれた。といっても、そんなに器用なものは作れないのでクレープ生地で野菜やハムを巻いたようなものだった。


 食事をしながら、起こったことを丁寧に話した。


「というわけで、ヴァニタザールのところに戻って正社員の扱いで働くこともできるし、それが嫌なら出ていってもいい。出ていく奴にもヴァニタザールは退職金は出すらしい」

 人間になったからといって住む場所もお金もそのままではないので、ヴァニタザールにそのあたりの保障は約束させた。


「あの工場でも今後は値段が少し高いけど、その分、質のいいものを作るらしい。安かろう、悪かろうの大量生産はやめる予定になってる」

 ヴァニタザールはバカではないから、それでも利益を出せるように上手くやるはずだ。

 社長いわく、高価格帯のものを会社の規模をそこまで広げずに売っていくのだろうとのこと。大企業的な展開は起こせないが、社員の幸せを考えると、悪い選択ではないようだ。

 

「そっかー。あそこで働くと嫌なことを思い出しそうだし、心機一転違うところでやろうかな」

 それも当然だろうな。


「本当にありがとうね。みんなに拾われなかったら、ワタシはまた違う種類の絶望を味わっただけだと思う」

 ガーベラはこれまでにないほど、真面目な顔をしていた。


「だとしても、つらい環境から逃げ出す決断をしたのはガーベラさんですわ。それだけでも立派なことですわ」

 セルリアが慈愛に満ちた笑みで言った。


「うん。ありがと。家は別に借りるつもりだけど、またここにも遊びに来るからね!」

 ガーベラの笑みは出会った頃のすべてを諦めたような笑みじゃなくて、未来を夢見ている者の笑みだった。



 ガーベラは王都に部屋を借りて、今はアルバイトをして暮らしている。

 夜に寝ないと健康に悪いとかそういうことがないので夜勤の仕事で高めの収入を得ることにしたという。たしかに合理的かもしれない。


 俺のほうは事件は一段落ついたものの、やたらと出張が増えた。


「また、『ヴァニタザール開発』から適正な業務の移行ができているか監査に来てほしいとのことですよ」

「これで何回目ですかね……。週に一回のペースはいくらなんでも多いんじゃ……」


「こちらとしては向こうの会社からお金も出ているので断る理由もないんですよね。お願いできますか?」

 いたずらっぽい視線でケルケル社長が言う。


 どうして俺が呼ばれているかはだいたいわかる。

 また、ヴァニタザールが「悪徳」の限りを尽くすんだろう……。

 前回も前々回も仕事は一時間で終わって、あとは社長室に呼ばれたんだよな……。


「わかりました。やります。ある意味、黒魔法使いらしい仕事ですし……」


「はい、それは先方に連絡しておきますね♪ あっ、でも、大きな権力のポストとか打診されても、この会社は辞めないでくださいね」

「そんなことは一切考えてないので、大丈夫です!」


 しかし、この状態って女社長の愛人そのものだよな。

 俺は社長室を出て、ふぅ~とため息をついた。


 新入社員一年目からいろんなことが起こりすぎじゃないだろうか……。


悪徳ネクロマンサー編はこれにておしまいです。次回から新展開です!

ダッシュエックス文庫のほうも発売中ですので、よろしくお願いします!

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[良い点] ヴァニタザールちゃんもいいですね…
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