表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/337

107 人間になりたい

 俺たちが家に戻ってくると、ガーベラが笑顔で飛んできた。

「みんなが帰ってくるの、すごく長く感じたよー! よかった、よかったよー!」


 一人でいたガーベラはとても心細かったらしい。たしかに絶望的な環境で長く過ごしてきたから、孤独な時間も落ち着かないのかもしれない。


「ガーベラはあんなところにいたのか?」

 反抗しようとしたアンデッドの男が連行されていくのを俺たちは見てしまった。


 それで、ガーベラの表情も暗いものに変わった。


「そうだよ。工場自体は清潔感があるんだけどね。それはワタシたちアンデッドの作業能率がそのほうが上がるからでしかないんだ……。もし、全然働かなくなれば、紫魔法の呪符で洗脳されちゃう……」


 あそこはあまりにもディストピアだ。あんな会社が世界を席巻したら、世界中の製造業の会社がつぶれてしまう。


 寒いわけがないはずなのにガーベラは昔のことを思い出すと寒そうにする。

 とても見ていられなくて、俺はそっとガーベラを抱き締めた。


「ごめんね。まだ、トラウマみたいに記憶に残ってるや……」

「ここにいる間は大丈夫だ。お前をひどい目に遭わす奴なんていない」


「うん、ありがと……。人間じゃないワタシなんかを大切にしてくれて……」

「人間だとか人間じゃないとか、そんなの関係ないだろ」


 そう言いはしたけど、関係はあるんだよな。


 ガーベラが人間だったら、いくらでも手の打ちようはあった。

 国も人間が鎖につながれて働かされてる会社があれば、そこをつぶすぐらいのことはしただろう。すべてアンデッドが法的に人間じゃないせいで起きている問題なのだ。


「ああ、ガーベラたちを人間にしちゃう方法があればいいのにな……」

 でも、そんな時間を巻き戻すようなことはできないよな。死者としてここに存在して動いているものを生者にすることはどんな聖職者だってできないだろう。


「そういえば、ご主人様、わたくし気になることがあるんですけれど」

 セルリアが疑問があるのか左手の人差し指をくちびるにつけて、言った。


「この国の法だと、人間の定義ってどういうものなのですの?」

 それはとても奇妙な質問に思えた。


「そんなこと書いてないんじゃないかな……? 人間は人間としか言えないだろうし……」

「たしか、ホワホワちゃんたち沼トロールは税金は納めてなかったんですわよね。ということは法的にはカバーされてなかったんでしょうか」


 そう言われると、この国の法はザルというか、人間のラインって難しいなと思う。

「沼トロールだとか、山の中で生活してるゴブリンだとか、人数だとか住所だとかあいまいな連中は、国も把握してるのを諦めてるよな。だから、そういう連中は税金も納めてない」


 ゴブリンたちも自分たちが王国の民だとか思ったことはないだろう。個別に勝手に文化だとか組織だとかを持って生きている。

 そいつらと人間の間で大きな衝突がなければ、彼らは国からはスルーされていた。


「でも、王都には猫の獣人の方もリザードマンの方も歩いてらっしゃいますよね。あの方たちは『人間』として暮してらっしゃるようですが。すいません、魔族の感覚からすると区別がよくつかないもので……」

「いや、いいんだ。言いたいこともわかる。彼らは……人間だよなあ、確実に……」


 考えれば考えるほど、法律上の人間とそうでない者の違いが俺もわからなくなってきた。


「多分、王都で暮してるような奴らは、ちゃんと戸籍を持ってて、税金を払ってるってことかな……。その分、行政サービスも受けられるし……」


 ガーベラがもぞもぞと体を動かした。あっ、ずっと抱き締めたままだったな。

「戸籍かー。それがあったらワタシらアンデッドももっと楽に生きられるのかなー」


 そうだよな。アンデッドも人間という扱いになれば――――


「アンデッドが人間になれない決まりってございますの?」

 ごく自然に、セルリアがそう尋ねた。

「多分なんですけど、ルール上はアンデッドだと人間と認めないなんて書いてないんじゃありませんでしょうか?」


「セルリア」

 俺は真剣な目でセルリアの顔を見た。


「あっ、はい……わたくし、また何か見当はずれなことを言ってしまいましたでしょうか……?」

「ありがとう! きっとセルリアの言うとおりだ!」


 俺も元人間のガーベラもどこかで無意識のうちに決めつけていた。

 アンデッドは死者だから人間ではない、と。


 でも、それってたんに感覚上の問題でしかない。

 法的な扱いと感覚はまた違う。


「大至急、法律について詳しく調べてみる! ヴァニタザールに使役させられてるアンデッドを助ける方法もあるかもしれない! 図書館に行って法律に関する文書を――」


「フランツ、彫金細工は彫金細工屋だよ」

 メアリが魔界のものとおぼしきことわざを出した。

「法律に関することなら、専門家に聞いたほうが早いよ。社長がプロジェクトチームを立ち上げるって言ったぐらいなんだから、社長から法律のプロを紹介してもらおう」


 たしかに素人が法律の用語とか読んでも定義とか意味とか確定できなきゃ、なんにもならないし、効率も悪いよな。


 俺たちはすぐにケルケル社長のところに行って、会社が懇意にしている法律の専門家を紹介してもらった。


 その法律家は古代の哲学者みたいな風貌のおじさんだったが、話し方はいかにも専門家という雰囲気で、かなりギャップが激しい。


「――というわけでして、法律上は人間についての定義は一切書かれておりません。一言で言えば、自分は人間だと当人が主張すれば多くの場合、通ることになるかと思います。実際、ゴブリンの中には法的に人間ということになって、活動している人などもいます。社会活動を行う上ではそうでないと不便ですからね」


「先生、じゃあ、死者が自分を人間だと主張すれば、それはOKということですか?」

「ええ。そもそも会話をして、人間的な活動を十全に行える死者を法は死者と認識していませんので。今後、ルールが変わることはあるかもしれませんが、現時点での問題はないでしょうねえ」

 つまり、ガーベラは人間になれる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ